第二十五話 望外の掘り出し物
僕、ソラ、アイリス、ミュリエルさんにマーチさんを加えた五人で魔導馬車の近くに戻る。
「それでどんなものがあるの?」
「どんなものっていうか魔術関連のものなら結構何でもある。魔術の道具から趣味で集めていたものまで全て売ってくれやがったからな」
だからこんな怪しいありさまだと肩をすくめる。
「珍しがって来る客が多くても買ってくれないならどうしようもない。女性の魔術士だったからパウロナが買ってくれないかと思ってたんだが、あんなありさまだとな」
「あたしからもロナに聞いておくよー。まだ出発しないんでしょー?」
「そうだな。頼むよ。どうにかしないと荷物を積めないから困ってるんだ」
二人の話を耳に入れながら商品を見ていく。
売ったのが一人の魔術士であるからか同じものが何十個もあったりとかはしないようだけど、その分魔道具から魔導書に魔術の発動体と種類は豊富だ。
「へえ、本当に色々あるね……あれ、これは?」
積荷の片隅に積まれている本の山。
大小さまざまな本があるその中に、つい昨日見ていたのと同じ本が混じっていた。
「そこの本は左側に積まれてるのが使い込まれているやつ。右側に積まれているのが買ったもののほとんど開かれることのなかった新品同然の本らしい。そっちのほうがちょっと高いぞ」
右に積まれている本を何冊がどけてその本を取り上げた。
そのままパラパラとめくる。
間違いない、これは図書館で使っていた本と同じものだ。
「うん、これ買いたいんだけどいくら?」
「それは銀貨五枚、って本当は言いたいところなんだけどな。そんな分厚い本をいつまでも積荷の隅に置いときたくないから銀貨三枚でいいぞ」
「買った」
銀貨三枚であっても本としては高い部類に入る。
本もその材料もその都市で製造していないとなると少し高くはなるものの、魔術による材料調達や大量印刷により本自体の価値はそこまで高くはないからだ。
けれどまあこの本はなかなか見ない本ではあるしページ数も多い。
中古であることを考えても安いと言っていいだろう。
アレックスさんたちの知り合いだからおまけしてくれたのか。
「はい、まいど」
昨日の努力が無駄になることは少し残念だけど、これから約一週間写すのに時間を使わなくて済むのはありがたかった。
それに朝も思っていたけどこのままアイリスをずっと図書館にいさせてもいいものかと迷っていたんだ。
せっかく文芸の街に来たんだからどうせなら楽しい思いをさせてあげたいだろう。
この本があることによってこの都市から出ても勉強できるようになったのだから、この都市で無理して詰め込む必要はない。
「思わず買っちゃったけど他も見ていいかな?」
「ああいいぞ。どんどん買って積み荷を軽くしてくれ。安くしておくぞ」
実は、魔術関連の中古を買い取る商人は少ない。
なぜならどれもこれも需要がなくてなかなか売れないからだ。
確かに魔術士は多くいるし道具を求めるものもいないわけではない。
けれどずっと使われていた道具というのは使われていた属性で染まっている。
だから別の属性を使うものにとっては質の悪い道具でしかないし、その多少の違いにこだわるのは腕のいい者ばかりだから大抵は自分の魔力に馴染んだ売り物よりいい道具を持っている。
だから昔馴染みとはいえどもそんな売れない道具を大量に買い取ったこの商人も、またお人よしの部類なのだろう。
そんなことを考えながら、僕は新たにアクセサリー型の発動体、制御補助、魔力回復補助、魔力消費を抑えるものを一つずつ手に取った。
それに多少の魔力隠蔽の効果があるチェーンを加えた五つを買って、それらを組み合わせてネックレスにした。
あと別で銀色の腕輪も一つ買う。
他にも威力増強のアクセサリーとかもあるけどそれは今のアイリスには不要だ。
今の状態でさらに威力を高めるのはさすがに事故が怖い。
「こんなものかな」
「おう、まいどあり! こんなに売れるとは思ってなかったな」
「そうねー。あたしもロウルがそんなにお金を持ってるとは思ってなかったよー」
「あはは、まあ僕にも秘密があるわけだからね」
さらりとそう言って追及をかわす。
僕らの関係は、互いが互いの秘密を知っているけれどそこに踏み込まないからこそ成り立っている関係だ。
こう言っておけば彼らは立ち止まる。
「さて、アイリス。こっちむいて」
「は、はい」
何だろうとかしげたその首に、たった今出来上がったネックレスをかけてあげる。
うん、大きさは目測だったけど問題なさそうだ。
一歩引いて眺めてみる。
「アイリス、よく似合ってるよ」
「……ふぇ?」
ポカンと開いたままの口から間抜けな音がこぼれ落ちる。
その手がゆるゆると持ち上げられて首元に触れ、カチャンと軽い金属音が鳴る。
「……ふぇ!?」
ようやく状況を理解したのか顔を真っ赤に染めて高く飛びあがり、そのまま荷台の裏へと走って言ってしまった。
プルプル震えている頭のてっぺんだけ見えている。なんだかかわいい。
「…………」
ふと思い立ったので音を立てないように近づいて悟られずアイリスの後ろにたった。
そのまま肩を掴んでくるりと後ろを振り向かせた。
すぐ目の前に顔が来る。
「え、あ、あの」
「僕からのプレゼント、どうかな? 気に入ってくれた?」
「そ、それは……はい」
「なら良かった。あと、そういえば髪留めまだ買いに行ってなかったよね。この後買いに行こうか」
「え、そ、その、嬉しい、です」
最近の僕は少しおかしい気がしている。
それがアイリスと会ったからなのかソラと出会ったからなのか仮面が剝がれかけているからかなのかはわからないけど、今はアイリスを笑顔にするのが楽しくて仕方ないんだ。
恥ずかしがりながらも嬉しそうにしているアイリスを見るとそれだけで心が満たされる気がする。
こんな感情なんていつもなら上から仮面を重ねて覆い隠していたはずだ。
だからそうするのが当然のことであるはずなのに、今の僕はそうしたくないと思ってしまっていた。
そんな自分の変化に戸惑いながらも、それならそれでいいかと楽観的に思うようにしていた。
僕は今の自分を変えたくないんだ。
変に考え過ぎてこれ以上仮面が剝がれるのは避けたい。
前のことを簡単に思い出せているのは、すでに仮面が外れかけているからだということに気づかぬふりをして。
外れてしまえば否応なく別の自分になってしまうということさえ忘れたことにして。
……躊躇しなくなったのは、どうせ忘れてしまうからなのかもしれない。
僕はまだ顔に朱が指しているアイリスの手を取って、ミュリエルさんとポーチさんのいる屋代の方に戻った。




