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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第二十四話 秘された感情

「変わってないなあ」


 自己紹介をした後、僕らがどうやって出会ったのかを聞いたマーチさんがこぼした言葉がそれだった。

 アイリスについては何も伝えてない。


「いやまあ君が追われてた理由とかそこの子が捕まってた理由とか気になることはあるんだけど、とりあえずそれは置いておこう。それよりもな、本人の前でこういうのはあれだが追われてる奴をその理由も分からないのにいい奴だというのはどうなんだ」


 だろうね。

 彼らはどうしてこんななのか。

 忌子死すべしというのが常識の帝国で躊躇なく助けに走れるのだから。


「あん? それはロウルが信用できないって言ってるのか?」


 アレックスさんは気分を害したような顔をしている。

 表情については冗談だろうけど、言っていることは本気のようだ。

 でもそれはきっとまるで見当違い。


「あほか、俺はお前たちが人を見る前に判断してるのを馬鹿にしてるだけ」


 それになとマーチさんの視線がアイリスに……向こうとして止まった。

 怖がらせていることを思い出したのか少し心地悪そうに視線を戻す。


「そこの女の子を助けた理由はまだ聞いてない。聞いてないけど商人にとって噂は重要な情報源なんだ。だから結構色々知ってる。いくつか離れた町での騒動もだ」


 見るからに嫌そうな顔をしている。

 きっと嫌な予感が外れているように願っているのだろう。

 残念ながらその期待には応えられないんだけど。


「まさかだ、まさかとは思うが。それがその少女だとか、言わないよな」

「…………」

「あーもうわかった。もう何も言わなくていい。お前らはバカだ。自分たちの事情わかってんのか」

「仕方ないだろ! 見捨てられねぇんだから!」

「それを言っていいのは自分で自分の面倒を見きれる奴だけだ! 既に大変な状態なのに新たな問題を迎えに行くな!」


 二人がぎゃーぎゃー騒ぎ出したのでアイリスの手を取って距離を取る。

 ミュリエルさんとパウロナさんはこうなることを予想していたのか怒られるのを嫌がったのか、とにかく僕たち自己紹介しているタイミングですでに距離を取り始めていた。


「あ、きたねー。ちょっと待っててねー、すぐ終わると思うからー」

「うん。それは良いんだけど。アレックスさんがああやって怒鳴る相手って」


 まだあって数日だけど、アレックスさんがパウロナさんに怒鳴っているのはよく見た。

 僕らやアイリスはもちろんミュリエルさん相手も見たことない。

 けどあったばかりのマーチさんには遠慮なく突っかかっていっている。


「それは、えっとねー」


 二人してパウロナさんを見る。

 地面に飛び降りて伸びをしているソラに夢中でこちらの話は聞いていなさそうだ。


「アレクが怒鳴るのは心から信頼してる相手だけだからねー。あれはアレクなりの愛情表現なんだよー。本人としては無意識なんだろうけどねー」


 見てて面白いよねーと続けるその声音に含まれているのは憧憬と寂寥だけ。

 楽しさどころか幸福の感情すら読み取れない。

 これは悪いことを聞いたようだ。


「素直じゃないね」


 これはミュリエルさんが隠している感情だ。

 隠したいと思っている感情だ。

 これ以上踏み込み荒らすような無粋な行動はとりたくない。

 せいぜいがぽつりとどちらにも取れるような言葉を漏らすだけ。


 何も喋らず三人横に並んでぼーっと待つ。

 喧嘩する様を眺め。

 いつも通りソラに振られて落ち込む様を眺め。

 僕、ミュリエルさん、アイリスの間を飛び交うソラを眺め。

 行きかう人を眺める。


 そしてアレックスさんたちが言い争いを終えていたとしても、なんとなくその姿を眺め続けた。


「そこにいたか。今日初めて会ったのに待たせて悪かっ……パウロナは何をやってるんだ?」


 パウロナさんはソラに断られて落ち込んでるっていうだけだ。

 いつものこと。


「気にしなくていいよ。それでどうしたの?」

「気にしなくていいのか……」


 ミュリエルさんにも確認を入れて――当然すぐに頷いた――納得はできなくとも見て見ぬふりをすることにしたようだ。


「実はな、昔なじみの魔術士が引退することになって恩もあるからと色々買い取ったんだが、なかなか買い手がつかなくてな。見て行かないかっていうお誘いだ」

「へえ、面白そうだね」


 だから馬車の様子がおかしかったようだ。

 新品じゃなくて使い込まれたものだから余計にそう感じたのかもしれない。


「あたしは魔術使わないからねー。っていうかなあなあにして聞いてなかったけどー、ロウル君って魔術使えるのー?」

「あれ、言ってなかったっけ」


 パウロナさんの説明を聞いていて、アイリスには向いてないと思ったから僕が教えると言って、教えられるものなら教えてみなさいよとパウロナさんが啖呵を切って、僕が教えるようになって……うん、話してない。


「確かに言ってなかったね。僕は()()()()少しずつだけど使えるよ。でも僕のを買いたい訳じゃなくて」


 再び僕の後ろに隠れてしまったアイリスの頭に手をのせ優しくなでた。

 こうすれば不安定な彼女を幾分か安心させてあげることができる。

 逆にこうすることしかできないのが歯がゆいところだ。

 ソラは……何かをしているのか、袋の中にこもって顔さえ出していない。

 それなら先にアイリスの分かな。


「えっと、私、ですか?」

「そう、僕も一緒にいるからとりあえず見てみるだけ見てみよう」

「んー、ならあたしもついて行こうかなー。あっちはあっちで何とかするだろうしー」


 パウロナさんの側にはすでにアレックスさんが寄り添っていた。

 人通りの多い中で膝をついていたら驚くのは当然だけど、きっとすぐにいつも通りだと気づく。

 そしてそこからまたいつもの痴話げんかが始まるんだろう。

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