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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第二十三話 お人よしの商人

 競争と言われた二人はそろって悩み始めた。

 悩んだところでそうそう答えが出るものじゃないけど、なんて思っているとバタバタと走ってくる足音が響いてくる。


「よし、起こしてきたぞ! ほら、お前らも準備だ!」


 アレックスさんが勢い良く扉を開けて中に入ってくる。

 その服装は少し乱れていて顔も赤い……この短時間じゃ大したことはできないだろうけど、一体何をしてきたのか。


 面白がっている僕とミュリエルさんだけでなく、先のミュリエルさんの問いに対する答えを求めてアイリスとソラまでもがじっと見つめる。


「……な、なんだ。どうしたんだ。俺は何もしてないぞ」


 これは経験則だけど、何も聞いていないのに言い訳をしてくる人は大抵何かをやっている。


「それで、何をしたの?」

「だから何もやってねぇよ!」


 じーっと見られてとても居心地が悪そうだ。

 アイリスとソラが見ているのは全く関係ない理由なんだけど、どちらにせよ見られていることに変わりないからね。


「まあなんとなく分かるんだけどねー。寝起きのロナは寝ぼけてて遠慮がないからー」


 好きな相手が素直に遠慮もなしに甘えてくると。

 なるほど、本当に何もしてないみたいだ。

 振り払うことすらしてないから好き勝手されて服が乱れていると。


 なんて納得していると、今度はゆっくりとした足音が聞こえてきた。


「おはよう、まだ眠いわね」


 パウロナさんはあくびを手で隠しながら僕たちを見回して、ソラのところで笑顔になる。

 そのまま視線を横にスライドして、アレックスさんのところで止まった。


「どうしたのよ、そんな変な顔して」

「い、いや、何でもない! 気にすんな!」

「変なアレクね」


 パウロナさんにからかっている様子はない。

 本当に意味が分からないようで訝し気にしている。

 もしかしなくてもこれは覚えていないらしい。


「ね、ロウル君。面白いでしょー」

「確かに、そうだね」


 他人の色恋に口を出す趣味はない。

 でもそれはそれとしてこれだけ面白い状況なら見て楽しみはする。


「どうしたのよ」

「いやー、何でもないよー」

「うん、何でもない。それより待ち合わせがあるんでしょ? 準備してきたら?」


 それもそうねと言いながら席についた。

 そして朝食を宿の人に頼む。


「とりあえず先に朝食ね」


 お腹がすいたわと言ったパウロナさんは様子がおかしいまま突っ立っているアレックスさんに眉をひそめて……そのまま放置した。


「そういえばなのだけれど。あなたたちも一緒にどう?」

「あ、それならさっきアレックスさんに誘われていくことにしたよ。だからよろしくね」

「なるほど、そうなの」


 パウロナさんは再びアレックスさんに視線を向けて、どうしたのかしらと困惑して首を傾げた。


「あははー、多分今日はいつもより甘々だったんじゃないかなー」

「あまあま? 何よそれ」

「気にしなくていいよー」


 どういうことよと迫られてもミュリエルさんははぐらかし続け、やがて約束の時間に近づいたことでようやくパウロナさんは追及を諦めた。 






「確かこの辺りにいるって聞いてたんだが」


 都市の中の一つの広場。

 大きく賑わっているそこでアレックスさんは辺りを見回していた。


「あれじゃないかしら?」

「うん? あんなんだったか?」


 二人が見る先には人に囲まれた一つの露店があった。

 その横にはおどろおどろしい色の荷物ばかり載せた馬車が停められている。

 馬を結びつけるところがないから、魔道具の力で動く魔導馬車のようだ。


「うーんと、あ、合ってるっぽいよー」


 数人が立ち去って開いたすき間から店番をしている商人の姿がかいま見える。

 体格がよく大仰に笑う若めの男性だ。


「お、まじだ。なんであんな気味悪い荷物を積んでんだか」


 近づこうとした時ちょうど他の客も立ち去って、むこうもこちらを見つけたようだ。


「お、アレックスじゃないか! パウロナさんとミュリエルさんも。久しぶりだな!」

「おう、一年ぶりくらいだな、調子はどうだ?」

「そりゃもう絶好調だよ」

「そんな荷物まで引き受けるくらいか?」

「いやいや、これには事情があってね」


 二人は楽しそうに笑ってる。

 だいぶ気心の知れた関係のようだ。


「あの人とは前からの知り合いなの?」

「ええ、ちょっとした恩がある人よ」

「へえ、そうなんだ。いい人なんだね」


 どうやら彼ら三人はあの商人に()()()恩を感じているらしい。

 もしかして彼らの隠している事情に関係している人のか。


「でだ、アレックス。初めて見るやつらはあんたたちの仲間か?」

「おう、ちょっと前に行動するようになった。いい奴らだぞ」

「いい奴らね」


 胡乱げにアレックスさんを見ているけどその気持ちはわかる。

 アレックスさんたちは良い人だと判断するのが早すぎるんだ。


「まあいいや。完全に信用してないってわけでもないからな」

「おい、それはちゃんと信用できないってことか?」

「当たり前だ」


 スパンとアレックスさんの頭からいい音が鳴る。

 いったあ! とわざとらしく言って再び彼らは笑いあう。


「まあアレックスがどう言おうと自分の目で判断するんだけどな」

「それは商人にとって重要なことだ、だろ? もう耳にたこができるほど聞いたっての」

「こっちだってお前のこいつはいい奴だなんて言葉を何回聞いたと思ってる。って今はそんなことどうだっていいな」


 どうだっていいって何だよと憤るふりをするアレックスさんをおいてその男性はこちらに近寄ってきた。

 途端にソラは袋に顔を引っ込めアイリスは僕の後ろに隠れる。


「商人のマーチだ、よろしく。それと怖がらせてごめんな」


 マーチさんは軽く頭を下げて謝った。


 商人なのだから腹芸も得意だとは心得るべきだろう。

 しかしすまなそうに思っているその姿は、どことなくお人よしのアレックスさんたちに似たところを漂わせていた。

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