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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第二十一話 いくら写せども

 目の前でアイリスが熱心に本を読みこんでいる。

 先ほど呼び出した魔術言語の載っている本だ。


 魔術言語を扱うためには一にも二にもまず暗記。

 言葉を覚えないとどうしようもない。

 だから今の僕の役目はただ見守ることとアイリスの疑問に答えることだ。

 暗記について手伝えることはない。 

 魔術言語の暗記は魔術を扱うのなら間違いなくしておいた方がいい。

 魔導書のように常に教本を持ち歩けば覚えなくても済むとはいえ、覚えてないととっさに使えない。


 なんて言っても持ち歩いている人はいるけど、それは魔術言語が覚えきれないほどあるからだろう。

 ただ努力で記憶しようとするだけじゃ多分一つの派生属性に関連するものが精一杯だから。

 だから一部を選んで覚えるわけだけど、他の魔術言語も有用であることは間違いない。

 そのため適正が広いために扱える魔術言語を覚えきれない魔術師は教本を持ち歩いていたりする。


 なんてことを考えながらも、僕は黙々と手を動かしていた。

 持っているのは図書館で借りた魔道具。

 その魔道具について一言で説明するなら一ページずつ写本を作る魔道具だ。


 この魔道具は一度動かすと数分かけてセットしたページのコピーを作ってくれる。

 旅人に一層の本を貸し出さないのは帰ってくる保証がないからで、こうして写本を作って知識を持ち出すのは何も問題ない。

 そのためにこうして魔道具を貸し出していたりする。

 でもそれだけじゃ絶対に間に合わない。

 なにせ。


「これだもんな」


 机の上に物凄い分厚い本が開いて置かれていた。

 閉じれば二十センチほどの厚さがあるだろう。

 その上で魔道具が稼働している。


 かなりの厚さだがこれでもそれぞれの属性のよく使われる、つまり使いやすい魔術言語のみをまとめたものになっている。

 一属性あたりの文字を減らしても属性自体が多いのでどうしても文字数は増える。

 そうして省かれた文字もとなれば同じ厚さの本が何冊も追加されるのだけど、そんなものまで写しても持ち歩けないし写す時間がない。


 魔道具が静かに震えて新しいページがでてきた。

 ページをめくり、左右それぞれに魔道具をセットして起動する。

 二つ借りることができたので一度で見開き一ページを写せるのだけど、それでもやはり遅い。

 本当に重要なものを抜き出してはいるけどこれでは一週間で終わらない。


 アイリスはすべての適正に高い適性を持っているから、この本にアイリスの使わない魔術言語なんて存在しない。

 先も言った通り、膨大な数の魔術言語から取捨選択した結果がこの本なんだ。

 できれば全てを写したいくらい。


 だからこうして魔道具を待っている間、僕は僕で同じ本をもう一冊借りて自分の手を使って写本を進めていた。

 読める文字であることは前提にできるだけ早く進めていく。

 そうすれば魔道具が見開き二ページを作る間に片面一ページ程度写すことができる。


 でもやっていて思った、こんなの微々たる差だ。

 文字の読みやすさを意識すればどうしても速度は遅くなる。


 この魔術教本が売っていたのならこんな苦労をする必要はなかったのだけど、残念ながら魔術言語の教本はそんなに需要がないんだ。

 極めれば魔術言語の魔術の方が正確に大きな事象を起こせるけど、習得しやすく自由がきくのは一般言語の魔術だから普遍的に使われているのはこっちだ。


 もちろん頼めば取り寄せてくれる店もあるだろう。

 でもその取り寄せが一週間に収まることはない。

 取り寄せたころにこの街にいないのでは意味がない。

 なら隣街の本屋によって探し、そこにもなければさらに隣の街とも思うけれど、さっきも言った通りこの本は需要がないからそもそも冊数がそこまで多くない。

 いや、読もうとする人はそれなりにいるんだけど結局買うなら持ち歩きやすい薄さの本になる。


 だから今を逃すと次確実に手に入るのはグロウス王国の図書館となってしまう。

 さすがにそこまで勉強しないのももったいないので、僕としてはここで写本を済ませておきたかった。


「えっと、あの」

「うん? どうしたの?」


 でもあくまで最優先はアイリスに教えること。

 アイリスが勉強できるように写本を作るために教えるのをおろそかにするのは本末転倒だ。


「あの、これってどういう意味ですか?」

「ちょっと見せて。なるほど、それはね……」


 そうして気になるところを教えて、そうでない時間はすべて写本に費やし、やがて日も落ち夜も更け始めたところで切り上げて宿に戻ったのだった。

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