第二十話 現代魔術と古代魔術
「それじゃあまずは質問。アイリスは魔術についてどんなことを知ってる?」
アイリスがすでに知っていることを教えるのは無駄とまでは言わないけど、一週間しかないんだしできるだけ効率的に行きたい。
「えっと、属性だけ、知ってます。隠れてた、ところにあった、本、で、読みました」
「そっか、なら僕が教えるのは魔術の制御方法、つまり詠唱と術式の基礎的な部分かな」
本来ならまずは魔術の発現の訓練が先に入る。
それができなきゃ話にならないから。でもそこはもうできてるから、次はその発現した魔術を制御する方法だ。
それには多少の属性の知識も必要だ。
「魔術は二種類の言語で扱うことができる。一つ目が普段僕たちが使っていて今も話している言語。もう一つは意味が変わることのない魔術言語だ。それによる魔術はそれぞれ現代魔術と古代魔術って呼ばれてる」
通常の言語は時代や環境によって意味が変わっていくのだが、魔術言語は意味が変わることがない言語だ。
しかし魔術言語はその変わることがないという特性によりすでにあるものを組み合わせる必要があるためどうしても手間がかかる。
数え切れないほどある言葉の中から合致するものを探し出さなきゃいけないから。
一方で通常の言語は意味を理解できる者が多くいるのなら新しく言葉を作ったとしても問題なく魔術を発動できる。
けれどそれは意味が変化するということであるため、同じ言葉でも時代や環境によって変化してしまい安定性にかける。
そこまで説明してアイリスの様子を伺ってみるけど……うん、問題なさそうだ。
この子はちゃんと理解している。
「えと、わかりました。でも、何で、古代魔術、は変わらないん、ですか」
「それは僕たちの言葉が影響を及ぼしている部分が違うからと言われてるね」
研究者によると、魔術は人の思いや感情に反応して性質を変化させる物質、魔素によって形作られているらしい。
その魔素は内側と外側の二重構造になっていて、外側が変化しやすく人の思念に影響を受ける部分、内側は変化することのない核の部分だそうだ。
そのそれぞれに通常の言語と魔術言語は干渉するため、現代魔術と古代魔術に差が生まれているらしい。
「わかりました。それなら、えと、パウロナさん、が、魔術を、暴走させないためって、言ってました。古代魔術なら、暴走、しないんですか」
パウロナさんはそんなことを言ったのか。
魔術を知らない状態で暴走がどうのこうの言っても不安にさせるだけだっていうのに。
人は理解できないものを一番恐れるんだ。
心の中でパウロナさんに文句を言って、でもアイリスには気づかれないよう顔には出さない。
「そうやって疑問を持てるのは偉いね。でもはずれ、魔術言語の方も暴走する。魔術の暴走には二種類あるんだ」
一つ目が、自分の影響下には存在するもののだからこそ思念の影響を受けてしまい威力や規模が過剰に拡大してしまったり、その形を変えてしまったりすること。
これが現代魔術の暴走だ。
アイリスのように無詠唱で魔術を使う場合は制御のほぼすべてが自分の思念に委ねられるためより暴走しやすくなってしまい、少し怒るだけでも想定外に規模が拡大してしまったりする。
パウロナさんの言う暴走は多分このことだ。
一方で魔術言語の暴走は制御を手放してしまうか詠唱の組み立てを失敗することで起こる。
魔術言語の魔術は規模こそ魔力量によって変化するものの、発現する現象自体は変わらない。
そしてそれは魔術の制御を手放してしまったとしても同じだ。
例えば少しの間炎を噴射するという術式を組み立てたとして、その方向を制御しているのは自分だ。
けれどその魔術を制御しきれなくなれば、意図しない方向、それこそ自分自身の方向にだって炎が噴射されることになる。
これも魔術の暴走だ。
この暴走は制御を手放してしまったからともいえるけど、どこからどんな風に炎を吹き出すかまで詠唱に組み込んでおけばこのようなことは起こらなかった。
だから組み立てにおいても失敗したと言える。
手の先から真っ直ぐ炎を吹き出すとしておけば、あとは魔力を消費するだけで細かい制御が必要なくなるだろう。
「こんな風に魔術言語の魔術でも暴走しちゃうことはある。でも、そうだね……」
こうして教えていてわかった。
アイリスはやはり頭がいい。
きっと魔術言語やその組み立て方はすぐに習得できるだろう。
それにアイリスには様々な属性への適性を持つ代償としての不安定さも存在している。
この数日間アイリスと接していて数日前の疑惑が確信に変わった。
言葉がよくつっかえているのは忌子としての過去があるからだと思っていたけど、心の不安定さも原因の一つのようだ。
そうした不安定な心では現代魔術も不安定なものになる。
少なくとも毎回同じ魔術を安定して発動するのは難しい。
「アイリスには魔術言語の魔術の方が向いているよ」
「そう、ですか?」
「うん、だからまずはそっちを練習しようか。それにアイリスに質問だけど、空飛ぶ本を制御してるのはどっちの魔術だと思う?」
それはとアイリスは考え始めた。
空飛ぶ本の術式に必要なのは安定性だ。
日によって本が雑に飛んだり言うことを聞かなかったり動物のように自由に動き回られてはこまってしまう。
だから。
「わかり、ました。魔術言語の、方です」
「そう、つまりさっき分からなかった本だって魔術言語を習得すれば読めるようになるわけだ」
「頑張って、覚えます!」
ぐっと力を入れてやる気を出すアイリスを見ながら、僕は制御端末で魔術言語の載っている本を数冊ほど呼び出した。




