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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第二話 追われている三人組

 僕ロウルとこの子ソラクリアは実戦経験豊富なB級探索者の剣士アレックスと魔術師パウロナに斥候のラリア、そしてまだまだ訓練中のアイリスと行動を共にしていた。

 その出会い方はちょっと特殊で、でもだからこそお互いに秘密を隠したまま共にいられているのかもしれない。











 それは数週間前の出来事だ。

 

「いたぞ、向こうだ!」

「うわ、こっちにも。この街はもうダメそうかな」


 僕は街の裏路地を疾駆していた。

 追いかけてきているのは盗賊たち。

 正確に言うなら盗賊が街の外で入手したあれこれを売り払う役目の人たち。

 ちょっと前にその盗賊の恨みを買っちゃって、だからこうして追いかけられてる。


「だいじょうぶなのだ?」

「うん、問題ないよ。だって彼らは僕ほど道を知らないだろうからね」


 僕の背負う袋から水色の小狐が顔だけ出して聞いてきた。

 この子の名前はソラクリア。

 言葉を喋れる珍しい狐だ。

 周りには言葉を喋れることは隠しているんだけど、水色というだけでもとても目立つ。

 そのせいで盗賊たちに居場所がバレやすくなってしまっているのだけれど、それでも僕はこの子を手放す気はなかった。


「お前ら、先回りだ! いくらすばしっこくてもいつかは囲める!」

「あはは、そんなうまく行くはずないでしょ」


 確かにただの物盗りとかだったらそれで捕まえられるだろう。

 でも僕はこの街の、と言うよりも滞在している街の道を覚えるようにしているんだ。

 もちろんこうして逃げるために。


「すぐに回り込まれないのは……こっちだね」


 さっと判断して斜めに伸びる横道を進んでいく。

 この先を曲がった後は長い道になっていて、それにつながる横道も近くには一本しかない。

 その一本も分かれ道が少ないからここから回り込むのは難しいはず。


 追われる身だから簡単に追手をまけて潜みやすい場所は把握していくようにしている。

 そのためには道を覚えておくことが重要で、そのおかげで今みたいに数の多い相手でも余裕を持って逃げられている。


 ――けれどそういう問題ないように見えることこそ、予想外の事態に見舞われるみたいだ。

 例えばそう、その長い道の反対側から道を塞いでしまうほどの大勢が走ってくるとか。

 まぁでも、その状況に直面して驚くことはなかった。

 僕が終われていることを加味しても関係ない道まで普段より様子が騒々しく、なんとなく嫌な予感は感じていたからだ。


「うわ、やっぱり。どうしてこんな時に面倒ごとが起きるんだろう」


 けれども愚痴りたくはなる。

 そもそもこうして追いかけられているのは前から逃げてきたひったくりをよけようとして、その騒ぎに乗じたすりが荷物を盗ろうとして来て、その手を払った際に袋のひもがちぎれて子狐の姿が晒されて被っていたフードが取れ、しかもその場に盗賊の仲間がいたという不運が重なった結果であって……


「はぁ、それより今は逃げることを考えるか」


 まだまだ文句は言い足りないが、そのせいでその文句を言う口を奪われるなんてことは嫌だ。

 僕はソラを守りたい。


「まぁでもどちらにせよ、できるのは上に逃げるか横に逃げるか。それなら横かな」


 壁の出っ張りを使って建物の上に行くか横道を進むか。

 追っ手から距離を取るなら間違いなく上だろう。考えている間も愚痴っている間も足は動かし続けているとはいえそれで敵との距離が広がることはない。


 しかし敵はその背に弓を背負っている。

 下手に射線の通るところに行けば追いかけてきている奴らだけではなく高い所(屋根)に上っている敵にまで射掛けられてしまう。


 だったら横道に行くのが最善だ。

 であるならすることがある。

 それは向こう側の集団から逃げるようにしてこちらへ走っている三人との協力だ。

 足の引っ張り合いをしている場合じゃない。


「僕は敵じゃない! 逃げるならこっちだ!」


 こちらからすれば向こうは多分敵じゃない。

 この周辺の盗賊達には女性も魔術士もいないんだけど、向こうから来る人たちは装備からすると剣士と魔術士と斥候であり、順に男性、女性、女性なんだから。


 けれどそれは向こうからしてこちらが敵に見えないという話ではない。

 間違えて攻撃されたら目も当てられず、その前に声をかける必要があった。


 そうして走り、横道に辿り着いたのはほぼ同時。

 念のため警戒は保ったまま、しかし向こうに攻撃する様子は見られず――


「道を知ってるなら道案内を頼めるか!」


 むしろ焦った様子で声をかけてきた。


「いいよ! でもその代わりに隠れ場所を提供してくれないかな!」

「分かった、構わん!」


 そう、残念なことだけど今の僕には向かう先がなかった。

 さっき一度振り切れたから泊まっていた宿に隠れたんだけど、手当たり次第に尋ねまわっていた盗賊達に宿の主人が僕の情報を売ったんだ。

 どこが「お客様の情報は死んでも漏らしません」なんだか、むしろ積極的に売りに言ったじゃないかと愚痴りたくなるけどそれは我慢。


 ともかく、相手が隠れ場所を持っているなら渡りに船だ。

 すぐにこの街を出るとしても今は隠れてやり過ごす場所が必要なんだから。


 契約成立だと場所を聞こうとして、けれどその前におかしいなと後ろを振り返る。


「お、ラッキーだな」


 剣士の男が見るその先は横道の入り口で、そこで僕を追っていた集団と彼らを追っていた集団がいがみ合っていた。

 だからといって僕らも追っても足を止めることはないけど、そのおかげで追っ手との距離もできたし彼らと僕の間にあった微妙な緊張感がどこかへ行ってくれた。

 目の前に現れた集団は無関係を装っている敵ではなくて、本当に無関係だったのに不運にも遭遇しただけだと分かったから。


「急がないとね。どこまで行けば道が分かる?」

「それは……どうだ?」

「北の大通りよ。門の近くまで行けばもっと確実に分かるわね」


 剣士の代わりに答えてくれたのは魔術師の女性だ。

 だけど北の門? と思って周りを見回す。

 うん、間違いない。


「ねえ、ここ南の城壁の近くなんだけど」

「えー、うそでしょー」

「なんだよ、真逆に進んでんじゃねぇか!」

「だって裏路地なんて知らないものー、しょうがないでしょー?」


 斥候の女性はほおを膨らませて不満そうにしている。

 私だけに任せたのも問題だーとか言って言い合っている。

 けどそっか、この都市について知らないのか。


「ねえ、隠れ場所って本当に大丈夫?」

「うん? ああ、その宿をやってるのは知人だ。問題ねぇ」

「そっか。なら良かった。北の門まで裏通りを通って向かおうか」


 彼らの言う宿が本当に信頼できるのかはわからない。

 けどやり過ごしたらすぐに別の街に向かう予定なんだ。

 そこまで長く同行するつもりはないんだからわざわざ探りを入れる必要はない。


 彼らが騙されていたとしても待ち伏せさえなければ僕にまで被害は及ばないし、そうであっても僕は彼らの追っ手には狙われていないはずだから簡単に逃げられる。

 僕の方の追っ手も新しい隠れ場所をすぐには見つけられないだろうしね。

 

 率直に言ってしまえば、彼らが見つかろうが僕にはどうでもいいんだ。

 ただ少しの間の隠れ場所が見つかるなら。

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