第十九話 図書館の仕組み
ここの図書館で目を丸くしているアイリスとソラ。
その様子を見るともっと驚かせたくなる。
確かにここの図書館はかなり大きい。
なぜなら侵略戦争で土地を広げてきた帝国の、その全ての知識が集められていると言われているのだから。
でも帝国から出ればもっと大きな図書館が存在している。
僕たちが向かっているグロウス王国に。
グロウス王国は帝国と違って国土こそ狭いものの様々なギルドの本部が存在している。
探索者ギルドも魔術士ギルドも他のギルドもだ。
その特殊性でどんな国相手でも対等な国としての地位を保っている。
そんな国の図書館には他国にあるギルドの支部が得た知識も含めほぼ全て収められているのだとか。
禁書だけではなく一部国土の情報もあるとかで制限されてる情報も多いらしいけど、それでもこことは比にならないほどの蔵書があるそうだ。
僕も知っているだけで見たことがないので着いたら行ってみたい場所の一つだ。
「ほんとに、すごいです」
けど今はそのことについて秘密にしておこう。
無邪気に喜ぶアイリスを見てそう思う。
何度も来たことがあって僕にとっては驚くほどではないとはいえ、ここは間違いなく帝国一の図書館なんだ。
そこでこれだけ驚いているのならグロウス王国の図書館も何も知らずに見てほしい。
それに今日来たのは勉強のためだ。
驚き続けているアイリスをずっと見ているのも楽しいけど本題を忘れちゃいけない。
アイリスを連れて端にあるカウンターに向かう。
「えっと、一般入館証を三枚貰ってもいいかな?」
カウンターには一人の人物が座って待機していた。
ここに座っている人が入館退館の管理をしている。
「承りました。一般入館証では貸出及び地下への立ち入りは不可です。詳しい説明はいりますか?」
「ううん、知ってるからいらない。ありがとうね」
紙を三枚受け取った。
表には一般入館証と大きく書かれていて、裏には色々と注意事項が記載されている。
この図書館は地上部分に他国の人間が読んでも問題ないような一般的な本や娯楽小説などをまとめてあって、それ以外の本や入りきらず需要が少ない本はすべて地下に収められているはずだ。
魔術基礎の教本はほかの国でも流布されている本だから地上部に置かれているはず。
ちなみにこの都市の市民に配られている市民入館証では貸し出しが許可されていて、学者とかになれば地下何層かに入れるようになる。
もっと下に入るにはただ学者などになるだけでは駄目で、何か功績を残して特別な許可をもらう必要があったはずだ。
もちろん貴族とか皇族みたいな特例もあるけど、努力で入るためには学者が一番早い。
まあ入りたい用事なんてないからどうだっていいんだけどね。
「退館時にはそちらをご返却ください。それでは」
職員は深々とお辞儀をして通常業務に戻ったようだ。
もうこちらに視線を向けていない。
相変わらず図書館の職員には無愛想な人が多いね、それも仕方ないことなんだろうけど。
ここの司書は本の管理のため下層への立ち入りが許可されている。
その中には当然流出させられない本も混ざっているわけで、図書館が求めるのは大抵裏切りの心配がなく本の管理もできるような人になる。
そうなると雇われる人の大抵が熱心な本の虫になるわけだから、職員の多くが対人経験の浅い無愛想な人になってしまうらしい。
もちろん本好きがそんな人ばかりというわけではないけど、情報の秘匿もしなければならないという制約があるぶん口下手な人の方が都合がいいこともあって、どこも似たよったりな人になっているそうだ。
「さて、アイリス。そろそろいいかな?」
「え? あ、ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ、ずっと見てられるっていうのは僕もわかるから。 ……そうだね、また明日もここに来るんだし今日は勉強を後回しにして図書館を歩き回ってみようか」
気になるなら一旦満足するまでやらせてあげた方がいい。
気にしたままじゃ満足に集中できないだろう。
そうして中を案内し始めたんだけど、本の呼び出し方とかどこにどんな種類の本があるのかとか、アイリスはそういうことにはあまり興味を示さなかった。
興味を見せたのは主に空飛ぶ本についてだ。
いろんな場所からいろんな本を飛び出すのを見て回っていて、ふと思いついたから制御端末に触れる。
呼び出す本は……あった。
すっと一冊の本が飛んできて手の中に納まる。
パラパラとめくってみれば内容は想像した通り。
「アイリス、本が空を飛んでる仕組み見てみる?」
「え、見てみたい、です」
これは図書館に使われている術式、その中の本を飛ばしている術式のページを今開いている。
とはいえ本の飛行を制御している術式などの図書館の根幹を担うような術式は乗っていない。
そういうのは地下の本に書いてある。
この本の術式はあくまでも飛行制御だけだ。
その本に目を通したアイリスが困惑した様子で顔を上げた。
「まったく、わからない、です」
「そうだよね。まだ何も知らないから。でも勉強すれば分かるようになるよ」
正確に言えば術式があって学問がある魔術と、学問があるから術式がある魔術の二種類あるわけだけど、どちらにせよ学ぶ必要があることは変わらない。
「知りたい、です。魔術、使ってみたい、です」
「なら教えてあげる」
そうして僕が誘導したところはあるにせよアイリスは自らの意思で魔術について学び始めた。




