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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第十八話 文芸都市の大図書館

 都市についたあと、僕らは先にやらなければいけないことを済ますことにした。


「よし、まずは宿を取りに行くぞ」

「まあ一週間あるからねー。最初のうちはゆっくりしようかー」


 ここに来る途中で聞いた話だと、彼らはこの都市で会う約束をしている人がいるらしい。

 だからギルドに伝言を残して連絡が帰ってくるのを待つらしい。


 大抵の住居には導線が引かれているのでこの都市の住人なら別の家へ声を届けることができる。

 しかしそれは宿の部屋にまでは取り付けられていないし、そもそも相手もまた旅人でこの都市に住んでいるわけじゃないとのこと。

 だから連絡を待つしかないそうだ。


「けどその分時間があるってことよ。その時間でアイリス、あなたのことを鍛えてあげる」

「その前に魔術の勉強だけどね」

「……そうだったわね」


 鍛える前にまずは知識からだ。

 そしてそれを教えるのは僕の役目だから、パウロナさんの出番はもうちょっと先だ。


「とりあえず宿を取ったら自由行動でいい?」

「おう、いいぞ」

「あたしはー、宿でゆっくり寝てよっかなー」


 どうしよう、と混乱しているアイリスの手を取った。


「アイリスは僕とソラと一緒に勉強だよ。ねえパウロナさん、このくらいの都市なら図書館ってあるよね」

「ええ、確か中心近くにあったはずよ」


 よかった、記憶通りだ。

 そこなら魔術の教本くらいは置いてあったはず。

 様々な魔術が載っている魔導書の方はそう簡単に見せてはくれないだろうけど、知りたいのはそういうのじゃなくて魔術についての基礎的な知識だ。

 その程度のものなら特別な許可がなくても読めるだろう。


「けれど、あなたたちが図書館へ行って、ミューが寝て、私はどうしようかしら」


 うーん、とパウロナさんが辺りを見回して、いくつかのお店の前で視線が止まった。

 魔道具店とか古書店とかだ。

 あと何を売ってるのか分からない怪しげな店。


「面白そうな店が結構あるわね。アレク、あなたも暇でしょう。一緒に行きましょう」

「ええ? いやいいけどよ」


 アレクは怪しげな店の方を見て露骨に顔をしかめた。


「行きたくねぇなぁ」

「なに? 不満なの?」

「いや、お前だけ行かせるのは不安だから俺も行くけどよ」


 ああいう店にはあんま入りたくねぇなとぽつりつぶやいていた。

 仮にも大通りに構えている店なのだから、その店はきっと怪しく見えるだけなのだろう……裏路地にある怪しい店ならどうなのか知らないけど。


「不安ってなによ、まあいいわ。そうと決まったら早く宿を確保して自由行動にしましょう!」


 そう言ってずんずんと進むパウロナさんについて僕たちは進んでいった。






「ついたね。ここが図書館みたいだよ」


 ふわぁとアイリスは目の前の建物を見上げて間の抜けた声を漏らした。

 けどそれも仕方ない。

 この国の他の図書館を見たことがある人でもここの図書館には驚くと、間違いなくそう言えるほどの大きさなんだ。

 もちろん見たことがなければなおさら。


 高さはアイリス八人分くらいで横幅は広場の一面を占めるほど。

 奥行きも反対側の道に接するほどあったはずだ。

 さらに外からじゃ分からないけど、地下には地上よりも広い階層が何階層も重なっている。


「え、えっと。ほんとに入って、いいんですか」

「うん、大丈夫だよ」


 少なくとも数年前はそうだった。

 変わっていなければ今も問題なく入れるはずだ。


「それじゃあ行こうか」

「は、はい」

「きゅー!」

「あ、でも中では静かにね」 


 二人同時にあわててむぎゅっと口をつぐんだ。

 その慌てようが面白くてつい笑ってしまう。


「そこまでしっかり塞がなくても大丈夫。できるだけ小声で会話を少なめにすればそれでいいから」


 二人は再びコクリと頷いて、でも声は出さなかった。

 勝手が分からないから喋らない方がいいとでも思っているんだろうか。

 でもここには勉強のため何回も通う予定だ。

 いずれ慣れてくれるだろう。

 そうじゃないと質問もできない。


「ほら行くよ」


 やっぱりコクリとそれだけ。けど話を聞いてくれているのは分かるのだしいいだろう。

 むしろとても微笑ましい。


「ふわぁ」

「きゅー」


 二人を連れて中に入ったら可愛らしい声が二つ聞こえた。

 声を出さないようにという思いを覆して余りある驚きがあったらしい。


 二人の視線の先には天井まで高く伸びた本棚がある。

 その本棚にはほとんど隙間なく本が詰まっていて、それが横と奥にいくつも並んでいた。

 そんな大きな本棚から本が勝手に飛び出したかと思えばその下にいる人の手の中に納まり、どこかからか飛んできた本が開いていた隙間に自ら入っていく。


 そんな中で人々は行き交って、それぞれ目当ての本を手にしていた。


「アイリス、人が来てるよ」

「あ、ご、ごめんな、さい」


 さっと避けた僕たちの横を、いえいえと言いながら穏和そうな女性が通る

 。その手には本があるから借りて帰るところのようだ。


 ほけーっとそれを見ていたアイリスが突然僕に向き直った。


「あ、あの、これが普通、何ですか?」


 その目にはキラキラとした輝き。どうやらこの光景は彼女の琴線に触れるものだったらしい。


「こうして本が飛び交っているのは、それなりの大きさの図書館であればよくあることかな」

「そう、なんですか」


 これが普通、と驚く声が聞こえる。


「けど仕組みは普通でも、大きさは特別かな。なんせここは帝都の図書館にすら劣らない、帝国で一番の大きさを誇る図書館だからね」

「すごいです」

「きゅ」


 その大きさに、仕組みに、二人は素直に感嘆していた。

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