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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第十四話 秀でた才能

 魔術を使うことにより髪色が変わるというのはただの推測でしかない。

 でもその推測が合っているとしたら、本当にただ髪色が変わる程度で終わるとも思えない。


 これはできるだけすぐに確認した方がよさそうだけど。


「よし、あとは乾かして終わりだよ。だから頑張って」

「は、い……」


 アイリスはこっくりこっくりと船をこいでいる。

 浮かんでいる水と光は随分と揺らいでいて、水の中の火はもう消えてしまった。

 でもここまで眠そうにしていても魔術を維持できているというのはすごい。

 これは息をするのと同じくらい自然に魔術を使えないとできないことだ。


 体と髪を拭いて乾かして、その途中ふっと水も光も消えた。

 倒れそうになる体を支えて服を着せていく。

 気絶させた誰かや死体を着替えさせるのは人を惑わすのに役立つ。

 寝ている人を着替えさせるのはそれの応用に過ぎない。

 でも、物騒なことのために培った技術が。


 安心したように目を閉じ、こっちに身を預けて眠るアイリスを優しく腕で囲う。


 こんな風に()()()()()()()()日常で役に立つのは、なんとなく幸せな気がする。


「……また、“仮面”が取れかけているのかな」


 昨日に続き今日もだ。

 どうしてか“仮面”が外れそうになってしまう

 。こんな幸せな日々をどうでもいいなんて思ってしまっている。こうしてすぐ自覚できる時点で昨日よりは浅いけど、それでも外れかけているのは確か。


 こうして外れかけてしまうと、どれが今の僕の思いでどれが下からにじみ出てきた思いなのかが分からなくなる。

 ただこうなるたびに、今の“仮面”がソラに嫌われたくないから作ったものだということだけは思い出せる。


 だからきっと、冷酷な方が“仮面”の下に潜む方なのだろう。

 それが素なのかまた、別の“仮面”なのかは思い出せないけど、どちらにせよその時の自分がそのままだとソラに嫌われると思ったのは確かだ。


 それは今の僕からすると到底受け入れられないこと。

 だからいずれ限界が来るとしても、今はただ“仮面”をかぶり直すしかない。


「きゅー!」

「……もうすぐ行くからちょっとだけ待っててね、ソラ」


 アイリスを手早く寝かして、僕は呼ばれるままソラを洗いに向かった。











 次の日、僕たちは街道を歩きながらアイリスに色々と魔術を使ってもらっていた。

 昨日は急いでいたからアイリスを抱き上げながら進んでいたけど、今日はどれくらい体力があるのか見るためアイリスには自分の足で歩いてもらっている。


 そうして試して分かったんだけど、アイリスは本当に自然と魔術を扱えるらしい。

 歩きながらでもとくに集中することなく魔術を行使できていた。


 また、魔術を使えば髪色が変わるということも間違っていなさそうだった。

 彼女の髪は火属性を使えば赤に、風属性を使えば緑に、土属性を使えば茶色に、水属性を使えば青に、光属性を使えば白に、闇属性を使えば黒に変化した。


 そう、彼女は基本属性六つすべてを扱えたのだ。

 その技術はまだパウロナさんに遠く及ばないけど、才能という面ではかなり優れたものをみせている。

 それがパウロナさんの好奇心を刺激したらしい。

 原石の状態でさえ輝いている石をさらに磨きあげてみたいと、魔術についてのあれこれをアイリスに教えたがっている。


 アイリスも魔術の知識に興味はあったようだけど、好奇心に突き動かされるパウロナさんが怖かったのかぴゃっと小さな悲鳴をあげて僕の後ろに隠れてしまった。

 けれどパウロナさんは諦めがつかなかったようで、だから教えるときは僕も壁になるため近くにいることと決まった。


 ほぼ強制的に巻き込まれることになったけどちゃんと魔術を教われるのは僕にとってもありがたいことだし、パウロナさんに怯えるアイリスの姿がソラと重なって見えた気がして見捨てるのも忍びなかった。



 閑話休題(話を戻して)



 彼女の髪色の変化は、基本属性の六つを扱った時だけでなく派生属性を扱った時でも多少の変化を見せていた。

 とりあえず扱う属性によって色が変わるというのはほぼ確定と見ていいだろう。


 次に彼女の魔力量の方。

 朝からずっと使ってもらってるのに、昼になった今でもいまだに限界が見えていない。

 使ってもらっている魔術が小規模なものだからというのもあるにはある。

 でも人は体内の魔力が減れば減るほど精神的な疲労を感じるものだ。

 限界まで使えば動けなくもなる。

 だというのにアイリスが見せているのは軽い疲れだけだ。

 それも歩いたからという肉体的な理由のもの。


 そして彼女の持つ魔術の才、これは本当に凄まじい。

 様々な属性に適性を持っているというのもそうだけど、彼女は本当にそれが自然であるかのように魔術を扱う。

 きっと彼女にとっては体を動かすことよりも魔術を扱う方が簡単だろう。

 今は知識がないから大したことはできないけど、使い方を知れば間違いなく才覚を表す。


 それに彼女は要領もいいようだ。

 これも魔術を扱うのに重要な才覚の一つ。

 彼女は当然のように複数のことを同時にこなすことができる。

 それはつまり複数の魔術を同時に扱ったり何か別のことをしながら魔術を使ったりできるという訳だ。


「きゅー! きゅー!」

「楽しいなら、よかった、です」


 現に彼女はソラと会話しながら二つの魔術を同時に操っている。


 はじまりはソラが宙に浮いている水に興味を持ったことだ。

 自由に動き回る水にソラが喜んで、嬉しくなったアイリスはその水球をずっと維持し続けている。

 もちろん僕たちのお願いを聞いて別の魔術も使いながら。


 今はよりソラを楽しませようと色々な方向に水球を動かしている。

 初心者にとっては思った通りに動かすだけでも一筋縄ではいかないことのはずなんだけど、魔術を自由自在に動かすアイリスを見ていると自分が間違っていたのかとさえ思えてしまう。


「アイリスって、本当に今まで魔術を教わったことないんだよね」


 分かってはいたけど改めて確認してしまった。

 魔術のまの字も知らないのにこれなら将来どうなるのか楽しみで仕方ない。


「は、はい……だめ、でしょうか」

「ううん、駄目じゃない。むしろすごいなって思ってるんだよ。だから俯いてないで顔をあげ、て――」


 顔を上げたアイリスと正面から目が合った。


 不安そうに揺れているアイリスのその目は。

 不安そうでありながらも別の感情を湛えているその目は。


 淡い水色だったはずのその目は、いつのまにかまるでラピスラズリのような深い青へと姿を変えていた。


「えっと、どうし、ましたか?」

「え? ……あ、何でもないよ。気にしないで」

「は、はい……」


 はぁ、どうしてぼーっとしてしまったんだろう。

 それでアイリスを不安にさせてどうするのか。

 なんとなく、ポンポンとアイリスの頭を撫でて笑みを浮かべた。


「本当に僕の方の問題だから。自由に魔術を操れるアイリスは本当にすごいよ!」

「ありがとう、ござい、ます」


 目については後で考えようとそのまま優しく撫で続ける。

 そうしていると、不満そうなソラがにゅっと出てきて可愛らしく睨んできた。


「きゅ……」

「あはは、寂しい思いをさせてごめんね、ソラ。もちろんソラのことも可愛いと思ってるよ」

「きゅ!」


 それならよし! と頷いてアイリスの頭に飛び移り、僕と一緒に頭を撫で始める。

 ソラはアイリスのお兄さんになったつもりらしい。

 撫でられているアイリスも幸せそうで、二人がそうして笑っていると僕も嬉しくなれる。


 そんな風にしているうちに、どうしてアイリスの目を見て止まってしまったのかがすっかり分からなくなってしまっていた。

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