【グラナダ王国内乱事件】
一四五〇年、ヨーロッパ西境・イベリア半島。この地を治めるカスティーリャ王ファン二世に好機が訪れつつあった。隣国グラナダが遂に本格的に割れ始めたのである。ムハンマド九世の王権を拒むイスマーイール三世が、西部中心都市マラガを占拠した。
イベリア半島南部の要塞アルハンブラ宮殿に拠る、イスラム王が君臨する王国グラナダ。王国は、歴代カスティーリャ王に討たれたイスラム教徒が逃れ、イベリア半島ムスリム最後の牙城となっていた。ヨーロッパ西方とアフリカ大陸を結ぶ要所。鉄資源豊富なシエラネバダ山脈に背後を護られる堅固の地。王国は小規模な領土に比し鉄壁の護りを誇った。一二三〇年の建国以来、二百二十年。キリスト教徒によるレコンキスタを、しぶとく凌ぎ続けていた。
一四四五年、オルドバの戦いでアラゴンのエンリケを破ったカスティーリャは国土を固めつつある。そこに届いた「グラナダ王国内乱事件」の報であった。グラナダ国王とは西方都市ヘレスを通じ、一四四八年四月二十六日に休戦協定を結んでいる。一策を講じた王は、グラナダ王国(西方都市ロンダ)との休戦を、一年間延長することを決めた。二月二十三日、西方面総帥メディナ・シドニア公ファン・デ・グスマン曰く。
『e que sobre ello el rey,nuestro senor,les ha escripto e mandado que en ello traten por la manera que sea seruicio de Dios e mio,les ha e a ellos bien visto fuere』
“王は「神と余への奉仕の道に従い、良きように対処せよ」と記し、お命じである”
『Moros no entren en tierra de christianos a fazer mal ni dano desde Cordoua fastan Tarifa,e que los christianos no entren en tierra de moros desde Tarifa fasta Loxa a les fazer mal ni dano』
“モーロ人(イスラム教徒)は、コルドバからタルファの地域でキリスト教徒に悪や損害をなす侵攻をしてはならず、キリスト教徒もタルファからロハの地域で同様である”
三月二十日、グラナダ王国(都市ロンダ)との間に「十八ヶ月」の休戦協定が成立した。
ファン二世の策は巧緻を極めた。四月七日、王は西方部・境域大総督ペル・アファン二世に命じ、反乱者イスマーイール三世とも休戦協定を結んだ。休戦期間は、異例の長さの「五年」。しかも、交易に関し「禁止品目も設けなかった」。反乱者どの、武器も戦略物資もお好きに交易を、頑張ってグラナダ王国を乱してくれ、という意味である。
二重の休戦協定。これで高みの見物ができる。六月末にイスマーイール三世が倒れるまで、グラナダ王国は混乱し、国土は疲弊した。秋頃、怒るムハンマド九世は、反乱者と結んだ西方部・境域大総督ペル・アファン二世の所領ウトレーラに対して侵攻した。だが、他方の都市ヘレスとメディナ・シドニア公らは、(ペル・アファン二世の反乱支援とは)無関係を決め込んでグラナダと独自の和平交渉を進め、まんまとグラナダ王の攻撃対象から逃れてしまった。一四五五年、迷走するグラナダには二人の王が立ち、王国は分裂した。




