天国と地獄の愛を繋いだ銀の指輪5
タイトル
「天国と地獄の愛を繋いだ銀の指輪?」
結婚式の当日は、晴天の爽やかな風が吹いていた。先ほどから事故でもあったのか救急車がサイレンを鳴らして何度か行ったり来たりしていた。結婚式を控えた花嫁である留美にはそんなこと気にも掛からなかった。
勝と駅で待ち合わせて一緒に行く手筈になっていたが、勝は幾ら待っても待ち合わせ場所に現れなかった。
勝の携帯電話にメールをしても電話をしても繋がらず、勝のアパートにかけても勝と留美の声の留守番電話が応答するだけだった。
この勝の部屋の留守番電話は、勝と留美が勝の部屋で録音したのだ。勝の声よりも留美の声の方が聞く方も爽やかだろうからと勝が留美にお願いしたので、留美は録音してあげたのだ。
だが、留美が話す後ろで勝の声が入って録音されている。勝は留美のすました声が可笑しく、留美は勝のおどけた声が可笑しくて、留守番電話の終わりには、二人の笑い声が録音されていた。
留美はもう一度やり直そうと言ったが、勝がこの方が自然で面白いからとそのままにしてあった。留守番電話の笑い声は二人の幸せな様子を物語っていた。
ところが、今の留美には、そんな留守番電話の笑い声を聞いていると逆に不安になって来るのだった。
「勝ったらケータイのバッテリー切らしたのかしら?それともケータイの電源を切って、先に行って驚かそうというつもりかしら?それともまさか……」
留美は頭の中にもくもくと湧く不安な心を振り払うために頭をブルンブルンと振った。
「いけない、いけない、今日は結婚式だって言うのに不吉なこと考えちゃ駄目ね!」
留美は軽く笑って不吉な思いを拭い去った。そのまま幾ら待っても勝は来ないので、留美は一人で結婚式会場へと向かった。
「勝のことだから、きっと先に行ってるのかもしれないわね!」
留美は自分の不安な心を打ち消す様に呟いてみた。
結婚式会場にも勝の姿は見えなかった。新郎控え室にも行ってみたが、着付けの人が少々イライラして待っていた。
新郎の控え室でも留美のウェディングドレスの着付けをしてくれる人が待っている。勝のことを探している訳にも行かず、留美はウェディングドレスに着替えた。
「まぁ、綺麗!」着付けを手伝ってくれた女性スタッフの方が、鏡に映る留美の姿を見て思わず呟いた。
白いウェディングドレスに身を固めた留美は自分でも、うっとりする程綺麗だった。
「ちょっと、ナルシストかな」と留美は小さな声で呟いた。
「えっ?」女性スタッフが訊いてきた。
「いえ、何でもないんです」留美は、照れて下を向いた。早く勝にこの姿を見てもらいたいと思った。
着付けを終えた留美をエスコートする役の父の留治はグレーのタキシードに身を包んでいた。見慣れたはずの父もピシッと決まって見えた。
留治はウェディングドレスに身を包んだ我が娘の姿を見て言葉を失った。それ程まで綺麗だった。ごくりと喉を鳴らして留治は留美の方に歩いてきた。タキシードに身を包んだ留治は緊張している様でぎこちない動きがロボットの様で留美の笑いを誘った。
教会では堂本家と武田家の結婚式の時間はとうに過ぎていた。両家は既に教会の中で席についていた。だが、勝がまだ来ておらず式は始まらずに空転していた。
勝の父と母、そして弟がウロウロしてどこかに電話したりしていた。新婦と新婦の家族は心配そうな顔をして黙っていた。留治の緊張はとっくに解けていて、留治の顔にも不安の色が色濃く出ていた。
両家の親戚や親友などはおしゃべりが出て神聖な教会の中は似つかわしくなく騒然としていた。皆、話していることは新郎の勝のことだった。
結婚式の予定の時間を三十分も過ぎた頃、結婚式のスケジュールを調整する教会の係の人が時間に見切りを付けて新郎、新婦両家に言って来た。
「すみませんが、この後のスケジュールがつかえてますので……」
もう、さすがに教会側に待ってもらうことは出来なかった。
「すみません、式を中止いたします」
花嫁姿の留美は残念そうに、そして申し訳なさそうに言った。そうして、式は始まることなく中止となってしまった。
「花婿も今来ますから」と言って、結婚式を延ばしてもらっていたのだが、これ以上は食い下がることは出来なかった。
勝は結局、結婚式に現れなかった。ウェディングドレスに身を包んだ新婦の留美の横がいつまでも空いていた。
勝の両親は、留美と留美の家族に深く何度も謝っていた。
「本当にしょうがない子で……」と勝の母は言っていたが、あれほど結婚を楽しみにしていた勝が遅刻や忘れているなどということはありそうもない。
それを思うと、勝の家族の言葉も両家の不安を拭い去ることは出来なかった。特に留美は不吉な闇が心に大きく拡がるのを抑えることが出来なかった。
そして一行は勝を心配しながら、留美の家に集まっていた。結婚式を中止した後は、披露宴の会場を借りないで、行き着けのレストランで行うはずだった披露宴に似たパーティーが予定されていた。
パーティーに来る予定だった友人達に電話して謝って、レストランにも中止の連絡をしたりと留美は大忙しだった。やっと中止の連絡を終えて一息付いていた。誰も言葉を発する者はいなかった。皆の暗い雰囲気がその場の空気を圧迫した。
「トゥルルルー」
と部屋の静けさを電話の音がかき破った。郁美が電話に出ようとするのを、留美が郁美を押し退けて逸早く電話に出た。留美が母親を押し退けることなど今までなかった。それだけ、留美は勝を心配して胸が張り裂けそうであったのだ。
「もしもし、武田ですが」
「徳田警察の門倉という者ですが、そちらに武田留美さんと言う方は、いらっしゃいますか?」
「る……留美は私ですが……」
警察という言葉の響きに留美の不安な心は、今まさに爆発しそうになった。
「堂本勝さんという方をご存知ですか?」
「はい、堂本勝は私の婚約者です」
無理に落ち着きのある声を出して、留美は答えた。
「そうですか」
門倉はそこで一度、言葉を切った。門倉の作る間が、留美を益々急激に不安にさせて、留美は自分を抑えることが出来ず、冷静さを失って大声を出した。
「何でも言ってください!勝がどうかしたんですか?」
留美の声は取り乱していた。




