自分らしさ 《Side:リンネ》
「ありがとうございましたー。」
ふう、これで一息付けるか?
イオの誕生日に、リンネが感じた事。
女の子らしさが足りない。
自分だけ〔椅子〕って、もっとアピール出来るプレゼントが有ったろうに。
悔しさで一杯、出遅れ感で一杯。
リンネは決めた、『何か女の子らしいモノを習得しよう』と。
それで、仲間に頼み込んで。
UHが経営するお菓子店を紹介して貰ったのだ。
店の手伝いをする代わりに、お菓子の作り方を教わる。
リンネは必死だった。
「生地は丁寧にね。」
漸く今日は閉店し、店主によるお菓子作りの教室が始まった。
リンネは、火の魔法を使える。
加減も調節出来る。
でもそれはダメ、何故か生地が丸焼けになってしまう。
魔法は、お菓子作りには向いていないのだ。
それに、魔法に頼り過ぎたこれまでの経験から。
『自力で作れる様になった方が良い』と感じていた。
その方が、手作り感をより一層演出出来る。
「じゃあ次は、飾り付けを。」
店主がリンネに言う。
ケーキの生地作りは、程々に上手くなった。
元々器用なリンネだったので、呑み込みは早かった。
しかし飾り付けは、その人のセンスが問われる。
『ここで独自色が出る』と言っても過言では無い。
店主に教わりながら、自分らしさを追求するリンネ。
魔法剣士なのに、その時だけは科学者の様だった。
「頑張ってますね。」
時々アーシェが、様子を見に来る。
アーシェも以前、ここでお菓子作りを教わったので。
気が気では無かった。
「そうだ、味見してくれないか?」
焼きたてのクッキーを持って来るリンネ。
その内の1つを摘まみ上げると、アーシェは。
「可愛いデザインですね。どれどれ……。」
口の中へ放り込む。
パクッ、モグモグ。
「うん、味は申し分無いですね。さぞ苦労なさったでしょう。」
アーシェは素直に感心したが。
ちょっと気になる点を、リンネに指摘する。
「でももう少し、中身を考えた方が良いかも。」
「と言うと……?」
「お店で出すには十分です。でも《あなたらしさ》が、まだ無い気がします。」
「そうか、《私らしさ》か……。」
リンネの一番の悩み所は、それだった。
味が上達しても、既製品と同じなら意味が無い。
自分らしさ、それは何だろう?
「ありがとう。もう少し検討してみるよ。」
素直に頭を下げるリンネに、やや気恥ずかしいアーシェだった。
他の人には無いモノ。
自分らしさ。
……そうだ!あれを使えば……!
リンネは早速、行動に移した。
「どうですか、ご主人?」
あれこれ試してみて。
特製クッキーの試作品が、何とか完成した。
「うん、悪く無いね。」
やったあ、出来た。
後は完成に持って行くだけだ。
そう思いながら、続けて熱心に取り組んだ結果。
とうとう、リンネ特製クッキーの完成。
早速、イオの下へ持って行くと。
彼の前に、バッと突き出した。
「あ、あの。何て言うか、その……。」
勢いに任せて、差し出したものの。
何て言って良いか分からない、リンネ。
自分自身に戸惑う彼女に対して、イオは。
「お、美味しそうじゃないか。俺にくれるのか?」
「あ、ああ。遠慮無く食べてくれ。」
「それでは。」
イオはクッキーを1つ取って、口の中に入れる。
モグモグ。
……?
この食感は……?
「気付いたか?〔これ〕を入れてみたんだ。」
そう言って、リンネが取り出した物は。
豆らしき物体だった。
リンネが説明する。
「これは【もち豆】と言って、普段は攻撃に使うんだが。いざと言う時、非常食にもなるんだ。」
「このもっちりした触感は、それのせいか。」
「《自分らしさ》を考えて行ったら、これに辿り着いてな。」
「なるほど、確かにリンネらしいな。いろんな意味で。」
「……?」
「リンネは真っ直ぐで、簡単に諦めない粘り強さがある。ぴったりだと思うよ。」
「……!」
イオの指摘が、とても嬉しいリンネ。
『頑張って良かった』と、心の底から思った。
『それにしても』と、ちょっとの間考えたイオがリンネに言う。
「これ、商品にしたら売れるんじゃないか?」
「店のご主人にも言われたよ。でも断った。」
「何でだ?」
イオの問いに、リンネは。
モジモジしながら告げる。
「イオの《特別》で有りたかったから。」
そうか、そう思ってくれているのか。
これは簡単には裏切れないな。
一方でイオは、こうも思っていた。
女の子らしい所を《やっと》出したか。
元々持ってたんだぞ、リンネは。
そう言い掛けて、イオは止めた。
黙ってリンネの努力に報いよう、その方が良い。
そう思い直したからだ。
「また作ってくれるか?俺の為に。」
イオからのその言葉に、精一杯の笑顔でリンネは答えた。
「うん!」
その返事が、皮肉にも。
一番、乙女らしかった。
「焦るわー!ホント、焦るわー!」
その話を聞いて、オロオロするエリカ。
プレゼントで『一歩先を行った』と思った矢先。
自分らしさ、か。
私も見つけないと!
そう思うとエリカは、頑張れる気がした。
逆にアイは、嬉しかった。
このまま私が勝っても、後味が悪いもの。
ライバルはこうでなくっちゃ!
アイも、自分探しを始めるのだった。
仲間が人として成長して行く姿を、真直で見られて嬉しい。
イオは純粋に、そう思った。
俺がしてあげられる事を。
一杯、一杯してやろう。
穏やかな日は、【一度途切れる】のだから。




