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誕生日は突然に

「この世界に来て、もう4か月か……。」


 イオはため息を付いていた。

 そこにアーシェが通り掛かる。

 姿を見かけて、いつもの様に声を掛けようとした時。

 イオがポツリと。


「と言う事は、後1週間で〔誕生日〕か……。」


 それを聞いて。

 ピコーン!

 アーシェが何か、思い付いた様だ。




「ですから。こっそり準備して、サプライズパーティーを開こうと思うんです。」


 アーシェからその話を聞いた、残りの3人は。


「良いかもな。」

「いつも、お世話になってるしね。」

「お兄ちゃん、喜んでくれると良いね。」


 3人共、大賛成だった。

 そこに、アーシェが付け加える。


「各自、プレゼントを用意する事。良いですね?」


 うっ!

 言葉を詰まらせる3人。

 急に、無理難題を言われた気がした。




 3人にそう言った手前、変な物は用意出来ない。

 言い出したアーシェ本人が、困る事に。

 何せアーシェには、当てが無かったから。

 自分らしさをアピールできる物、何か無いかなあ?

 ……そうだ!あれだ!早速準備を……。

 こうなると動きが素早い、アーシェだった。




「プレゼント、か。」


 リンネは、誰かに何かをあげた事など無かった。

 どんなのが自分らしいだろう?

 うーん、分からん。

 仕方が無い、恥を忍んで。

 仲間の奥方殿に聞いてみよう。

 リンネは、わらにもすがる思いだった。




「困ったなあ。」


 エリカも悩んでいた。

 プレゼントをあげた事は有るには有ったが、相手は同性の仲間。

 異性には未経験。

 ましてや、相手はイオだ。

 ここでポイントを稼ぎたい。

 何が好みか、頭の中を探ろうにも。

 イオは常にバリア状態で、心を覗けない。

 ここは異性の仲間を頼って、何を貰ったら嬉しいか聞く方が早いな。

 そうと決まれば、早速聞き込みだ。

 エリカは張り切っていた。




 アイは、何でも作っては。

 しょっちゅう誰かにあげているので。

 プレゼントを渡す経験は、3人より優っている。

 でも、イオに渡すのはちょっと違う。

 いい加減な物を渡したら、嫌われてしまう。

 今回だけは、無神経ではいられない。

 そうだ!

 今までプレゼントを渡した時の相手の表情とか、データ収集してあったんだ!

 それを分析しよう。

 念の為、仲間にもリサーチしよう。

 したたかに動き出す、アイだった。




 リンネは必至に、奥様方へ尋ね回っていた。


「プレゼントねえ。旦那に何をあげたかしら。」


「この通り!知恵を貸してくれ!」


「リンネの頼みなら、喜んで協力させて貰うわよ。」

「で、相手は誰なの?」

「決まってるでしょ、あの人よ。」

「ああ、これは無粋だったわね。」


「何の事だ!何の!」


「まあ、顔を真っ赤にして。リンネも、可愛いとこ有るのね。」


 リンネはすっかり、奥様方のおもちゃにされていた。




「何が嬉しいかって?そうだな……。」

「急に聞かれてもなあ。」


 エリカから急に尋ねられて、困惑する仲間。


「何でも良いからさあ、ほら。何か無いの?」


 エリカに詰め寄られて、仲間は皆引いていた。


「何でもって……。俺達にくれる訳じゃ無いんだろ?」

「そうそう、どうせあいつだろ。」


「〔あいつ〕呼ばわりしないでよー。」


 怒るエリカ、プンスカと。

『悪かったよ』と謝りながら、仲間は。

 そんなエリカに、返事をする。


「俺達も世話になってるしな。出来るだけの事は協力するよ。」


「やったあ!で、で?」


「うぅ……。」


 エリカの押しの強さにたじろぐ、仲間達だった。




「お前がくれるの、何時いつでもろくでも無い物ばっかだったし。」

「覚えてないのかよ!」


 どうやら、無自覚で渡しまくったツケが来たらしい。

『ごめんごめん』と、頭をポリポリ掻くアイ。


「お前も変に、色気付いて来たな。」


「な、何よ!良いじゃないのさ!」


 両手を上げて、アイは抗議する。

 プンプン!


「そうだな、良い事だな。」

「人並みになってくれた方が、おりも楽だしな。」


 言葉は悪いが。

 口々に言う仲間の顔は、何処か優しかった。

 何だかんだで、アイの事を気に掛けていたのだ。

『頑張れよ!』とアイは、仲間に背中を軽く叩かれた。

 それに対して、アイは元気に。


「任せとけ!って、結局何が良いのさっ!」




 出来たー。

 アーシェは、やり切った顔をする。

 後はラッピングだなー、ふんふんふーん。

 楽しそうなアーシェ。

 他の3人も、考えた末に。

 渡すモノを決めた様だ。




 何だろう、用事って……?

 イオは、昼頃に家から追い出されていた。

 俺、何かしたかなあ。

 心当たりが思う浮かばない。

 仕方無い、そこ等辺を散歩して来るか。

 イオは久し振りに独りで、町を散策する。

 その間、ずっと。

 すれ違う人達が皆、イオの顔を見てニヤニヤしている。

 町の人達の視線が気になったが、敢えて無視した。

 何と無く読めて来たけど……。

 まあ、あいつ等に付き合ってやろう。

 それも優しさだ。

 イオはそう考えながら、散策を続けるのだった。




「お誕生日おめでとう!」


 パアーン。

 イオが家に戻ると、一斉にクラッカーが鳴った。

 テーブルの上には、豪華料理がズラリ。

 アーシェがイオへ、得意気に言う。


「これ、町の人達からの差し入れなんですよ。」


「これは……。」


「今日はイオの誕生日なんでしょ?内緒でパーティーを計画してたんです。」


 やっぱりそうか。

『誰かにあれを聞かれてたんじゃないか』とは思ってたけど。

 でも、悪く無い。

 みんなが笑顔だから。

 そう思っているイオへ、まずはアーシェが差し出す。


「これ、受け取って下さい!お洋服です。似合うと良いんですけど……。」


『ありがとう』と、早速着てみるイオ。


「サイズも丁度だな。嬉しいよ。」


 イオのその言葉に。

『パアアッ』とアーシェが、笑顔増し増しになった。

 続いては、リンネ。


「済まない、こんな物しか用意出来なかった。何分、渡した事が無くてな……。」


 そう言いながら、手作りの木の椅子をそっと差し出す。

 装飾がかなり凝っていて、尚つ。

 イオが怪我をしない様に、細心の注意が払われていた。

 リンネの温もりを、精一杯込めて。


「大事に使わせて貰うよ。」


 イオが笑顔で、そう答えると。

 リンネは恥ずかしそうに、『うん』と頷いた。


「私は、これ。」


 エリカからは、ネックレスだった。


「ただのネックレスじゃ無いよ。おまもりに使われる、特別な石なんだー。」


 確かに、じっくり観察すると。

 見た事も無い宝石らしき物が、綺麗な造形美であしらわれている。


「かなり力を使ったけどね。普通のやり方だと、加工出来ないんだよ。」


 エリカの才能に、改めて驚かされた。

 宝石の組み合わせなども見事だ。

 ジュエリーショップでも開けるんじゃないか?

 そう思いながら、早速首に掛けるイオ。

 パチパチと拍手するエリカ。


「似合ってるよ。良かったあ。」


「最後は私だね。はい、どうぞ。」


 アイが差し出したのは、小さな箱。

 開けてみると、オルゴールだった。


「この曲はね、この世界で一番有名な曲なんだよ。子守唄なの。」


 アイは考えた挙句、複雑な物はめてシンプルに攻めた。

 情に訴える作戦に出たのだ。


「何か、アイらしいな。」


 イオはくすっと笑う、それを見て。

 胸の中に何かがこみ上げる、アイだった。




「まさか、こんな形で祝われるとはな。」


 同居人全員が談笑している姿を見て、イオは心から感謝していた。

 まばゆい位の笑顔、その真ん中に居られる幸せ。

 この世界で、掛け替えの無い物を手に入れた。

 それがイオは、純粋に嬉しかった。

 例えそれを、【最後に失う】事になろうとも。

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