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魔導特許のハッカー 〜書類係の元弁理士、チートプログラムと王国法で無能ギルドを敵対的買収する〜  作者: 樹


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第6話:スラムの子供たちと、魔導キックボード  クミコ・ギルドの敵対的買収(リーガル・ジャック)から一週間。

第6話:スラムの子供たちと、魔導キックボード

 クミコ・ギルドの敵対的買収リーガル・ジャックから一週間。

 僕たちはギルドの名称を『魔導メガコーポ・エイトボックス』へと改称し、次の事業計画(第2フェーズ)へ着手していた。

 僕が目をつけたのは、王都の最底辺――高慢な貴族たちが「汚物」と呼んで見捨てる、スラム街だった。

「――お前が、あのクミコ・ギルドを一夜で乗っ取ったっていう、噂の書類係かい?」

 薄暗いスラムの地下酒場。木製の丸テーブルを挟んで僕を睨みつけているのは、紫の髪を荒々しくショートカットにし、露出の多い革鎧を纏ったグラマラスな美女だった。

 彼女の名はジェシカ。

 スラムの孤児たちをまとめ上げる女傑であり、同時に、女王様のように冷酷なサディストとして恐れられる「スラムの裏の支配者」だった。彼女の手元では、鋭い革の鞭が退屈そうに床を叩いている。

「ええ。エイトです。今日はあなたの下で働く子供たちの『労働環境のデバッグ』にきました」

「ハッ、大層な口を叩くねぇ! ウチのガキどもはね、王都の流通を牛耳るバルバロッサ伯爵の『馬車ギルド』に、奴隷同然の小銭(銅貨数枚)で雇われて、朝から晩まで荷物運びやスリをさせられてるんだよ。そうしなきゃ生きていけない。書類係の坊やに、何が救えるってんだい?」

 ジェシカは不機嫌そうに豊満な胸を震わせ、僕に鋭い視線を突きつける。

 だが、僕は丸眼鏡を中指でクイ、と押し上げ、冷徹なトーンで返した。

「第一原理から考えましょう。彼らの労働効率が悪いのは、人間の足という『貧弱なハードウェア』に依存しているからです。……ステフ、例の試作品プロトタイプを」

「フン、凡人のためにわざわざ私が調整してあげたんだから、感謝しなさいよね」

 僕の背後から、新工房のチーフ職人となったステフが、大柄な木製の板に二つの車輪とハンドルがついた、奇妙な器具をドサリと置いた。

「な、んだいこれは? 荷車かい?」

「いいえ。僕たちが開発した近距離移動特化型魔導具――通称『魔導キックボード』です」

 僕はチート能力『万物監査(鑑定)』を起動し、その構造を空間に青く投影した。

「クミコから奪い返した『新型魔導バッテリー』の出力を極限まで絞り、ステフの精密加工技術で車輪の回転効率を最適化しました。これに片足を乗せて地面を一度蹴れば、脳内の『魔導端末スマホ』と微弱に同期し、誰でも魔導馬車並みの速度で王都を駆け抜けることができます。消費魔力はほぼゼロ。これを使って、スラムの子供たちに『王都最速の宅配・配送ネットワーク』を担ってもらいます」

「馬車並みの速度だと……!? 冗談およしよ。王都の主要道路は、すべて馬車ギルドが独占通行権(法的特権)を握ってるんだ。そんなオモチャでガキどもが走り回ったら、不法占拠で私兵団に足を叩き折られるのがオチさ!」

 ジェシカが激昂してテーブルを叩く。だが、僕は全く動じない。

「ええ。ですから『主要道路』は使いません。マルタ、現在の進捗は?」

 部屋の隅でポテチの袋を抱えていた銀髪の天才令嬢マルタが、ジト目のまま手元の魔導端末をパチパチと叩いた。

「……スラムの子供たちに端末スマホを配って、王都の路地裏や死角バックストリートを走らせた。……馬車が絶対に通れない『裏道の最短ルートマップ』、すべてデータハッキング完了。クミコから奪った魔導リンク(ネットワーク)に同期して、子供たちの脳内端末にナビ(GPS)として常時配信ストリーミングしてる」

「……っ!?」

 ジェシカが息を呑んだ。

「馬車ギルドが法律で守っているのは、あくまで広くて大きな主要道路だけ。彼らが『価値がない』と見捨てた、馬車も通れない狭い路地裏の空間スペースこそが、僕たちの独占市場ブルーオーシャンです。このキックボードと路地裏マップ(ハックデータ)があれば、スラムの子供たちは、馬車が渋滞に巻き込まれている間に、その3倍の速度で荷物を届けることができる」

 僕は立ち上がり、冷徹な、しかし絶対的な勝利の契約書をジェシカの前に置いた。

「ジェシカ。馬車ギルドに奴隷として搾取されるのはもう終わりです。僕と組み、子供たちを僕たちの最高効率の配送員プラットフォーマーとして雇用させてください。給与は神殿口座から、従来の5倍の経験値トークンを直接支給します」

 ジェシカは目の前の契約書と、エイトの底知れない知略の前に、完全に圧倒されていた。

 手元の革鞭がカタカタと震え、彼女のサディスティックなプライドが、初めて自分を上から支配してくる「本物の怪物(経営者)」に出会ったことで、恐怖と激しい興奮にバグらされていく。

「アハ……ッ! あはははは! 素晴らしいよ、エイト坊や! 主要道路の特権を鼻にかけてるあの豚どもを、路地裏から合法的に干し殺すってわけかい! 気に入ったよ……ウチのガキどもも、このアタシの身体も、全部アンタのビジネスに投資してあげるじゃないさ!」

 ジェシカは肉食獣のような艶やかなドSスマイルを浮かべ、エイトの胸ぐらを引き寄せて顔を近づけた。その瞳は、すでにエイトの合理性に完全にとろかされていた。

交渉成立ホールドです。さあ皆さん、老舗の馬車ギルドを、路地裏から合法的に更地へと追い込み(デバッグし)ましょう」

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