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魔導特許のハッカー 〜書類係の元弁理士、チートプログラムと王国法で無能ギルドを敵対的買収する〜  作者: 樹


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第1話:天才職人は豚に頭を下げない

およそ非論理的で、費用対効果コスパの悪い社会。それが、僕が転生したこの異世界の第一印象だった。

 この世界には、最高神オーレン・バファメントが構築したとされる、奇妙な『投資システム』が存在する。

 すべての人間は生まれた時に、脳内に神から『魔導端末』と呼ばれる目に見えない紋章を与えられている。前世のスマートフォンによく似たその端末へ、日々の労働や戦闘で得た『経験値トークン』を奉納(課金)することで、スペックが上がり、神からより強力な魔法を買い戻すことができるのだ。

 この『経験値』は神殿を通じていつでも金貨に等価交換できるため、事実上の世界共通通貨(暗号資産)として機能している。

 一見すれば、神の作った合理的なデジタルシステムに見える。だが、その上に乗っかっている人間たちの社会は、バグだらけの欠陥コードそのものだった。

 特に、この王都の経済を牛耳る『ギルド』と『貴族』の特権階級制度。

 前世で弁理士として、数々の知財や法律の泥沼を這い回ってきた僕から見れば、彼らのやっていることは「知的財産の略奪」と「前時代的な暴力による弱者の奴隷化」に過ぎない。

「――だから言ったのです。そんな非論理的な戦い方、コスパが悪すぎますよ、と」

 王都の寂れた路地裏。カビ臭い安宿の一室で、僕は丸眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら、目の前で不機嫌そうに唇を尖らせている美しい女性を見つめた。

 彼女の名はステフ。

 漆黒の髪を雑にポニーテールに結わえ、すすで汚れた作業着を着てなお隠しきれない、圧倒的なプロポーションの持ち主だ。そして何より、彼女はこの王都で最大の魔道具工房『クミコ・ギルド』のトップ職人であり――今日、その工房を追放されたばかりの「売れない天才」だった。

「うるさいわね、エイト! アンタは黙って私の書類だけ作っていればいいのよ!」

 ステフは、安物の木製椅子にドカリと腰掛け、長い足を組んで僕を睨みつけた。その瞳には、傲慢なまでのプライドと、激しい怒りの炎が揺れている。

 彼女は生粋の天才職人だが、同時に極度のドSであり、致命的なまでに妥協を知らない人間だった。

「大体、あの無能な2代目ギルド長が間違っているのよ。私の作った新型の魔導バッテリーを、あいつは何て言ったと思う? 『コストが高すぎるから、魔術数式を半分に端折って、金持ち貴族用に見た目だけ派手にして量産しろ』よ? 職人の美学を冒涜するのも大概に病気だわ」

「それで、あなたはなんて言い返したんです?」

 やれやれ、と僕は心の中でため息をつく。結末は聞くまでもないが、一応客観的な事実確認ヒアリングは必要だ。

「『その汚い豚のような手で私の魔術回路コードに触るな。触りたくば、その不細工な両手を切り落としてから出直せ』って、ギルドの会議室で全員の前で言ってあげたわ。そしたら、今すぐ出て行けって」

 ステフはフン、と鼻を鳴らして胸を張った。豊かな胸が強調されるが、言っている内容は完全に破滅的だ。

「それは……完全なコミュ障ですね。相手は金持ち貴族や、王都の闇を牛耳るバルバロッサ伯爵の『馬車ギルド』とも太いパイプを持つ、大商業ギルドの2代目クミコですよ」

「事実でしょう! あいつらは私の魂の結晶を、ただの金儲けの道具としか思っていない。……それに、あいつ、私のバッテリーの魔術設計図(特許)をギルドの所有物だと言って、取り上げて私を追い出したのよ? 私が命を削って描いた、世界で最も美しい魔術回路なのに……!」

 ステフの細い肩が、悔しさで微かに震えた。

 女王様のように高慢な彼女が、初めて見せた弱み。

だが、その言葉を聞いた瞬間、僕の脳内で前世の『社畜弁理士』のスイッチが冷徹に切り替わった。

 僕が持つ2つのチート能力――あらゆる物事の構造と欠陥を見抜く『万物監査(鑑定)』と、魔術数式を自在に組み替える『魔導電算プログラム』が、脳内で青い光のログを弾き出す。

(なるほど。他人の努力と知恵の結晶を、権力と組織の力で踏みにじる。……前世のブラック企業の上司と同じだ。つくづく、僕の最も嫌いなバグだ)

 僕は立ち上がり、冷えたお茶をステフの前に置いた。僕の表情から温度が消え、完全にビジネスモードのトーンに変わる。

「ステフ。安心してください。あなたから魔術特許を奪ったこと、あの2代目に後悔させてあげます」

「え……? でも、設計図の完全な権利書オリジナルソースは、ギルドの発起人羊皮紙を握っているクミコのものになってるわ。王国法でも、ギルドに所属している職人の成果物はギルド長に帰属するって……」

「ええ、通常のルール(法律)の表面だけを見ればそうですね。ですが、クミコ・ギルドの設立規約には、致命的な欠陥バグがあります。……ステフ、僕と組みましょう。あなたのその偏執的なまでの職人技術、僕のプログラムと法律という檻で守り、世界で最も価値のあるものに変えてみせます」

 ステフは驚いたように、僕の冷徹な、しかし絶対的な自信に満ちた瞳を見つめ返した。

「アンタ……ただの書類係のくせに、何をする気?」

「簡単なことです。あの無能な2代目を合法的に一文無しにして、あなたの足元にひざまづかせる。――まずは、僕たちの『新しいビジネス』の立ち上げ(スタートアップ)から始めましょう」

 こうして、世界を揺るがす魔導メガコーポの第一歩が、路地裏のボロ宿から静かに始まった。

 僕はただの凡人で、猛獣使いの書類係に過ぎない。だが、天才の使い方と、ルールをハッキングする方法なら、誰よりも知っていた。

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