表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひらめきで勝つ天才と、時間で指す棋士―同門公式戦を境に成長した日向と、静かにタイトルだけを見続けた恒一  作者: 夜明けの語り手
最後の一手は、私のもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/93

86話 三段昇格戦最終局

夜。


廊下は暗い。


水瀬遥は、まだ棋譜を持っている。


雨宮澄人。


あの男の将棋。


弱い。


でも。


あの一局は、確実に自分を潰してきた。


「……偏りすぎやろ」


小さく笑う。


だが、その目は鋭い。


盤の前に戻る。


座る。


すぐに駒を並べる。


パチ。


雨宮戦の局面。


銀を打てなかったあの瞬間。


遥は手を止める。


「……じゃあ」


別の手を指す。


パチ。


また別の手。


パチ。


さらに。


パチ。


分岐。


増やす。


一本だった道が、


二本になる。


三本になる。


「選ばせるんか」


ぽつり。


相手に読ませるのではなく、


読ませてズラす。


遥の中で何かが変わる。


その夜。


一度も立ち上がらなかった。



翌日。


対局。


初手。


パチ。


「……?」


相手がわずかに止まる。


遥は迷わない。


中盤。


分岐。


相手の時間が削られる。


終盤。


選択を外した相手が崩れる。


「……参りました」


一勝。



二局目。


同じようで違う将棋。


また勝つ。



三局目。


攻めない。


待つ。


相手が崩れる。


勝つ。



四局目。


序盤から仕掛ける。


意表。


勝つ。



五局目。


相手が研究してくる。


でも。


「それ、もう一個あるで」


分岐。


崩す。


勝つ。



六局目。


気づけば。


周りが静かになる。


「……また勝ったんか」


距離ができる。


遥は気にしない。



七局目。


疲労。


それでも。


思考は止まらない。


「どっちでも勝てる形にする」


選択肢を作る。


勝つ。



そして。


八局目。


対局室。


静か。


相手は強い。


読みも深い。


中盤。


形勢は互角。


終盤。


一手違い。


ここで遥は盤を見る。


広い。


最初の頃とは違う。


一本道じゃない。


「……これやな」


一手。


パチ。


相手が止まる。


長考。


秒読み。


崩れ。


数手後。


「……参りました」


遥は深く一礼する。


動かない。


数秒。


そして。


小さく息を吐く。


「……上がったか」


三段。


確定。


でも。


顔は変わらない。


ただ。


少しだけ。


楽しそうだ。



廊下。


高槻がいる。


遥を見る。


手首を見る。


ミサンガ。


まだ切れていない。


高槻が笑う。


「切れへんほうがええやろ」


遥も笑う。


「まだ使うからな」



一方。


別室。


雨宮澄人。


盤の前。


崩れている。


今日も一敗。


戦績はギリギリ。


昇段点に届くかどうか。


誰も期待していない。


でも。


雨宮は棋譜を見る。


自分のではない。


遥。


八連勝の棋譜。


一つずつ並べる。


パチ。


パチ。


手が止まる。


「……増えてる」


分岐。


選択肢。


読めない。


「……いい」


小さく笑う。


次の対局。


相手は遥ではない。


でも。


雨宮は同じように盤を見る。


相手の癖。


呼吸。


視線。


読む。


トレースする。


そして。


指す。


パチ。


ズレる。


相手の読みが外れる。


「……あ」


崩れる。


そのまま押し切る。


勝ち。



最終局。


雨宮。


追い込まれている。


勝たなければ終わり。


相手は格上。


普通にやれば負ける。


でも。


雨宮はノートを見る。


対戦相手の癖。


びっしり。


「……いける」


対局。


序盤。


外す。


相手の研究からズラす。


中盤。


誘導。


終盤。


読み切る。


「……参りました」


勝ち。


静寂。


誰もすぐに反応しない。


係員が記録を見る。


計算する。


順位。


そして。


顔を上げる。


掲示板。


名前が貼り出される。


ざわつき。


「……まじか」


「両方……?」


そこに並ぶ名前。


水瀬遥


そして。


雨宮澄人


少し離れた場所。


遥はその紙を見る。


無表情。


でも。


目だけが動く。


隣に。


いつの間にか雨宮がいる。


何も言わない。


少しの沈黙。


そして雨宮が言う。


「……次は」


遥を見る。


まっすぐ。


「全部読む」


遥は少しだけ笑う。


「読まれへんようにするわ」


一歩、前に出る。


同じ段へ。


でも。


同じじゃない。


三段。


ここからが、本番だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ