アルク17
最近、出血が多い。
気づくと手や口から血が流れている。
いない。
最近、泥のように眠ることが多い。
いつもどこかを探して帰ってきているから。
いない。
最近、どうかしたの? とあまり親しくない人からも訊ねられた。
きっと、今の僕の顔はそれほどまでにひどいのだろう。
いない。いない。どこにも、いない。
あれから、また数日が経過した。
アルクの病気は重いことになっているらしい。
先生がうちのクラスが一番とか言っていた。
なんのことだろう。
もう少ししたら、テスト週間だそうだ。
これは嬉しい。半日で終わるから、早く捜索に加われる。
いない。いない。
何かをしていないと落ち着かない。
まるで、かくれんぼの途中で帰っちゃったみたいだ。
家に帰るとおばさんがいた。
これだけ荒れてるの珍しいね、とだけ言った。
それを言って以来、家に泊まり込んでいるようだ。
いない。どこにも見えない。視えない。
ふと、した、ときに、してんが、ゆれて
彼女を感じれない。
あの手の温もりも。何も。何も。何も。
気づくと、保健室にいた。
どうやら僕は倒れたらしい。
時間を無駄にした。行こう。
聞こえない、聴こえない、キコエナイ。
いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。
幾日がたったのだろう。そんなに経っていない気もするし、ものすごく長いときが過ぎ去ったようにも感じる。
体をベッドに沈める。そのとき目に入ったものがあった。
机の上の消しゴムだ。
見覚えがない。僕はこんなのを使っていただろうか。
だるいが、身を起こし、それを手に取った。
映像がなだれ込んできた。
ここはどこだろう。
机と椅子がいっぱいある。
教室のようだ。
赤く、赤く染まっている。
きっと、薄い光に包まれている。
僕の手には机の上にあった消しゴム。
そして、その手の向こう側には……
薄ぼんやりとだけど。
解る。彼女だ。
「はっ、はっ、はっ」
戻ってきたようだ。
自分が使っている覚えがなかったのは当然だ。彼女が偶然落として、そのまま返しそびれた消しゴムだった。
しかし、僕は視た。
本当に嫌いだ。嫌いだが、信用だけはできる。ここ7年間ほどの生活で実証済みだ。
彼女に消しゴムを返せる未来が視えた。
つまり、その未来はいずれ現実となる未来のはずだ。
彼女は生きている。
彼女とまた会える。
それは、僕の世界に差し込まれた、一筋の希望だった。