アルク16
数日が過ぎた。アルクの姿は夢にも現実にも見えない。
あの後。アルクの家に行ってから、状況を教えてもらった。
昨日から、アルクが帰ってきてなく、近所の方に呼びかけて探してもらったこと。
今日も探してもらったが見つからないので、警備隊に報告したこと。
今は自警団の人と、警備隊の人で捜索してもらっていること。
「君との連絡をどうとればいいか分からなかったからな。君も探してもらってはいたのだが」
「僕もアルクのいる場所を知りませんから、連絡されても困りますね」
手を握りしめていたことに気づく。ゆるめようにも難しい。
「そうか……。正直なところ、君が唯一と言っていいほどの手がかりだったんだが」
「お役に立てず、すいません」
「まあ、万が一、アルクが朝帰りでもしたら、君がいなくなっただろうが」
冷や汗がつたう。
「そんなことを言っている場合ではない」
「はい」
事実、アルクのお母さんはさっきから怯えたように震えている。
「私たちは君がアルクに会った最後の人物だと考えている。昨日、最後に見た時を説明してくれるか」
「分かりました。といっても、大したことは説明できませんが」
昨日、帰るときにアルクを待ったが帰ってこなかったことを説明した。
「そうか……。荷物も靴もなかったのか」
冷静になって話してみたら、まるでストーカーのような挙動だった。猛省。
「手がかりはなしか」
「多分、アルクが学校を出た後だとは思いますけど」
学校内で人をさらえるような人がいるとは思いたくない。
「そうだな。だが、学校内の人間なら入れないことはないと思うが」
「あまり、考えたくないことですね」
「ああ。だが、それも考えなければならないだろう」
本当にイヤな話だ。
「それで、どこかから電話がかかってきたりとかは」
「自警団や警備隊の人にも話したことだが、どこからも何もない」
むしろ不安な話だ。単純にお金を要求してきただけの話ならよかったけど。これではまるでアルクがころ・さ・れ
「パルミラくん……」
ふと、見るとアルクのお母さんが、タオルで僕の手を覆っていた。タオルには赤い跡がついている。
「汚してすいません」
「ううん。いいの」
「……パルミラくん。君には普段の生活もある。とりあえずはいつも通りの日々を送ってくれ」
「…………」
「お願いよ、パルミラくん。あの子があの子のためにあなたが身を砕いたと知ったらどう思うか考えてみて」
「…………」
それでも到底納得いくことではない。
「そうだ、パルミラくん君にもお願いしよう」
「何をですか」
「私たちは学校に入るためにはしかるべき手段を使わなければならない。しかし、それでは校内に犯人がいた場合、警戒させることになるだろう」
「…………」
「しかし、君は学生だ。何の警戒もされずに構内の探索ができる。それをお願いしたい」
ズルい言い方だと思った。
「……分かりました」
たとえ、構内に犯人がいたとして、それが自分にとってどれだけ嫌悪することであったとしても。それでも俺はアルクを見つけたい。
「やります」
だから俺は――僕は普段通りの生活を送っている。
学園生全員の休みの次の日の出欠はすべて確認した。
祭りの日は出欠をとっていなくて分からなかった。
確認したのはこのタイミングで休んでいる人間は結構疑わしいからだ。
僕が知っている人ではアルクはもちろん、イザとレネ先輩が休んでいた。イザは割といつものことだろうから心配していないけど、先輩は気になった。今度会ったら訊ねたいと思うが、なかなか会う機会がない。
それというのも、先輩はもう生徒会長ではなくなっているからだ。自分で辞めたわけではなく、この学校は学園祭が終わったら、役員の交代をすると言う制度になっていて9月には誰かが座につくことになっている。今は生徒会長がいない状態だ。
さらには、レネさんからよく出されていたちょっかいも最近は少なくなっていたし、今では何もしてこなくなってきてしまった。よって、彼女と接触する機会はなかったのだけど。
とはいえ、先輩がアルクと彼女に関わりなどあるはずもない。そもそもアルクは誰かにとって不愉快に見えることはあるかもしれないが、誰かから恨まれるようなことはないはずだ。不愉快だけで、どうこうしようとまで考える人はそうはいないはずだ。
一番あり得そうなのが、アルクのお父さんがとある貿易会社の社長なので、脅してお金を取る、ということなのだけど、それに関しても向こうからの連絡があるはずだ。でも、どこからも何の連絡もない。
毎日、アルクの家に通ってはいるものの、彼女がいるわけでも、手がかりが入ったわけでもない。
毎日、やせ細っていくアルクのお母さんを見るだけだ。
学校側はアルクの休みを風邪を引いているということにしているようだ。先生方は内部事情を知っているようだったが、生徒の方には漏らしていない。
フレンにだけは打ち明けて、彼に捜索を頼もうかとも思ったが、彼も彼で忙しいようだ。学校にこそ出ているものの昼休憩も放課後も彼の姿を見ない。
正直、八方手詰まり。
時間が経過して事態が動くのを見るしかないといった状況だ。
「…………」
何かの役に立てばと。すっと、そんなことを考えていた。
僕の能力は人の捜索に向いている。
未来を視て、その人がいつどのタイミングでどこに現れるかというところまで分かるからだ。
しかし、アルクには通用しない。
アルクだけは僕の力では視れない。
こんな力なければ良かったのにと何度も考えた。
でも、これのおかげで僕が彼女に惹かれたのは事実だ。
時には感謝することだってある。
でも、今は。
ただただ、自分の無力を噛みしめるだけになっていた。




