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アルク2

「はぁ~~~~~~~~~」

「黙れ若者。口を動かすより手を動かせ」

「へ~い」

「おや、反論がない。全く。いじりがいがないな」

「そうですか~~」

「おい、親代わりの人間をなめすぎてないか?」

「そんなことないですよ~~」

「ふむ。本当にダメっぽい」

 いんざあんつはうす。掃除をしにやってきました。いつものことだけどひどいもんだ。と頭は認識する。のだけど。

「うにゃぁぁぁぁぁ」

「動作はいつも通りなのに言動が壊れた!」

 言われたことも頭に入ってはいるのだけど、ダメだ。


 やっぱり学校が始まってからのこと考えると、憂鬱だ。


「で、なにがあったん?」

「ほいほい」

「あ、こら!何でそれまで捨てようとしているのよ!」

「あれ、いたの。仕事してても良いのに」

「ちょうど今はなにもないのよ!!少しぐらい休ませなさいよ!!」

「なにもない、はないでしょう」

「そ、そんなことないわよ」

「えと、何だっけ。担当?の人に訊いてみようか」

「それだけはやめて!!!!」

 そんな残酷な仕打ちはーーーとかなんとか言っているのが聞こえる。そんなことするつもりなんかないのにね。

 今はこの作業に集中しよう。学校でのことはもはやどうにもならなーーー

「はぁ~~~~~~~~~」

「人生の全てに絶望したかのような見事なため息ね」

 見事じゃないため息とかあるらしい。

「まあ、ちょっと休みなさいよ」

「これで休んだら僕が帰る前に作業が終わらないんだけど」

「いいからお姉ちゃんの言うことを聞きなさい」

「はぁ」

 こちらとしてはそれでも良いけれどね。困る人が1人、いや担当の人も困るのかな?

「昨日自分の家に帰ってきてからもずーーーーーーっと上の空だったじゃない。なにがあったのか吐きなさいよ」

「吐くて。汚い」

「そっちじゃないわよ!!!分かってて言ってるわよね?」

「うん。まあ」

 自分の様子がおかしいことぐらい自覚している。

「何があったのか知らないけど、明日には私はいないのだから全部言いなさい」

「…………」

 隠すことではないし、他の人に言いふらすわけでもないだろう。

「昨日学校でかくかくしかじかとそういう訳なのですよ」

「へぇ。学園祭の実行委員ねぇ。名誉なことじゃないの?」

「嘘!!!通じた!!!!!」

 かくかくしかじかしか言ってないのに!!!

「ふふん。愛のなせるわざね」

「そんな愛は要らねぇ」

 対面している相手が人かどうかも疑わしくなってきた。

「それで、何が嫌だったのかにゃあ?」

「言っておくけど似合ってないから」

 そうだ。嫌だった。すごく。



 決められていることを変えられなかったこと。



 そうだ。昨日も、もちろん今日も。もちろんこの会話の内容の細部に至るまで。相手の細かい動作や仕草まで変えることができない。


 僕は昨日、突如として訪れた睡魔によって寝ざるを得なくなった。


 確かにいつもより睡眠時間は短かった。起き抜けも眠気が残ってはいた。しかし、睡魔はあまりにも唐突に、タイミングよく訪れたのだ。


 あらがうことすら出来なかった。


 変えれるはずだったのに。


 変えれると思ったのに。


 僕が祭の実行委員になるのは決まっていたことだったということなのだろう。アルクはどうだか分からないけれど、夢の中では僕しかいないままで終わっていた。

 人生起こってしまったものはしょうがない。と思えれば楽なのだけれど。

 そうできないから僕はこれからも苦労するのだろう。


「パル、まだやること残っているのよ。あんたがやってくれなきゃ困るでしょーが」

「それくらい自分でやりなよ」

 そうでなくてもこれから苦労しそうだけど。それくらいは何の能力も持ってなかったとしても判る。

 はぁ。全く。

 ままならないなあ。








「これより学園祭実行委員会を始めます」

 土曜日(つまり週の最初の日)の放課後。いつも僕が訪れる生徒会室は、いつもより人が多い。いつもの何倍いるのだろう。狭いんだから他の教室を借りればいいのに。口には出さないけれども他の連中も同じことを思っているはずだ。

「今回は顔合わせとちょっとした説明だけです。本格的な打ち合わせは次回より行います」

 レネさんがそれが解らないとは思えないのだけれど。今日は………今回はかなり事務的に動いている。普段との落差がひどい。

 今のレネさんを知っている人が初めて今の彼女を見ると、態度の違いに驚くだろう。

「手元の資料に詳細は書いてありますが、最初の仕事としてはクラスで何をするかということを決めてもらいます。制約その他については一通り目を通しておいてください」

 全員に一枚ずつ配られた紙に目を通す。確かにそんな感じのことが書かれていた。

 機能的な声。まるで堅苦しいお役所の人間みたいだ。

「次回は再来週の同じ時間です。それまでに申請をお願いします。質問がないようでしたらこれで終わりにさせていただきますが」

 それ言外に質問するなって言ってないか?

 たとえ質問したい奴がいたとしても、これじゃあ何も訊けないと思う。

 レネさんの圧力、というよりは周りの早く終わってほしいと思う圧力から。

「では、解散します」

『あなただけ残ってください』

「へ?」

 僕の間抜けな声はイスのがたつく音に遮られた。というか異常に早い。集まってまだ5分も経ってないのにもう終わった。しかも特に自己紹介とかもしていない。

 とりあえず訊きたい。こんなのでいいの?流石にこれではよくないような………。

「パルくん?帰らないの?」

 アルクが座ったままの僕に話しかけてきた。アルクは―――疑問持ちそうにないよなあ………。

「ああ、いや。会長にちょっとした用事があるから先に帰ってて」

「うん?分かった」

 アルクが扉を閉めると部屋が静かになり、背中に重みを感じた。

「あの、レネさん。重いんですけど」

「女性に重いと言うのは失礼よ。役得なんだからその辺味わっておけば?」

「はぁ」

 確かに何か当たってるけど、いつものことだし。



 知っていたし。



 何を、とはいわないけれど。



「それで?疲れたんですか?」

「うん」

「まだ、慣れませんか?」

「うん」

「見ている分にはちゃんとやってましたよ」

「うん」

「これもなかったら特に僕から言うこともなかったんですけれどね」

「それにしても」

「はい?」

「これで狼狽えなくなったあなたは面白くないわね」

 元に戻った?最初からこうだったのかもしれない。

 けれども。


 昔の彼女は弱かった。


 少なくとも生徒会長をやれるような性格ではなかった。

 いつから彼女がこんなにも強くなったのか。一応の推測は出来る。

 だから。

「分かっていますから」

 何が、とは言わない。

 彼女は僕のことを知っている友人なのだから。

 そして僕もまた。

 他人の心が見えるわけではないけれども。

「そう」

 そして彼女の体温は遠ざかった。

「それじゃこの無駄に出されたイスと机の片づけでも手伝ってもらおうかしら」

「2人でやるんですか。誰か呼びません?」

「1人でも20分もかからなかったわよ」

「はぁ。まあ終わらしにかかりましょうか」


 互いの心が見えるわけではないのだから、僕は彼女のことをほとんど知らないのかもしれない。

 けれども。

 今は、これで。


 10分ほどかけて大体の机とイスを折りたたみ、僕は自分の教室に向かった。かばんは自分の机の横に置いたままだったのだ。




「すー、すー」

 まだ居たのか。驚いた。もう帰っているとばかり思っていたのに。

 自身の机の上でアルクが突っ伏していた。

 もうヒカリが弱まり始める時間だ。もう少ししたらこの教室はもっと冷え込むことだろう。

「アルク」

 呼びかけてみた。何の反応もない。

「アルクさんやーい」

 先ほどよりは声を大きめにしてみたけれども身じろぎすらしない。

「揺り動かすべき………かなあ」

「すぅ、すぅ」

 アルクはおそらく触っても怒らないと思うけれども。


 僕自身が………アルクに対しては何も起こらないか?

 本当に?

 試すか?

 あれが一時的な自分の異常だったりする可能性は?

 本当に触れても問題ないのか?

 何も………起こらないか?



 気づけば。




 恐る恐るながらも。





 まるでヒカリをつかもうとするかのように。




 手を伸ばし。





 彼女の肩に。








 きっと、明日は。

 自分の気分が少しでも良くなりますように、と。








 ちっぽけで。

 とても独善的な僕は。








 本来の目的も忘れ。





 そのまま抗うことなく。




 手を。



 自ら。


 起きた。

 いつもよりほんの少し、気分が良かった。



 あの日から日々を繰り返して、僕は初めて何かに感謝しようかとも考えた。



 演技でなく。



 限りなく本心から。



 喜べる。驚ける。



 かつてあって凍てつかせたもの。



 普段は動くことのないもの。



 道の外れにしかいつもは落ちていないもの。



 そして道の外れに至った場合、それは大抵悲しみや怒りやその他の暗いものにしか覆われていない。



 外れることなく。新鮮な気持ちで。それに会える。



 こんなものを抱いたのは初めてだったかもしれない。



 いや、間違いなくこれが世間一般でそう称するものだと確信できる。



「おはよう、パルくん!」




 嗚呼。彼女の近くに僕が居れたとするならば。

 きっとそれはどんなに楽しいことなのだろう。



 それがどんなにかおこがましい事であるかもしれないけれども。




 それでも、僕は。






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