第70話
翌日ギルドに出かけた。ますは常設依頼の【フォレストコボルトの討伐】の件を処理してもらった。そしてベルさんが受付嬢に徐に囁いた。
「ギルドマスターにお会いしたいんだけど…」
「すいません。『会いたい』と言われて『じゃあ呼んできます』みたいな感じはちょっと無理です。」
「かなーり重要な話があるのよ。」
「うーん…どんなご用件かお伺いしても…?」
ベルさんが受付嬢の耳元で、小さな声で囁いた。
「未発見のダンジョンを発見したのよ。」
「み…!!」
大声を出そうとした受付嬢の口をベルさんが手で塞いだ。
「色々諸注意があるから、大声出さないで。アタシたちはギルドに情報を売りたいだけ。ギルドマスターに会える?」
受付嬢はコクコク頷いた。ベルさんが受付嬢の口を塞いでいた手を外した。受付嬢は私たちを個室に案内して、ギルドマスターを呼びに行った。マリーアネットシティのVIPルームなんかに比べると地味な個室ではあるが、防音がしっかりしてるのは見て取れる。
暫くして頭の両サイドに牛のような角を生やした魔族の女性がやってきた。真っ赤な髪に黒い瞳の女性だ。
「あたしがこの、シェルバートシティ支部の冒険者ギルドのマスターのベネッサだよ。新しいダンジョンが見つかったなんて言って大法螺だったら許さないからね。」
「書記官さんは?」
「……このな―――――――――んもないシェルバートシティにそんな洒落た職業の奴がいると思うかい?全部、あたしが聞いて、あたしが書類にまとめるしかないのさ。さあ、ダンジョンの話をしようや。どのくらいの規模でどういう性質かわかるかい?金にならないダンジョンの情報にバカ高い情報料を払うのは癪なんでね。」
そりゃそうだ。3階層のお金にならないダンジョンに情報料を払ったら赤字だ。真・青のダンジョンみたいに稼げるのが確定してるならまだしも。
「正直、情報料はあんまり期待してないわ。稼げる人には稼げるけど、そうでない人はすぐにダンジョンの肥やしにされちゃう『潜りにくい』タイプのダンジョンよ。深さは少なくとも25階層以上。アタシたちは25階層で手に負えないと判断して帰ってきたから。」
「ふむ…潜りにくいタイプか…だと、こっちとしても慎重にならざるを得ないな。致死率高そうなのか?」
「かなり。」
「う~…折角ツキが回ってきたかと思ったのに。」
「条件を揃えられるパーティーなら結構稼げるでしょうね。」
「難しい案件だな…」
ベネッサさんとベルさんはヒントを出し合いつつ交渉してそこそこの情報料を約束してもらえた。
情報料を実際に手にできるのはギルドが調査の人員を送ってダンジョンが確定された後ではあるが、とりあえずの報酬を約束されて、契約書にサインしてベルさんはダンジョンの全貌を述べた。
「死霊のダンジョンか…厄介な代物だな。『神官』必須だが、現時点で神官をパーティーに組みこんでるパーティーなんてよっぽどのもの好きパーティーしかいねえよ。」
「一応こんな感じのアイテムをオークションにかけるつもりではいるけど。」
ベルさんが破魔弓、ホーリーソード、祓いの柄杓を見せた。ベネッサさんが鑑定眼鏡をかけてアイテムを鑑定した。
「うわ、なんだこれ。ずっりぃ!こんなアイテムあったら探索簡単じゃねーか!」
「そうでもないわよ。25階層ではバンパイアが出たし。ちょっと卑怯な方法で倒しちゃったから今は別の魔物になってるでしょうけど、難易度は高いわ。甘く見てるとすぐにアンデットの仲間入りね。」
「ハァ?バンパイア?マジかよ。フツーのパーティーじゃ手におえねえぞ。」
「でもお宝はそれなりのが出たわ。」
「我こそは…!っていう身の程知らずの冒険者がたっぷりダンジョンの肥やしになりそうだな。」
「まあ、そんな感じよ。これダンジョンまでの地図ね。サービズに1階層の入ってから登録石までの最短ルートの地図もつけとくわ。」
「お。サービスが良いな。」
「調査班が死んでちゃ、こっちのお金にならないからね。あと、アタシたちは【アンチマジック】で解除して入ったけど、もしかしたら入り口は偽装魔法がかかってるかもしれないわ。」
「ますますめんどくせえ。」
ランタンと神官必須で光属性の付与された武器か光属性の魔術師必須。炎でも多少効果があるかも知れないけど試してないからわからない。10階層からはレイスが出た。罠は多め。等々。
伝えるべきことをみんな伝えた後、例の3品をはじめとする、大量のオークション品を提出して証文を作った。私たちは今後黄のダンジョンに向かってしまうので、オークションの代金は『銀の匙』の共同口座に振り込んでおいてもらうことにした。
***
「今日はどうします?」
「宿屋で1泊して、明日乗合馬車コースね。採集依頼でも受けてみる?」
「そうっすね。なんか簡単そうな感じの。」
ギルドのクエストボードで、常設【フーエン草の採取】というやつを受けることにした。常設は採取した後から依頼を受けるタイプの依頼なので、失敗しても失敗した事実がなく、ギルド評価に響かない。
私たちは森の中に入って行った。しばらくすると頭の中に声が響いた。
⦅ミーニャちゃんは気付いていると思うけど、今、アタシたちはつけられているわ。標的を割り出すために二手に分かれるわ。次正面に木が来たらミーニャちゃんとシータは右手に、アタシとイシュ君とジゼルちゃんは左手に曲がるわよ。なお、これはコマンダーチャームからの一方的な『指揮』だから、返信は出来ないわ。あしからず。⦆
正面に木が来たので左手に曲がった。それを繰り返してみた結果、標的はベルさんだと発覚した。ミーニャさんがイシュさんにハイドマントを貸して、イシュさんが接近予定。どういう用件か知らないが、危害を加えるつもりなら2人で叩くそうだ。ちょっと心配だが私とミーニャさんとシータさんは待機だ。
暫くするとベルさんとイシュさんが帰ってきた。
「ものすごく馬鹿馬鹿しい用件だったっす。」
「勘弁してほしいわね。」
二人曰く
ギルドの看板娘、ロミィちゃんは冒険者皆のアイドルである。いつも仕事を頑張ってる姿に癒されて、色々貢物をしたりしているが、ロミィちゃんに親しく触れられた男はいない。ロミィちゃんはそんなに安い女ではないのだ。ところが今日いつも通りロミィちゃんを鑑賞しているとロミィちゃんの可愛いお耳に何事か囁いて、無理矢理口を塞ぐ不届きな男がいるではないか。清らかなロミィちゃんにそんなことをするなんて許せん!みんなで袋叩きだ!ついでに金銭をせしめて、ロミィちゃんに何か貢ごう!
……という用件だったそうだ。
アフォか。
しかもE~Gランカーくらいだったそうだ。馬鹿なんじゃないの?流石に殺すほどでもないし、向こうにも殺意はないので利き手を奪うのも躊躇われたので、適当にボコって「馬鹿な事やってないで、働いて、身の丈に合ったお嫁さん貰いなさい。」とお説教してきたそうだ。ベルさんもイシュさんも流石に「ものすごい馬鹿馬鹿しい目にあった」とげんなりな模様。
「気を取り直して、フーエン草の採取しましょう。」
フーエン草はポーションの材料であるらしく、度を越さなければいくらでも買取りしてもらえる。流石の素材の鮮度の問題があるので『度を越さなければ』ではあるが。
割といろんなところに生えているので、サクサク回収できる。私たちはフーエン草を採取しているが、ベルさんは森で何か効能のある薬草を適当に摘んでいる。採取方法はきっちりだけど。抜かりないです。
「結構初見の薬草は多いわね。」
「お金になるっすかね?」
「どうかしら?アタシも流石に各薬草の需要なんてわかんないわね。鑑定眼鏡でも需要までは表示されないし。」
薬草を大量に収納して、ギルドに戻った。まずはフーエン草の常設依頼の処理をお願いした後「価値があるならこれも買い取ってほしい」とベルさんが採取した薬草を見せた。ロミィさんが鑑定眼鏡をかけて鑑定した結果、「ギルドマスター―――!!」と叫んで去って行った。
「なんだろう。」
「出発が伸びるような案件だったら面倒くさいんだけれどね。」
ベネッサさんが飛んできた。
「またお前らか!!ちょっと来い!!」
個室に連れ込まれた。
「お前ら、これ、この花どこで手に入れた。」
「テュナの花?勿論森だけど。」
「お前がどうやってこれが薬草だって見分けたのか知んねーけど、テュナの花は国の特定保護植物だぞ。フェドキア病の特効薬だからな。フェドキア病は…伝染病の一種だ。国を亡ぼす勢いで流行るレベルな。」
「あらまあ。」
「あらまあじゃねーよ。テュナの花は人工栽培が出来ねー植物なんだ。徹底した環境保全策がとられる。ダンジョンと近いか?近かったらダンジョンへの出入りはアウトなんだが。」
「いえ。別方向よ。結構遠い。今は割といっぱい咲いてたし。」
「うしっ。情報料は国が出す。明日テュナの花が咲いてた場所まで案内しろ。」
「仕方ないわねえ。」
「あと買取の方もそこそこ色を出す。おめーらのせいで、惰眠を貪る時間もねーよ。しかもこのあたしが『書類仕事』だしな。情報料はテュナの花を発見した人間に与えられる規定額だ。ごねるなよ。」
証文を交わした。
***
翌日テュナの花まで、ギルド員を案内して、解放された。余計な時間を食ったのでもう1泊。
ストックが切れました。続きも書いてません。なんかテンション下がり中です。




