第62話
あけまして、おめでとうございます!
今年も宜しくお願い致しますm(_ _)m
翌日、水と迷い人の糧でみんなに食事をさせ、『銀の匙』のみんなとエレーナさんにも【クリーン】をかけてあげた。エレーナさんは随分顔色が良くなっていたし、とっておきのシスター服に袖を通していた。
「では、参りましょう。目指すは領主館です。」
エレーナさんを先頭に私たちが後ろを守るような配置で、領主館で向かった。街の人々も、もう暴動を起こす気力もないらしく、雑草を噛んで飢えを癒している。
領主館をノックするとよろよろとした侍従が扉を開けた。
「バハムさん、お久し振りです。エレーナです。リリーヤ様にお取次ぎ願えませんか?」
「孤児院にもっと食料を…という件なら…」
「違います。リリーヤ様のお心掛け次第でこの街を救えるかもしれない、というお話です。」
「そんな夢物語…」
「夢物語かどうかは話を聞いてみなくてはわからないでしょう?」
「リリーヤ様に聞いて参ります…」
侍従がよろよろと奥に引っ込んでいった。
やがて戻ってきた侍従に奥へと通された。執務机についているリリーヤ様は頬はこけ、それでも眼だけはギラギラ死んでない、女傑という称号に相応しい女性だった。
「やあ、エレーナ…どういうわけだい?なんだか随分身綺麗じゃないか。それに元気そうだ。」
「リリーヤ様に折り入ってお話があってきましたの。重要な…それはもう重要なお話ですわ。私も連れを下げさせますから、リリーヤ様もお人払いをお願いできますか?」
「いきなりやってきて随分な言い草だね。」
「誰にも漏らされたくない、密談ですの。」
「……。」
リリーヤ様とエレーナさんは見つめ合った。
「……全員部屋から出ろ。」
「リリーヤ様!」
侍女が非難の声を上げる。
「大丈夫だ。いくら弱っていてもエレーナくらい私一人でどうとでもできる。皆も知りたいだろう?エレーナがどうしてこうも生まれ変わったように元気なのか。」
「……扉の前で待機致します。」
「うむ。」
侍女がやるせない風ながらも主の決定に従って頭を下げた。全員ぞろぞろ部屋を出ていく。
『銀の匙』のメンバーも部屋を出て扉の前で待機。誰も扉の中に入らぬように使用人と睨み合う。一応リリーヤ様を説得するに、物証があった方が信じやすいだろう…とベルさんの持つ『迷い人の糧』と『クリエイトウォーターボトル』をエレーナさんに預けてある。2時間ほどみっちり話し合って、リリーヤ様とエレーナさんが部屋を出てきた。
「住民の支援準備に入る。誰からも見られない密室になっている個室を一つ準備しろ。大きな盥と、ワゴンも。それから、街の井戸が記されている地図が必要だ。あとこの手紙を、ファフネと、レミナに届けろ。住民を助けたくば、這ってでも来いと伝えろ。」
「し、支援!?支援できる宛てがあるのですか!?」
侍女が吃驚した顔をした。
「ああ。信心深い私の元には天使が来たのさ。」
リリーヤ様は強気に嘯いて私たちを個室に通した。
「ええと、名前は伏せられているがこのパーティー中の二人が井戸の浄化作業に当たるのだよな?」
「そうよ。アタシと…」
「私が。」
「では君ら2人は、食糧支援の方から外すとして、例の魔道具を使わせるのに、飛び切り口の堅い人材をこちらで用意するということでいいのかな?」
「ええ、構わないわ。そのうち魔力は尽きるでしょうから魔石も沢山託しておくわ。」
「ありがたい。全てが片付いた暁にはファフネとレミナと協議して、報酬を出すから、しばし力を貸してほしい。」
「報酬の方は無理しなくていいわ。これは『神の奇跡』ってことになるのよ。金庫からお金が消えてたら不正を疑われちゃうわ。」
「しかし…」
「いいのよ。ただし、絶対に条件は守ってちょうだい。他人を助けたせいで自分が窮地に陥ったりしたら人助けが馬鹿馬鹿しくなっちゃう。」
「わかった…」
私とベルさんは地図の井戸に数字を振った。それぞれが担当する井戸の配分と私の確認用だ。まずは手近なところ。この領主館の井戸に【クリーン】をかけてみた。一度では毒の表示が消えずに不安になったが、6,7回クリーンをかけると『毒水の井戸』が『飲料水の井戸』という表示に変わった。この調子でバンバン行こう。
私はベルさんと手分けした。早くも支援のことが広まって、ぞろぞろとゾンビのような足取りで人々が領主館へと向かっている。胃腸が極限まで弱っている人や離乳食時の赤ちゃんの為に、例のビスケットを粥にできないか…という試みも始まっているようだ。
「押さないでください。食べ物はたくさん用意できます。1人2つ。子供がいる人はその子供も連れてきて証明を…寝たきりのご家庭は特別処置をとりますので手続きを…」
早速自分の分を食べて少し元気が出た侍従さんたちが、人員整理をしている。
私は井戸を浄化して、同時にベルさんから入ってくる別の井戸の情報をやり取りした。
昼食時一旦領主館で、食事をとり午後も作業。
***
3日くらいするとかなりの井戸が復旧できた。きちんと浄化出来る自信もついて作業が捗る。リリーヤさんは徹底的な情報管制を敷いている。作業中に復興してるという噂を聞きつけて、本来の領主である親御さんに戻ってこられては、折角の機密保持が台無しだからだ。この街は復興してない風を装って復興してるのである。
ファフネ様とレミナ様もグレイリーの街に駆けつけて、復興の様子を見て、その理由をリリーヤ様に問い詰めてきた。
そして完全な機密保持を条件にシータさん、イシュさん、ミーニャさんを連れて自分の街へ帰って行った。規模的にはややロンガの街が小さめなので、そこが1人の割り当て。
ぶっ通しで働くこと1ヶ月。全ての街の井戸の浄化に成功した。住民は速やかに収穫の早い葉野菜などを育てるように推奨された。各女傑は「食糧支援は今後打ち切られる可能性もある」と告げていたので、住人の手配は早い。
更に1,5ヶ月。そろそろ収穫…と言った頃リリーヤ様に呼び出された。
「街が復興しているという情報が漏れたらしい。近いうちに父の視察が入るので君らはもう立った方がいい。今までありがとう。これは私からだ。」
100万ギル渡された。
「少ないが虎の子だ。私自身のポケットマネーだから消えても罪に問われはしない。君らの齎してくれた功績からすると些か少なすぎるが…感謝している。ありがとう。」
「ええ。ではこれは有り難くいただくわ。」
ベルさんと共に『迷い人の糧』と『クリエイトウォーターボトル』を回収した。街まで赴き、仲間全員を回収して、旅立った。ファフネ様もレミナ様も100万ギルずつポケットマネーをくれた。示し合わせていたようだ。
「濃ゆい2.5ヶ月だったにゃ。みんな、にゃーの寄り道に付き合ってくれてありがとにゃ。」
「いいのよ。」
「大丈夫っす。色んな人が救えてよかったっす。」
「ボクはもうお腹の皮がくっつきそうだ。流石に飢えている人々の前でスイーツボックス開けるわけにはいかなかったし。ジゼル。肉串だ!肉串が食べたい。」
「はい。」
私はシータさんに肉串を購入してあげた。
風の便りに「老衰かと思われていた国王が本復した。」と聞いた。良かった…けど、かなり時間を食っちゃったな。




