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第61話

最初は小麦に特殊なカビが生え始めたところが原因らしい。黒っぽい黴で、その黴のついた小麦を摂取するとお腹が酷く下る。ぽつぽつ出始めた…と思ったら一気に小麦が全て黴に侵された。それでも最初は小麦が全て駄目になってもまだ野菜とかがあるし…と小麦農家は今にも首吊りそうな様子だったが、まだ立て直せるだろう…とみんな思っていた。ところが…何者かに井戸に毒を流し込まれた。水を飲めば死ぬし、井戸の水を畑に撒いた日には畑が駄目になる。一気に人々は絶望した。数日に1度くらい雨が降って、みんな雨水を溜めて、飢えを凌いでいたが、水だけで食べるものがない。辛うじて残った野菜や、牛や豚や鶏を潰して飢えを凌いでいたが…もう。という感じであるらしい。因みに馬を持っているような奴は早々に馬で街から逃げ出している。3つの街の領主もいち早く王都の屋敷に逃げ出したらしい。


「ちょっと待って。今この街は誰が動かしてるの?」

「ご領主の長女で、一人だけ街に残られることを選択したリリーヤ様です。因みにリリーヤ様はこの辺りでは3女傑と呼ばれておりまして、同じく3女傑のファフネ様がシャモエの街を、レミナ様がロンガの街を動かしています。それぞれがご領主の娘さんで、領主代行権限を持っています。」

「それって信用できる人?」

「勿論です。民は彼女らを神のように慕っています。彼女らは領主館に残っていた財をありったけ投入して食料の買い付けを行いました。何しろ領主が自分が王都に逃げる際にほとんど持ち去ってしまったので、あまりお金がないのです。それももう尽きています。」

「そう…」


ベルさんは何か考え込みながら地図をチェックし始めた。


「とりあえず、今日は皆さんのご厚意で食べさせてもらいましたが、この街はもう、いつ滅びてもおかしくないのです。丈夫な足がおありなら皆様だけでもお逃げになった方が…」


ベルさんが地図のチェックを終えて振り返った。


「はい、どどん。名付けて『神の奇跡大作戦』」


なんぞそれ。

ある時、グレイリーの街と、シャモエの街と、ロンガの街が崩壊寸前に追い込まれました。小麦はカビ、井戸に毒が流され、人は飢え、苦しみました。そこで、信心深いリリーヤとファフネとレミナという女性たちが、「街をお救い下さい…」と神に熱心に祈ったところ、美味しくはないが栄養満点の食べ物と、沢山の水が、彼女らの目の前に現れたのです。彼女らは人を指揮し、街の人々に食べ物と水を配り、危機を凌ぎました。辛抱強く我慢していると、徐々に井戸の毒が消え始めたではないですか。そうして3つの街は信心深い女性の祈りのおかげで難を逃れたのです。


「……というストーリーよ。」

「いえいえ。現実問題、どこからそんなに大量の食べ物と水を…?」

「はい、よく見て。さっきあなたも食べたこの食べ物。」


ベルさんがケースに入った迷い人の糧を見せた。そして中身をテーブルの上に落とした。


「蓋を閉めてもう1度開けると、ほらこの通り。」


新しい迷い人の糧がストックされている。


「こ…これは…!」

「水の方もいくら出しても魔石の魔力が尽きるまで蒸留水を吐き出し続けるボトルがあるわ。」

「それなら…でも1組じゃ救える街は1つくらいしか…」

「みんな。」

「「「「はい。」」」」


私たちはすちゃっと自分の所持している迷い人の糧とクリエイトウォーターボトルを出した。5組ある。冒険者やってたので自分たち用にストックしていた魔石も割とたくさん所持している。


「……あなた達は、神の使いなのですか…?」


エレーナさんが真顔で聞いてきた。


「まあ、そういうスタンスで行くわね。」

「でも井戸の毒が消えるというのは…?」

「まあ、井戸の毒って極論『汚れ』よ。ジゼルちゃん、どうすればいいかわかるわね?」

「【クリーン】ですか?」

「ええ。多分【アンチポイズン】でも消えると思うけど、アタシとジゼルちゃんが作業ね。」

「毒を消せるのですか?」

「すぐに全部の井戸をっていうのは無理よ。1つずつじわじわならなんとか。ジゼルちゃん、どうも例の地図の方に汚染されてる井戸はそう表示が出てるみたいだから、浄化出来たらその都度地図でチェックしましょ。特殊な方の地図はジゼルちゃんが持って、アタシは普通の地図を借りるから、浄化できたかどうかは共鳴のイヤリングでジゼルちゃんに確認してもらう。1度の【クリーン】や【アンチポイズン】じゃ浄化できないかもしれないし、そうしたら重ね掛けね。」

「はい。」


ベルさんの指揮の元どんどん話は詰められた。


「アタシたちの要求はただ一つ。」

「なんですか?」


エレーナさんがごくりと喉を鳴らす。


「アタシたちが街を救ったことを誰にも漏らさないで欲しいのよ。」

「?何故ですか?もし達成されれば、そんな偉業表彰されてしかるべきでは?」

「この道具を見てエレーナさんは『すごいなー』と思わなかった?」

「思いました。」

「普通は更に『欲しいなー』と思うものなんだけど、そういう道具をアタシたち5人全員が入手している状況をどう思う?」

「……どこで手に入れたんですか?ダンジョンで手に入れるにしても5組も…」

「そう思われるのが困るのよ。普通その入手経路が知りたいはずだし手に入れたくなるでしょう?さらに自分がちょっと権力持ってて相手が冒険者風情だったら、無理矢理拘束して吐かせちゃおうかなー…とか。」

「…思いますね。」

「それは絶対に困るのよ。アタシたちにとってこれの入手経路は絶対に秘密だし、その秘密を吐かされるために拘束されるのも困るの。」

「なるほど、得心しました。」

「だから、3つの街を救う対価は『救われた方法』を永遠に口外しないこと。それが守れないなら協力は致しかねるわ。手柄は全て3女傑と神様が持っていけばいいの。エレーナさんにはまずはリリーヤ様に上手に話を持ち掛けて欲しいの。リリーヤ様には他の二人に上手に話を持ち掛けて欲しい。滅びを待つか、永遠の秘密を持つか。」

「わかりました。」

「とりあえず日が暮れたから今日は休みましょう。エレーナさんも明日はパリッとして、神の恩恵はすごいんだぞ…っていうオーラを出してちょうだい。」

「が、頑張ります。」


私たちは孤児院で休んだ。


皆様、良いお年を!

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