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第57話

採取も色々試してみたが、やはり大きく稼げる感じではなかった。取り合えず、今日はまたフォレストウルフの討伐である。私のグロ耐性も随分上がりました。腸が飛び散ってもお夕食にお肉が食べられるレベルに。元々食べるものがなくて、小さい頃はちゃっちい罠を仕掛けて、運よく兎を捕らえられたら(あまり期待は出来ない)捌いて食べるくらいの耐性は持ち合わせているし。それがちょっと派手に飛び散ってるだけ…

もはや作業である。どんどんやってくるフォレストウルフを作業的に狩っている。

ベルさんとミーニャさんとシータさんは何となく気がそぞろな感じだが。


「うわあああああああ!!誰かああっ!!誰かああっ!!」


大声がした。


「案の定にゃ。」

「どうしましょうねえ…」

「有り難くない展開だ。」

「何があったっす?」

「女の子の悲鳴みたいでしたけど…」


ベルさんの説明曰くこうだ。ベルさん、ミーニャさん、シータさんの探知できる範囲内に人間の反応がある。『剣士』と『盾剣士』と『魔術師』と『槍士』のジョブの人間が4人と非戦闘員が2人。この組み合わせから考えられる結論は、ズバリ護衛と護衛対象である。護衛の実力の方は悪くなさそうだが、こんな辺鄙な森に護衛対象がいるって時点で厄介ごとの匂いがする。今のは何らかのトラブルがあって助けを求める声だとは思うが、索敵的に言うと30匹のフォレストウルフに囲まれている。動きの鈍さを考えると護衛は怪我をしているかもしれない。此処で問題。助ける?いや、別にフォレストウルフくらい殲滅していいよ?でも護衛が深刻な怪我をしていた場合どこまで治す?オーバーヒールはちょっとまずい気がする。護衛対象がやんごとない方だったら面倒ごとに巻き込まれるかも…と思うと中々すぐ助けに行こう!と思えないのである。でも若い女の子の声だった。此処で見捨てるのは多分すごい寝覚めの悪いことになる。短い会議が行われた。私たちはそろそろとできるだけ気付かれないように近寄った。そういう芸当が出来るのは本来ベルさんとミーニャさんとシータさんだけなのだが、護衛の方も護衛対象の方も自分のことに手いっぱいで気付いていないようだ。やはり彼らは窮地に立たされているようだ。護衛の全員が何らかの怪我を負い、且つ2名は重症である。私はまず、その場にいる全員に片っ端から【スリープ】をかけた。全員がぱたりと倒れるのを確認してイシュさんが【多重盾】+【シールドバッシュ】でフォレストウルフを叩く。勿論【エンチャント・火】がかかってる。戦闘の方は仲間に任せて、私とベルさんは怪我人を見る。重症なのは魔術師と槍士だ。足元を切り裂かれ足の腱を切られていたり、右手首の先がない。


「変ね…」

「何がですか?」

「傷口が『瘴気』を纏っているわ。このまま回復させても肉が腐ってアンデット化してしまうわ。」

「どうすれば?」

「【ホーリーショット】を打ち込んでもらえばばっちりよ。あれ生きた人間に打ち込んでも大丈夫な奴だから。」

「じゃあ、やってみます。」


私は4人に【ホーリーショット】を打ち込んだ。ベルさんがその上で【オーバーヒール】を使った。4人とも全快、侍女と貴族令嬢と思しき護衛対象の女性二人は普通の軽い擦り傷だったのでベルさんが【ヒール】で治した。

仲間が殲滅したフォレストウルフの尻尾を回収して、6人を運んだ。イシュさんが女性2人を抱えている。竜人族なだけあって力持ちなのである。

冒険者ギルドで「森で眠り込んでいる人間を発見したので、保護してきた」と言って預けた。昏睡状態だが時間が経過すれば起きるので大丈夫だ。

我がパーティーは通常通り常設依頼の達成報告を出して、収入を貰った。74匹のフォレストウルフなので74000ギル。稼げるような稼げないような…



***

翌日ギルドへ行くとギルマスに呼び出された。


「『銀の匙』の皆さんだね。私は冒険者ギルドボルルックシティ支部ギルドマスター、ジャスティンだ。昨日キミらが保護した方たちが、君らに会いたいと言っていてね。詳しくは言えないが、やんごとない方々だから、決して、決して失礼のないようにね。」

「『会う』とは言ってないのだけれど…」

「君たちに拒否権はないよ。」

「そう…」


やっぱり相当なお偉方だったのだろう。

部屋に案内された。やはりVIPルーム。中には侍女に傅かれた令嬢と、その後ろにずらりと整列している4人の騎士の姿があった。昨日はあまり意識していなかったが、どこからどう見ても騎士だな。

ベルさんは優雅に礼を取った。


「お呼びと伺い、参上いたしました。Eランクパーティーの『銀の匙』です。」


騎士たちが『Eランクパーティー』と聞き、微かに眉を動かした。

慌てて頭を下げる。正式な礼儀作法など知らない。


「よい。面を上げよ。そなたらが我らを救ってくれたということで、相違ないか?」


声をかけたのは胡桃色の髪に青い瞳の美しい令嬢。


「直答をお許しください。相違ございます。我がパーティーは森で眠り込む尊いお方らを発見し、ギルドまで運んだにすぎません。」

「うむ。ギルド職員にもそう聞いた。しかし、おかしいのじゃ。我らの護衛は【ハイヒール】では到底治らぬ怪我を受け、瘴気まで受けていた。それが目覚めてみればきれいさっぱり無くなっている。到底考えられぬことじゃ。誰かが治したとしか考えられぬ。」


ベルさんは少し考え込んだ。


「私が思いますに、尊き方らは、何かとてつもなく恐ろしい思いをされて、夢でもご覧になられたのではないでしょうか?」

「貴様!我らを愚弄するか!」

「よい。」


激高した護衛を令嬢が宥める。


「もし命を救ったのであれば無論謝礼はするつもりじゃぞ?部位欠損を治せる治癒術師などがいれば好待遇で迎え入れる用意もある。」

「勿体なきお言葉。されど虚言を弄して報酬をせしめるほど落ちておりませぬ故。」


令嬢はふふと笑った。


「では仕方ないの。手間をとらせた。」


無事私たちは釈放された。


「結構話の分かるお姫様で良かったわね。」


ベルさんがこそっと囁いた。


「姫…?」

「王族の証たるブローチをしてたわ。それの価値を正しく判断できるか、またそれを知ったうえで、どう行動するか確認してたのね。みんなはアーレンスの森を抜けた先はどこへ通じているか知ってる?」

「知らないです。」

「知らん。」

「マルフォーレ国っすね。」

「あ、聞いたことあるにゃ。」


流石にイシュさんのような地元民はご存知なようだ。


「そうよ。シルディアの王都からマルフォーレ国の王都へ通じる最短距離はここを通るのよ。王族のブローチを持っていれば緊急時に関所以外の所からの国同士の移動は認められてるわ。特にマルフォーレ国とは友好国だしね。」


マルフォーレ国のお姫様が何らかの緊急事態が発生して、最短距離を突っ切ろうとしたところで、何らかのトラブルに遭遇したのだろう。

ちょっと面倒くさそうな話だ。



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