第33話
「よし!今日も海に行くか。」
シータさんの提案で海に行くことになった。
勿論海ではベルさんと二人っきり。シータさんとイシュさんも二人でデートだ。
「もうジゼルちゃんも泳げるし、少し遠くまで行ってみましょうか。」
「はい。」
ベルさんとあっちへ泳いだりこっちへ泳いだり。海は澄んでいてとっても綺麗だ。二人で海水浴を楽しんだ。
「あー…久しぶりにたっぷり泳いだわあ。」
「海って楽しいですね。」
「毎日だと流石に飽きるけれどね。それにアタシたちはクリアスキンスクロールというズルい手段を使ったけど、普通は真夏の太陽の下で海水浴なんてしたらその晩は日焼けで苦しむものなのよ。黒くなって皮が剥けちゃったり。アタシも1度脱皮したことあるけど、それはもう、無残なお肌よ?」
「そうなんですかー。」
脱皮…確かに周囲をよーく観察してみると脱皮している人も幾何かいる。真っ黒な素肌が破けて中からピンクの素肌が見えてる人。まあ、美しくはないね。それでも熱い時に冷たい水に入るのは堪らないんだけど。
昼食はまたお肉を食べた。今度は焼き鳥が売っていたのでそれを。ジューシーな鶏肉が美味しいです。小さな串なので一人5本くらい食べてお腹を満たした。
「ちょっと向こうへ行かない?岩場だけど、海が綺麗に見えるところがあるの。」
「はい。」
岩場の平たい地面で波打際は波が弾けているが、海水浴場からはやや遠く、海がよく見える絶景スポットだった。
「綺麗です…」
「ふふ。満ち潮の時は水没しちゃうんだけどね。座りましょ。」
ベルさんが収納リングからバケツを取り出し、海水を岩場に撒いて岩を冷やした。日光でかなり熱くなってたみたいだからな。
適度に冷えた岩場に腰掛ける。
「二人結婚して一人離婚してたわ。小さい頃は普通の子だったのに、結構なろくでなしに成長しちゃったみたい。」
ランディも小さい頃は普通の男の子だったなー。
「結婚した方の片方は10年以上片思いした後の結婚だったのよ。浮かれてたわ。幸せそうで何よりね。」
「素敵ですね。」
「ふふ。酔っぱらって妻に贈る愛のポエムを聞かせてくれたわ。」
「それはどうなんでしょう。」
酔いから醒めて記憶が残っていたら恥ずかしくなるのでは?それとも詩歌のプロだとか?お察しだろうが、私は生まれてこの方詩集なんて読んだこともないけれど。
「ふふ。ジゼルちゃんは昨日は?」
「シータさんもご友人に誘われて飲みに出かけてしまったので、イシュさんと二人でした。私もちょっとだけお酒を頂いたんですけど、見事に記憶が飛んでしまって…全然昨日のこと覚えてないんです。」
「あらあ…でもいいわね。アタシもジゼルちゃんと飲んでみたいわ。以前誘ったときは断られてしまったから。」
「そうですね…そのうち。でも二日酔いが結構つらいので沢山勧めるのはよしてくださいね。」
「ええ。」
……。
……いいかな?
ふ、二人っきりだし…ちょっとくらい甘えても…
ぴとっとベルさんの肩に頭を預けた。
「……失策だったわね。流石に上着は脱げばよかった。ジゼルちゃん、冷たくない?」
そんなことを気にしてるベルさんがおかしくてふふっと笑った。確かに額に感じるのは湿った服の感触だけどね。
ベルさんは私の腰を抱き寄せた。
「ふふ。うちの宿には実は混浴施設もあるのよ?一緒に入る?中での性交はご法度だけど。」
「やめときます。」
全裸はちょっと…恥ずかしすぎる。どんな顔していいかわかんない。
「うふふ。『混浴施設』なんていうと色っぽい響きだけど、実はお子さんと入る家族連れが多いのよ。」
「そうなんですか。」
「だから結構賑やか。情緒はないけどね。」
シータさんと入る普通の温泉でいいかな。
海を見ながらベルさんに甘えた。なでなでされた。生の腰を撫でられるのは微妙に気持ち良くて変な声が漏れそうなんだけど…真っ赤な顔をしてたらベルさんに笑われた。
「ジゼルちゃん可愛いわ。」
「…有難うございます。」
ベルさんはいつでも素敵です。シータさんも頑張ってるかなあ。イシュさんガード固いからなあ…いちゃいちゃして集合時間が近づいてきたので、4人集合した。【クリーン】で塩気を落として更衣室で着替えた。
「いやあ、クリアスキンスクロールは偉大だな。全然日焼けしない。これはいい!」
シータさんがすごく喜んでる。
「シータは毎年夏になる度脱皮してたって母さんが言ってたわ。」
「う、海が誘惑するのがいけないんだぞ。」
シータさんが慌てたので、みんなで笑った。活動的というかやんちゃなシータさんらしい。
宿に帰ってシータさんと温泉に浸かる。
「ジゼルは兄殿とのデート楽しめたか?」
「はい。海がよく見える岩場に連れて行ってもらいました。シータさんは?」
「二人で泳いで、遊んで、楽しかったが、甘い雰囲気にはならなかったな。……もう最終手段として、兄殿にイシュの好みのタイプを聞き出してもらおうかな?」
「落ち着いて控えめな深窓の令嬢が好みのタイプだって言われたらどうします?」
「……失恋が確定するな。ボクにはそんな未知の生命体に進化できる素養はない。」
「まあ、私はシータさんは魅力的だと思いますが。」
「有難う。しかしボクは本来結構せっかちな性質でね。まだるっこしいのはそんなに好きじゃないんだ。そのうち当たって砕けてしまうと思う。ボクのせっかちな精神が限界を迎える前に少しでも好感度あげておきたいんだが…」
シータさんは溜息をついた。
うむう…シータさんは思いっきりが良いからなあ。堪忍袋の緒が切れたらズバーンと言ってしまうのだろう。
たっぷり温泉を楽しんだ後、お部屋で海の幸。
「ジゼル、お刺身も三日続けてだとちょっと飽きたんじゃないか?」
「美味しすぎて当分飽きそうにないですけれど、シータさんが飽きたなら、明日は別の料理にしてもらいましょうか?」
「うーん…ジゼルが飽きてないならお刺身でもいいが、ブイヤベースとかも結構旨いぞ?」
「じゃあ、明日はブイヤベース?にしてもらいましょう。私は食べたことないので楽しみです。」
お刺身美味しい~。むっちりぷりぷりのお魚がなんとも。今日はベルさんが厨房にリクエストしていたようでカツオのたたきがついてきた。ほんのり表面を焼かれたカツオを生姜醤油でいただく。おいしい~。私以外のみんなはお酒を楽しんでいるようだ。
「あー…豚がさらに豚になるっす。」
「イシュ、自分のことを『豚』と呼ぶのは止めろ。イシュは多少ふくよかだが、その…すごく良い男だし…イシュのことを豚だと言われるとボクが不快だ。」
「でも本当のことっす。」
「ボクだってイシュの見た目が美しいとは言わないが…それなりに愛嬌があるし、ボクは可愛いと思っている。」
「……。」
イシュさんは自虐するとかそういう時点を既に通り越して普通に自分のことを『豚』だと思っているようだが、シータさんはそれが嫌なようだ。シータさんがすごく真剣な顔をするので、イシュさんは言葉を失っている。
「私の恋する人ではないですけど、私もイシュさんは魅力的な男性だと思います。」
「……。」
「イシュ君は少し見た目に捕らわれ過ぎよ。アタシ自分で言うのもなんだけど、初見はすごくモテるのよ?でもこの口調でしょう。すぐに女の子にはそっぽ向かれるわ。人の見た目なんていくら良かろうとその程度のものなのよ。イシュ君は性格が美しいわ。見た目は良かろうと悪かろうと味付け程度の事だし、イシュ君の内面に惚れて、見た目をも好ましく感じちゃう女の子もいるわよ?」
シータさんみたいにね。
「や、やめてください…。自惚れちゃうっす。」
「少しは自惚れた方がいい。イシュは自己評価が低すぎる。」
「……。」
イシュさんはグラスのお酒を一気に煽った。
ガンガン飲んで酔っ払って潰れていた。




