ex 伝説の婆さん達は今日も騒がしい
「ほら速く来るんだよ」
「うわーん」
わたしは今、ダンジョンに来ていた。
つい最近できた迷宮らしい。規模も分からないし危険度も分からない。
わたしを置いていくアルマ・ビュトナー学長の後ろを必死で走りながら泣き言を言う。1人だけなんで絨毯に乗ってるんですか。スペースあるじゃないですか、わたしも乗せていってくださいよ……。
どうしてこんな目に。安全に稼げる仕事って言ってたじゃないですかせんぱーい……。英雄パーティの3人がいるんだから安全ではあるのか……。嘘言ってないのが腹立つな。
コンプレックスのくしゃくしゃの赤毛をいじりながら気持ちを落ち着けて走る。
「研究のためにお金が必要なのよね?ちょっとがんばればお給料はずむからがんばりなさい」
「アンヘルムさん優しくて好きですー」
そう、働いていた研究所が燃えて職なしになったわたしは、以前の職場の先輩から仕事を紹介されたわけなのだが……。
「あらありがとう。でもアンヘルムって呼ばないでね。男っぽくて嫌いなのよ」
「むむ。じゃあなんて呼べば?」
「アンちゃんとか」
「アンさんで」
あの超超超有名で、海外からも求める人が多く、魔道具を一旦市場に出せば天文学的値段がつくアンヘルムさんをアンちゃんなんて呼べるか!
「ひっ」
何かが肩に当たってると思えば大きいカエルの長い舌がわたしの首に巻き付こうとしてます!?
「『燃えろ』」
アルマさんが指を向けてそう一言言うとカエルはたちまち炎をあげて燃え、燃え……あっつ!?あついあつい!!?
「あ、ごめん加減間違えた」
「バカアルマ」
「てへ」
ジルケさんがアルマさんをどついた後私に向かって守護の祝詞らしき言葉をかける。あ、熱くない。
「ラウルだったらちょっと燃やしただけなら気にすらしないし、ね?」
物語に出てくる魔女というより精霊の女王みたいな老いてなお、いや老いたからこそ神秘的な美しさを湛えるその顔と、変わらない表情で誤魔化されてきたけどこの人結構適当だな!?
あの見るからに頑丈そうな先輩と年齢を考えてもちっさいわたしを一緒にしないでくださいよぉ。
「もう1回どつく?マヤ、今回復する」
「ありがとうございます」
光に包まれたと思ったら赤くなった部分が綺麗に無くなっている。さすがに焦げた服は戻らないようだ。でもなんかここまで走ってきた疲労感も消えてるかも。すごい。
「それよりさ、このカエル見覚えある?マヤだっけ、生物学者なんだよね?」
「ないですよぉ、なんですこのデカイカエル。物理法則無視しすぎじゃないですか」
「まあ!マヤちゃん服が焦げてるじゃない。あとで私が繕ってあげる」
「あ、ありがとうございます」
「そうだ、服何個かあげるわ!女の子だもの、オシャレは必要よね。マヤちゃん可愛いしどれもきっと似合うわ」
「は、はあ」
オシャレは好きじゃないというか、着せ替え人形にされるのは苦手だ。服がたくさんある空間って閉塞感があって息が詰まる。もちろん口に出して言わないが、いざとなったらなんとか逃げよう。
『あのなぁお前達。今日は調査だってこと忘れてないか?』
「私はしっかりやってるよ」
『なら燃やさないで生体サンプルくらい持って帰って来たらどうだ?』
「……」
アンさんが肩にかけている黒い箱から声が聞こえる。……誰?
『まだ自己紹介してなかったな。私はイーディスだ。家名は訳あって言わないがよろしく頼む、マヤ』
いやいや、この面子でイーディスってことは公爵家の……。
『本当に気にしなくていい』
「信じますからね!イーディスさん!」
『ふふっ、助かる』
「イーディス、カエル倒した」
ジルケさんが大きいカエルを引きずってくる。
「ぶん殴ったら倒せた。この情報は役に立つ?」
あ、わたしに聞いてるのか。
「そ、そうですねぇ。打撃無効じゃないっていうことが分かりましたね?」
自分でも何言ってるか分からなくなってきた。
「持ち帰って顕微鏡で見たいです」
「顕微鏡持ってるの?いいわね。良ければ見せてくれたり」
「いいですよ」
「やった」
多分自分で作れるだろうに。
「けんびきょうって何?」
「拡大して見るための道具だね。虫眼鏡の性能向上版みたいなものだよ」
「へー」
「ジルケさんも見ます?」
「見る」
「む。私は仲間外れかい?」
「見せます、見せますよ!」
見る機会絶対沢山あるだろうアルマさんは!
「私にちょっと冷たくないかい」
アルマさんが不満そうに私を見て首を傾げる。
『さっきの自分の行いを思い返したらどうだ?』
「今度会ったら燃やしてあげようか?」
「待って、今度じゃなくて今ちょっと火出てる!これ結構手間かかってるんだからね!?」
「ん。マヤのことはしっかり守る」
「あ、ありがとうございます?」
あの……ダンジョン攻略は?
わたしはそう思ったが、当然この争いに入るわけにはいかず、というか入ったらただじゃすまなそうだし……、見ることしかできないのだった。




