うちゅうじん はじめての ごはん 後編
とりあえず、お冷とおしぼりを出す。
基本にして王道、なにはともあれこれをやらないことにはなにも始まらない。
「がらす、つめたい」
「ぬるめがよろしいでしょうか?」
「つめたいのがいい」
コップと水が珍しいのか、コップを傾けて水が波打つのをまじまじと見つめている。
真上からのぞいてみたり、コップを持ち上げて真下からのぞいてみたり。
年齢はロリリア様と同じくらいに見えるけれど、仕草が子どもっぽくてもっと幼く感じる。
ついにお子様セットを出す日が来たかもしれない。
ロリリア様に出そうとしたら渋い顔で脛を蹴ってきたし三日くらい来てくれなくなったお子様セットを……。
「何かご注文はありますか?」
「ちゅうもん。……ちゅうもん?」
ボクの言葉もそっちのけでコップを観察していた子が、こっちを向いて首をかしげる。
もしや注文という概念がない世界からのお客様だろうか。
「食べたいものとか、飲みたいものがあれば言ってください」
「ひとに? ロボットにいわないのか?」
「おっと未来すぎて人間に注文する文化がなさそうだぞ」
「ロボットのホールスタッフはいないのか?」
「いません……あったら欲しいです……」
「びんぼうなみせだな」
「ごめんなさい……人間しかいなくて……」
一回に一台メイドロボット、欲しいよね。
ペッパーくんとかネコ型ロボットが注文を聞いてくれるファミレスも増えてきたし。
冷蔵庫(仮)に自動給仕機能とかつけられないかな。
「それで……なにかご注文は……」
「にく」
「肉ですか」
「にくだ」
何の肉だよ。
焼肉屋でも具体的にどんな肉か注文しないと出てこないんだぞ。
「牛ですか、豚ですか、鳥ですか?」
「にくだといっている」
「鶏の唐揚げとか牛肉のステーキとか色々ありますけど」
「なんだそれは。にくは、にくだ」
「失礼ですがそちらの世界のお肉の原材料は……?」
「だいず」
「合成肉!?」
いくらなんでもそれは食べたことがないし、豆腐ステーキも大豆のうちに入るのか怪しいから頼まれても出せるかどうか分からない。
およそ一般的なお店では絶対に出てこないようなメニュー、今までで一番の強敵かもしれない。
「パックにはいっている。ペーストになっている」
「宇宙食だこれ!」
「そしてサプリメントといっしょにたべる」
「ディストピア飯……!?」
宇宙食ですら本物を使っていることを考えたら、ほんとのほんとに代用食品かもしれない。
コオロギを食べるってレベルじゃねえぞ。
「ここにはないのか……? どんなへんきょうでもたべられるぞ……?」
「ごめんなさい……ないんです……」
まさかレベルの低さで負ける日が来るとは思わなかった。
いやもしかしたら美味しい合成肉かもしれないけど。
でもどうせだったら代用食品じゃなくて本物を食べたくない……!?
「お客様、大豆以外のお肉にご興味はございませんか?」
「ない」
「まあまあそう言わずに」
「たべない」
「食べず嫌いってよくないと思うんですよ」
「やだ」
「食べて」
「やーだー」
「可愛くいってもダメです」
「ぐう」
きゅるる、と可愛らしくお腹が鳴った。
足をパタパタと振っていたこの子も恥ずかしかったのか、机の上に顔を伏せている。
「耳まで赤くなっていますが」
「なってない」
「なってます」
「おなか、なってないもん」
「ワォ……so cute……」
この子を撫でてもいいだろうか。
ワンチャン通報されるかもしれないけど可愛い子犬は撫でるものだと、おばあちゃんが言っていた。
「うええ……」
よほど悔しかったのかお腹を鳴らしながら泣いている。
可愛くてもっといじめたくなるけれど、可愛いお客様には笑顔になってほしい。
「ハンバーグなどはいかがでしょうか?」
「もうそれでいいよぉ……ぐすっ……」
耳元で囁いたら返事があったのでハンバーグを作ることにする。
「チーズinハンバーグなどはいかがでしょうか?」
「チーズもハンバーグもしらないよぉ……」
それはいいことを聞いた。
食べたこともないような美味しいものを食べて笑顔になることより幸せなことはそうそうない。
「ではチーズinハンバーグということで」
「みずぅ」
あとお冷。
カウンター裏に回って準備を始める。
チーズinハンバーグは、中にチーズが入っているからご家庭で作るのは面倒だと思われている料理だけど、実はとっても簡単。
「そう、スライスチーズがあればね」
チーズは固まっていればなんでもいいけどスライスチーズを丸めるのが一番楽。
三つ折りにしたスライスチーズを肉ダネで挟むだけ。
今回は子供向けチーズinハンバーグなのと、合成肉しか食べたことないようなので、食べやすいように二個作る。
肉ダネから空気を抜くために両手で交互に打ち付けていると……
「なんだ、それ」
「お肉です」
「だいず、じゃない」
「牛肉の合いびき肉です」
「ウシならしってる。あし8本のいきもの」
「それタコじゃないの……!?」
異世界事情は複雑怪奇なり。
ロリリア様たちの世界の牛はほんとうに牛なのか一回聞いてみよう。
世界によって違う可能性が高い。
「これをたべるのか?」
「いえ、まだ焼いたりとやることがあります」
「ふぅん」
新しいお客様はカウンターの椅子に立ってキッチンをのぞいてくる。
つぶらな瞳をキラキラと輝かせ小さな体を伸ばしてハンバーグのタネを見つめている。
こういう無垢なお客様は珍しいからついつい料理にも熱が入っていく。
「せっかくですから、カウンターじゃなくてキッチンの中で見ていきますか?」
「……………………みる」
SF的なラインが入った長いローブを引きずりながらキッチンに入ってきた。
ボクの制服の裾をつかんで後ろからのぞいている。
肝心の料理が見えないんじゃないかと思うけど、子供にはコンロの火とフライパンを扱う大人の手元が見えれば楽しいのかもしれない。
「こんがりと焼き色がついたから、フライパンに蓋をして煮込みハンバーグにします」
「ふぅん」
「そっちの料理はどうやるの?」
「しらない。たのんだら、でてくる」
「ドラえもんでさえ料理するのに……大豆の合成肉のペーストかぁ……」
味は食べてみないと分からないけれど、聞いただけではちょっと食欲がわかない。
ハンバーグを焼いている間に、おろしタマネギのソースを作る。
小さいフライパンに材料を入れて、よくかき混ぜながら中火にかけてとろみをつける。
「ニンジンとか食べれる?」
「しらない」
「じゃあニンジンのグラッセを作って付け合わせにしようか」
薄くスライスしたニンジンを電子レンジで熱して、バターと塩少々で味付け。
普通に茹でたブロッコリーやニンジンの付け合わせが苦手な子供も多いけれど、これなら甘くて子供にもオススメ。
「こちら、チーズinハンバーグと付け合わせのニンジンのグラッセになります」
「ふむー」
プレートにのせて配膳すると、ボクの袖を引きながらついてきた。
椅子をすすめるとちょこんと小さく座った。
そういえば、まだ名前を聞いてなかった。
「なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」
「ラーズグリーズ=シグマ9324」
「見た目によらずいかつい名前だった」
ラーズグリーズちゃんでいくかシグマちゃんでいくか。
とりあえずラーズグリーズちゃんでいこう。
「ナイフとフォークでよろしいですか?」
「しらない」
「それでは教えますので」
ナイフとフォークを持たせてみた。
剣みたいにギュッと握りこんでいる。
「持ち方はこうです」
「うん」
手本になるように正しい持ち方で手を重ねると、ラーズグリーズちゃんも真似てくれた。
フォークを刺してハンバーグをおさえ、ナイフで切り込む。
「ふむー」
大人に教わっているからか、背筋をピンと伸ばして集中してくれている。
子供らしい高い体温と、小さな手に力を入れて使い方を覚えようとしてくれていることが、重ねた手から伝わってくる。
ハンバーグを切り分けた。
すると中からとろけたチーズがこぼれだす。
「わっ」
「ハンバーグをチーズに絡めてご賞味ください」
「う、うん」
楽しんでくれているのか頬を赤くして瞳を輝かせ、丁寧にハンバーグでチーズをすくっていく。
小さな口を目一杯開けて、一口目。
切り分けてもまだ大きかったのか頬をふくらませて顎を動かしている。
何も言わずにもくもくと噛みしめて、飲み込んだ。
「…………………………おいひい」
「それはなによりです」
まだ拙いなりに集中してナイフとフォークを使い、次の一口を切り分けていく。
フォークで食べる間にナイフでハンバーグを突き刺したので、そっと手を重ねてナイフを降ろさせる。
そのままナイフで食べると口の中を切ってしまうから。
「よろしければニンジンもどうぞ」
「あかい。うすい。にがそう」
「甘くしましたので」
ざくっとフォークで突き刺して、つやつやとした明るいオレンジ色の野菜を見つめると、ちょっぴりチーズをつけて口の中に押し込む。
もっきゅもっきゅと頬をふくらませながら咀嚼して、
「あまいっ」
食べながらそういうと、次から次へとニンジンのグラッセを口の中に放り込んでいく。
チーズのコクとハンバーグの旨味がニンジンをより甘く感じさせてくれるから、ちゃんとしたハンバーグやステーキを作るお店ではニンジンも人気者になれる。
「これも、たべられる?」
「はい。フォークで絡めてください」
よほどハンバーグを気に入ってくれたのか、固まりかけのチーズと肉汁を絡めとって、プレートいっぱいのハンバーグをぺろりと完食してくれた。
初めてナイフとフォークを持ったとは思えないほどお皿は綺麗になっている。
「いかがでしたか?」
「おいしい!」
食後のドリンクに牛乳を出してあげると、口の周りに牛乳のヒゲを作りながら満面の笑みで答えてくれた。
珍しく素直なお客様だったのでお代はいただかないでおこう。
我先にとバイトを残して逃げていったマスターに利益を渡したくないし。
「忘れ物はないですか?」
「うん」
「ランチボックスの返却は必要ありませんから」
「うん」
お弁当にロコモコ丼を渡しておく。
またお腹が空いたらこれを食べてもらう。
「お腹が減ったら、また倒れる前に来てくださいね」
「そうする」
・ラーズグリーズちゃん
ジェダイとかシスとかなんとか。
超能力で首を絞めたりライトなセイバーで弾けるらしい。
成長期で食いしん坊なのですぐお腹が減っていつも何かを食べている。
行き倒れ2号ちゃんにたらふく食べさせたい方はブクマや評価いただけましたら幸いです。




