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休憩:王都の商業ギルドの戸惑い

 王都の商業ギルドでは、ウィスタントンのギルドからきた依頼を職員達がのぞき込んでいた。


「今度は、会期中、ギルドの部屋を一室押さえたい、ですか」

「それは全く問題ないが、珍しいな」


 王城の連絡係である風の術師が持ってきたばかりで、『シルフ便』とスタンプも押されている。至急扱い、というスタンプが押されているのと同じである。

 至急で、どんな依頼が来たのだ、と恐々としたものだった。



 春の大市の辺りから、例年とは違うやり取りが増え、ギルド職員は頭を悩ませていた。

 最初は、ウィスタントン領の天幕を、例年の三倍の大きさで確保したいという依頼が届いたのだ。場所にも余裕があるから、これに全く問題はなかった。

 まだ春の大市の最中で、大市に遊びに行った人間から、ウィスタントンでは毎週のように新商品が発表されている、と聞いたばかりだったから、自領の大市だけではなく、夏にも力を入れてくれるのか、と嬉しく思ったものだ。

 夏の大市をもっと盛り上げたいと、毎年天幕の配置を変えてみたり、他領の大商人に出店を促したりしていたから、王都の商業ギルドは、喜んで承諾の返事をしたのだ。


 すると今度は、やはり北のラミントン領から、天幕を少し大きくして欲しいと連絡があった。それに加えて、ウィスタントンの天幕の横に配置してくれ、という要望に首をひねったものだった。


「北の領地で、合同で何かするんじゃないか?」

「それなら、『風の広場』に余裕があるな」


 王都の大市は、ウィスタントンのように一か所に固まって催されるのではない。通行を考え、王都の四つの広場とそこに繋がる道に分かれて、天幕が配置される。

 ラミントンの要望にも諾と返した。

 すると、そろそろ春の大市が終わる頃になって、他のいくつかの領地からも、できればウィスタントンの天幕の側へ、同じ広場に配置して欲しい、という要望が届き始めたのだ。

 職員達は顔を見合わせた。


「いったい何が起こっているのでしょう」

「さすがに、すべてを近くには配置できないですね」

「どうするか……。要望は受け付けられぬ、と拒絶するわけにもいかぬな」

「公平にくじ引きで選ぶか?」

「それはまずい。上位領地を押しのけて、下位が近くになったら、また問題が」

「……では、爵位の下の方には、諦めていただく他はないのでは」


 どれだけの領地から同様の依頼が届くかわからず、とりあえず要望は届いて検討中だが、場所にも限りがあり、叶えることが難しいかもしれない、という、当たり障りのない回答を返した。

 これはうまく割り振らねば、と、地図を眺めていたところに、クナーファ商会が『スパイスの国』の要望を携えてやってきた。


「こちらも、ウィスタントンの天幕の近くに、ですか……」

「ですね。それで、クナーファ商会は『スパイスの国』と商会の天幕を二つ出すので、できれば二つを近くにして欲しい、と」

「ウィスタントン、ラミントン、『スパイスの国』、クナーファ商会の天幕を近くに、となりますね」

「クナーファの依頼は、さすがにギルドとして断れないぞ」


 大商会で、最もギルドに金を落としてくれる商会の一つである。

 ギルドが様々に優遇している商会だが、優遇しても他から文句がでないのは、それ以外の商会や商店も、クナーファの恩恵を被っているからだろう。


「『風の広場』ではダメですね」

「『水の広場』に変更したら、なんとかなるか?」

「ああ。この天幕を『火』に移動して、そちらの二つを『風』にすれば」


 地図の上でパズルをして、なんとかすべての天幕を収めた頃、街に部屋を十室確保したいのだが、宿を紹介して欲しい、と、またウィスタントンの商業ギルドから依頼が届いた。


「十室ですか。さすがに厳しいですね」


 大市に出店した商人が旅立つ時に、来年もよろしく、と、次の年の宿を予約していく。常連で一杯で、空いている宿など、この期間にはないのだ。


「とりあえず、キャンセルがないか当たるか。新規開店の宿はなかったか?」

「あそこは予約が順調に入っていると聞いたが」


 天幕パズル以上の難しさで、あちこち探して、それでも見つからないと頭を悩ませている時に、ひとりが思い出した。


「いや、待て。あるぞ。夏なら、精霊術学校の学生寮が空いているのではないか!?」

「そうか。学生は秋まで戻らないな」


 貴族は王都にも屋敷があり、学生もそこから通うが、平民の精霊術師見習いのために、国が一軒の屋敷を用意して、学生寮として使っていた。

 部屋には家具も入っており、泊まるのにも問題がないだろう。管理人も、料理人も休みかもしれないが、そこはなんとでもなる。


「おい、問い合わせろ。精霊術師ギルドだったか?」

「いや、寮の管理は王城の文官だと思うが。どこの部署だろう」


 連絡担当の文官から、教育担当を紹介してもらい、王領の財産管理の部署に取り次いでもらい、なんとか最後には、学生寮をギルドで借り上げることができた。 

 これで、他から同じような依頼があっても大丈夫なはずである。


 それに比べたら、商業ギルドの部屋の一室や二室、なんの問題もなかった。


「今度は簡単な依頼で良かったではありませんか」

「こちらからも『シルフ便』をお願いして、すぐに回答を」


 今年の夏は何かが違うようだということを、商業ギルドの誰もが感じていた。


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