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神様殺しの言行録  作者: 立川和
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第一章 七節 戦闘の余韻




「なんなの、あれ……」


 顔面蒼白のラインが駆け寄ってくる。


 薙刀はいつの間にか消えており、空いた手で西城の胸倉を掴んだ。


 西城は困惑したまま上下に揺られ続ける。


「お、落ち着け!何のこと言ってんだ!!」


「天手力男命の攻撃を防いだでしょ!!人の子にあんな事できるはずがないの!」


 揺らすことを止めたラインが西城を問い詰める。


 最初は何のことかわからなかった西城は合点が言ったように頷いた。


「あ、ああ。そのことか。あれは俺の異能。その力は『言葉(ことば)』だ」


「ことば?」


 意味が理解できていないラインは西城の胸倉を掴んだまま離さない。


 めんどくさいと感じ始めた西城は誤魔化すことで窮地を脱する。


「あー後で話してやるから、まずはこの場を離れないか?」


「……絶対だよ」


 西城の性格からいち早く察したかよはくぎを刺す。


 西城は頷きながら立ちあがると、腹部に強い痛みを感じた。


「痛ッ!!」


「だ、大丈夫?」

 倒れる西城をラインは心配する。


 天手力男命の攻撃は西城の肉体に深手を与えていた。


 そもそも、人間が神に挑むことがイレギュラーなのだから、この程度で済んでよかったと思うべきだろう。


「大丈夫だ。……な、何か揺れてないか?」


 わざとらしく顔を背けるライン。次は西城がラインを問い詰める番だった。


「おい。なにをした?」


「なにもないけど?」


 棒読みで答えるラインを西城は掴みにかかる。


 といっても西城は腹部に強い痛みを感じているため、ラインの肩を掴んで力を入れるぐらいしかできな

いが。


「分かった!は、話すから!!」


「で、なにをしたんだ?」


「天手力男命から幸助を助けるためにケルト神話の太陽神ルーの武器―——ルーン、日本でいうところのブリューナクを薙刀に体現化させたんだけど……」


 ラインは言葉に詰まった。


 橋がギシギシと音を立ててながら揺れる。ラインの言っていることの意味は通じなかったが、西城は神がかった何かのことだろうと予測する。


 橋は先ほどより大きく揺れ、西城は少しずつ心配になっていく。


「その体現化が強力すぎて、橋が耐えれないぐらいの威力になったんだよ」


「つまり?」


「やりすぎちゃった☆」


 星が周りに飛び散りるような勢いでラインはぶっちゃける。


 その話を聞いた西城は血の気が引いた。


 ラインの話を信じるのならばこの橋は間もなく落ちるということだ。


「よし、説教は後でやってやる。今はこの場から離れることが先決だ」


 橋の上にいれば巻き込まれ死ぬことは確定している。


 ならば逃げるしかないのだが、西城は腹部に深手を負っていた。走ることは出来ない。

 

 不幸中の幸いというべきことは、橋の崩壊が遅いということだった。これなら逃げきれるだろうと、西城は柵に手をかけ立ち上がる。


「うおッ!?」


「きゃッ!!」


 驚くべきことが起こった。橋の中央に亀裂が走ったかと思うと、下からの強い衝撃が走ったのだ。


 橋の崩壊が始まる。


「まだ倒壊しないんじゃなかったのか!?」


「私に聞かないでよ!」


 鉄筋やコンクリートが川に落ち、激しい水しぶきと音が立つ。


 大声を掛け合いつつ、西城たちは歩き出そうとする。


 途中、ラインが何かに気が付いたように足を止めた。


「もしかしたら、天手力男命のせいかも。証明されて認めたのはいいけど、人の子に負けたのは何か悔しいから腹いせにやってやろう。みたいな」


「なんだそのガキみたいな思考は!!?」


 神様がそんなことでいいのかと西城はため息をつく。


 実際、神様は気まぐれという言葉があったりするため、ラインの予想はあながち間違いでもないかもしれない。


「ッッ!!」


 橋が大きく揺れた。西城の体が宙に浮く。


 一瞬、体感速度が遅くなったかと思うと、凄まじい勢いで水面へと叩きつけられた。
















 そこには暗闇が広がっていた。


 西城は浮遊感を覚え、死んだのかと考えた。その時、西城の背後で一筋の光明がさす。そこに広がるのは……


「がはッッ!??」


 額に脂汗をにじませながら西城は飛び起きた。


 死の淵を見てきたような表情で辺りを見渡す。


 西城のすぐ横を川が流れ、反対方向には土手があった。


 地面は青々とした芝生が敷き詰められておりその感触は少し心地よい。


「あ、起きた?」


 西城の後ろから声をかけたのはラインだった。見上げるようにしてラインを見た西城は目を見開く。


 濡れた巫女服がラインの体に引っ付き、全体のフォルムが明らかとなっていた。


 引っ込むところは引っ込んでおり、膨らみかけの二つの双丘はそこそこ大きい。月の明かりに照らされ、小袖が透けて肌色が覗く。


 なお、これはその後に聞いた話だが、ラインが濡れているのは川の中に落ちた西城を助けるため、水中に入ったかららしい。


「何見てる……の………」


 西城の視線に気が付いたラインは自らの胸を見る。


 そして、赤面した。西城はゆっくりとラインから離れていく。


「は、ははは」


 苦笑いで誤魔化す西城。


 だが、ラインの胸を見ていたことは事実であるのだから言い逃れは出来ない。


「変態」


「なんだその不穏なワードは!?というかどこから取り出しやがったそのフォーク!??」


 二重の驚きを受ける西城をラインが追いつめる。手にはフォークを持ち、顔は満面の笑みだった。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 頭に突き刺さるフォークと共に西城は悲鳴を上げる。ラインは胸元を隠しながら赤らめた顔を背けた。


「ふん!知らない!!」


 そう言いつつもラインは芝生の上に座る。


 ツンデレかと声に出そうになったが、ついさっきに地獄を見たばかりの西城は言葉を押し殺した。


「ところでというか、いまさらというかなんだが、ここはどこだ?」


「見た通り、川のほとりだよ。あの時、幸助が川の中に落ちて流されていっちゃったから、橋からは離れてるけど」


「そうか」


 ちゃっかり名前で呼び合う間柄になっていることに気が付くことなく話は進む。


 北上と守梨が見たら、発狂することだろう。


「痛みはない?」


「痛み?……そういえば無くなってる」


 かよの問いかけに西城は腹部をなでながら答えた。


 痛みはなく、それどころか学生服が元通りになっていた。


「私が『()()』を使って治してあげたんだ。あの格好だったら色々と目立つ思ったし。」


 かよの口から聞きなれない言葉が出てくるが、西城は立ち上がってもう一度周りを見渡した。土手の向こう側に街の光が見える。


「追及したいことは山ほどあるが、いつ神様が襲ってくるかわからない以上、逃げるしかない。それに……」

 

 西城はかよに手を伸ばして笑いかける。


「お腹も減ってるだろ?」


 かよは西城の手を取り、立ちあがった。








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