第一章 間話 新たなる刺客と疑惑
同時刻。天手力男命は崩壊した橋の近くの川から地面へと上がった。
滴る水を払いのけ、胡坐をかいて地面に座る。
油断した。その一言に尽きる。
西城との戦いにおいて、天手力男命はそのような感想を持った。
神の力を防ぐには神の力しかない。これは神々のルールのようなものだった。故に、天手力男命は一つの答えを見つける。
「そうか、ここは『異能』―神の力を授かった人の子が住まう街。『聖都市』か」
厄介な所に逃げ込んでくれたものだと天手力男命は頭を掻く。
彼は神であるため、普段は自分がどこにいるかなど気にすることはないのだが今回は違う。
いくところまでいききってしまえば、人と神との立場が崩れかけないからだ。
やれやれと肩を落としながら天手力男命は浅いため息をつく。問題は山ずみだ。
「手を抜きましたね、天手力男命」
天手力男命の頭の中に女の声が響いた。その声の主は正体を現すことなく、淡々と話す。
「手を抜いたとは心外だな。これでも本気だったが?」
「弱体化しているとはいえ、人の子に劣るとはいかがなものでしょう?」
「仕方ないだろう。私は君と違って神の力がないのだから」
「…………言い訳ですね」
全くその通りである。本来なら天手力男命は西城に勝てていた。
もっとも、もう戦いは終わり天手力男命は敗北したのだから、何を言っても変わらないのだが。
ちなみに、最後に橋の崩壊を速めたのは彼である。報復としてやってやったのだ。
「それはそうと、かの人間についてわかったことはあるのかな?」
西城との戦闘時、天手力男命は声の主に調べ物をさせていた。
敵を確実に落とすなら、大事になるのは相手の情報だ。実際、神には全人類の記録を見ることができる。
「ええ、名は西城幸助。学生。異能は『言葉』だそうです」
天手力男命は眉をピクリとあげた。どこにいるのかわからない声の主は少し心配そうに声をかける。
「どうかしましたか?」
「いや……ふむ、そうか。」
一人で納得するような声を出した天手力男命。
立ち上がると神々しい光が足元を照らし始めた。それを見た声の主は焦ったような声を出す。
「何をッ!?」
「少々、調べなければならない要件ができた。あの巫女は君一人で捕まえてくれ」
「はぁ!!?」
顔は見えないが、声の主は驚愕した顔になっていることだろう。
天手力男命はそんな想像に笑みを零しつつ、消える。
「腕力、筋力を象徴する神なのに、なんで無駄に利口なんでしょうか。あの筋肉バカ神は」
その呟きだけが誰もいない土手に一つ残された。




