シンゴウキの、おしごと②
お待たせ致しました。
「なに、これ」
私は今、セーラー服を着て、仁王立ちしている。
青を基調としたセーラー服で、アイちゃんが興奮しながら写真を撮りまくっている……盗撮じゃね?
「ねえ、これなに」
写真を撮り続けているアイちゃんにドン引きしながら聞く。
突然渡されて、着てみたら、コスプレみたいなセーラー服。私、成人してもう四年目ですけど。なんならもうすぐ五年目になりますけど。
「皆はスーツなのに、どうして私だけセーラー服?」
「そりゃ、お前。…………の、趣味だろ」
私の問いに答えたのは黄色くん。
目線で興奮中の実兄を冷めた目で指している。
シンゴウキの仕事服。
興奮しているアイちゃんは、青のYシャツに、皆お揃い黒のスーツ。
黄色くんは黄色のYシャツを腕まくりして、ジャケットは無し。
赤色くんは赤色のYシャツに黒いベスト。皆、とても殺し屋っぽくて似合っている。
「私は、何故? 一人だけ学生みたいじゃん」
「雪は何を着ても可愛いよ。青いセーラー服、素晴らしい。特注で作ったんだ。俺と同じ、青色!」
落ち着きを取り戻したアイちゃんは、ドヤ顔を見せるがセーラー服は特注で作る物じゃない。つか、よく分かったな、私のサイズ。びっくりするほどピッタリ。
気持ち悪いくらいだ。
「ねえ、青兄、本当に雪ちゃんを連れて行くの?」
赤色くんがアイちゃんに近づく。アイちゃんに近づく、ということは、まあ、私にも近づく、ということ。
その表情は、不安げだ。
「そうだよ、アオ兄。セツちゃん、連れて行って大丈夫?」
黄色くんもこっちに来る。
シンゴウキに囲まれて、もう電信柱に囲まれているみたいだ。
「…………二人共、俺の知らない所で、雪と仲良くなったんだね。雪がいて、自分達が大丈夫か、の心配なら分かるけど、お前達の言い方は、雪を心配している。義理とはいえ、姉弟愛は素晴らしい。けど、度を越えたら、分かるね?」
何を思ったのか、アイちゃんの返答は、完全に二人の問い掛けを無視している。
そして二人を見る目が、ホストクラブで黄色くんを蹴り飛ばした時に似ている。
「……はい」
それっきり二人は口を閉ざした。
いやいや、良いの? ちゃんとした答え貰ってないよ?
私が心配だったんじゃないの? とんだ恐怖政治だ。
「怖いの? 雪。大丈夫だよ。俺が守ってあげる」
ふわり、と花が咲いたかの様に私を包むけど、恐怖してるのは仕事じゃなくてアイちゃんだからね。
そして着いた、戦場。
え、そこまで危険じゃない、的なこと言わなかったっけ? アイちゃん。
目の前にあるのは、でかでかと書かれた「柴田組」の文字。
完全にヤの付く、来ちゃいけない場所だよ。
絶対怖い人しかいないなら、ここ!
帰りたい。
三兄弟はそれぞれ武器を出した。
アイちゃんは拳銃、黄色くんはメリケンサック、赤色くんはやけに長細い針。
そんなんで殺せるの? 私もナイフを装備する。
シンゴウキはそれぞれ目を合わせると、アイちゃんが私の肩を抱いた。
あ、いつものアイちゃんの匂い。そう思った瞬間、黄色くんがドアを蹴り飛ばした。
そこからは、あまりの早さに、私と組の者達は、唖然だ。
黄色くんが次々と殴り殺して、奥へ奥へと進んでいく。
赤色くんは殺す気あるのか、って言うくらい、針で人を刺すのでは無く、かすめていく。
赤色くんがかすめた三秒後くらいに、唸り、もがき、苦しみながら倒れていく。
そう、様は、ドミノ倒しの勢いで、バッタバッタ倒れていくのだ。人が。
口を開いて、その光景を眺めていると、アイちゃんが死体の上へ。
「さあ、雪、おいで。汚れちゃうから、ゆっくり行こう」
さながら王子様にでもなったかの如く、手を私へ差し出す。とても良いスマイルで。
大きな手に重ねると、ゆっくりと私を誘導しつつ、奥へと進む。
その間にも、例の二人は例のやり方で、返り血を浴びまくっている。
私とアイちゃんはただ死体の上を歩いているだけ。
何をしているのだろうか、私は。
奥へ着いた頃には、もう全てが終わっていた。
満足げなアイちゃんと、息を切らしている二人。
「終わったぜ」「終わったね」「帰ろうか、雪」
いや、本当に何しに来たの、私?
ただ死体を踏みに来たんじゃ、ないのだよ!!
てか、あの二人は何を心配していたの?
どこにも危険な要素なんて無いじゃないか。
ただセーラー服着て、アイちゃん興奮させただけだよ。
ため息を、盛大につきながら、再び死体の上を歩いた。
その頃の、二人。赤、黄コンビは後ろから、雪と蒼生に視線を向けていた。
「なあ、セツちゃんの、あの死体に免疫がある感じ、何? オレの思ってたのと違うんだけど」
「……僕も。普通の女の子だと思っていたけど、違うのかもしれない」
「ならよ、何でこんな簡単な仕事に連れてきたんだ? アオ兄は。知ってるんだろ?」
「青兄は頭良いから。たぶん、何か考えているんだよ」
「…………セツちゃん、死んだりしないよな?」
「それは無いと思うよ。だって、アイちゃんって呼ばせてるくらいだから」
「ああ、そうだった。じゃ、やっぱり……」
「……うん」
可哀想。哀れみの目を二人から向けられていることを、雪は知らない。
情報を収集するどころか、恐怖だけが残った。
「私、逃げられるかな。あんな、化け物だった」
その日の脱出計画書は広げられなかった。