第007話「北西には、まだ早い」
池、寝床、蜘蛛部屋。
使える場所が3つに増えた。
だったら次は、その先の道を確かめる。
俺は池で水生甲虫を1匹食べ、体を軽く動かしてから北側の穴へ向かった。
◇ ◇ ◇
蜘蛛部屋は静かだった。
昨日の糸はまだ壁に残っているが、動く熱源はない。俺は床に張っている糸を避けながら、小部屋の奥へ進んだ。
小部屋の奥の通路は短い。
10メートルほどで、急に空間が開けた。
――三叉路だ。
通路は3本に分かれている。
池から来た向きを基準にして、東、北東、北西と呼ぶことにした。
正確な方角かは知らない。
今の俺には、区別できれば十分だ。
俺は床に顎をつける。
近くの揺れは少ない。
熱感知にも、すぐ近くの反応はない。
今なら調べられる。
◇ ◇ ◇
まず東へ進んだ。
短い通路の先に、小さな空間があった。
中には岩トカゲが2匹いた。
昨日倒した個体より少し小さい。
岩の上で苔を舐めている。
こっちに気づく前に、1匹目の首へ噛む。
すぐ離れる。
2匹目が逃げようとしたので、出口側へ先回りして噛んだ。
毒牙Lv2はちゃんと効く。
2匹とも、暴れる時間は長くなかった。
『レベルが11に上がりました』
HPが戻る感覚が来た。
レベルアップ全回復。
この仕様には何度でも感謝したい。ここがゲームなら、回復アイテム代がだいぶ浮いている。
岩トカゲ2匹を食べて、進化率は48%まで伸びた。
東の小部屋は、岩トカゲがいる部屋だ。
池より危ない。
その代わり、2匹食っただけで進化率が48%まで伸びた。
◇ ◇ ◇
次は北東。
北東の通路は少し長い。
壁の苔が厚く、床に虫の殻が落ちていた。進むほど、小さい百足の匂いが増える。
奥の空間に、百足が3匹いた。
20センチ前後。
俺より小さい。
それでも、百足の牙で胴を噛まれると肉がえぐれる。
1匹ずつなら勝てる。
3匹まとめて来られると危ない。
入口近くにいた1匹へ顔を見せて、すぐ下がる。
追ってきた1匹目を、狭い入口で噛む。
暴れる前に下がる。
同じやり方で2匹目も通路へ引き出した。
3匹目は奥へ逃げかけたので、出口側へ回って頭の横へ牙を入れた。
3匹とも食べた。
進化率は52%になった。
北東は百足の部屋だ。
危ない。
だが、狭い入口を使えばまだ狩れる。
◇ ◇ ◇
最後に、北西を確認する。
通路へ入る前から、床の揺れが違った。
顎を地面へ押しつけると、奥から規則的な振動が来る。
細かい脚が何本も地面を叩いている。
百足だ。
だが、北東の小さい百足とは大きさが違う。
揺れが強い。
通路の奥で、長い体がゆっくり動いているのが分かる。
熱感知を伸ばす。
距離があるせいで、熱感知の輪郭はぼやける。
それでも、通路の奥に多脚の長い体がいるのは分かった。
奥にいる百足の体は、今の俺よりずっと大きい。
通路の幅をかなり使っている。
あれは無理だ。
今の俺が正面から噛みに行けば、牙を入れる前にこっちが潰される。
俺は音を立てないように後退した。
1メートル。
2メートル。
大型百足らしい揺れは、こちらへ向かってこない。
巡回しているのか、奥を歩いているだけなのかはまだ分からない。
分からないまま近づくのは危ない。
今日は引く。
◇ ◇ ◇
池へ戻りながら、頭の中で地図を作る。
池。
寝床。
蜘蛛部屋。
三叉路。
東は岩トカゲ。
北東は小さい百足。
北西は、大型百足。
東は食える。
北東も、やり方を選べば食える。
北西はまだ無理だ。
次に池を出る時も、まず使うのは東と北東になる。
池へ戻って水生甲虫を2匹食べた。
進化率は55%になった。
半分を越えた。
北西はまだ早い。
だが、いずれ北西のあの通路にも入る。
その前に、東と北東で食ってレベルを上げる。




