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最弱ステータスでヘビに転生した俺は、スキル補食と進化をしながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん


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第060話「二層の主」

 拠点で一晩休んだ。連戦で蓄積した鱗の軋みは、寝て抜けた。体の状態は悪くない。


 刻印の通路の先は気になる。だが、先にやることがある。


 第2層のボスがまだ生きている。


 スワンプロード。第3層に降りた時、巡回ルートを避けて通っただけで、倒してはいない。毎回あの巡回路を越えて行き来するのは効率が悪い。そして今なら、勝てる。


 Lv9。反響撃Lv1。外殻粉砕Lv2。第3層で手に入れた武器を全部持って、第2層に戻る。


   ◇ ◇ ◇


 層境の斜面を登った。乾いた岩肌から、湿った泥壁に変わる。空気が重い。鱗の表面に水分が張りつく感覚が久しぶりだった。


 第2層。泥底の匂い。振動感知が再び精度を取り戻す。泥を通す振動は、石を通す振動より鮮明だ。この層では振動感知が主力だった。


 スワンプロードの巡回ルートに向かった。壁面を這いながら、反響定位と振動感知を併用する。第3層の石壁では反響定位が主だったが、ここでは両方使える。索敵の幅が違う。


 振動が来た。


 重い。等間隔の振動。何かが泥の中をゆっくり移動している。巡回だ。


 壁面に張りついたまま待った。泥の水面が揺れている。通路の奥から、巨大な影が近づいてくる。


 泥の中から頭部が浮かんだ。扁平な頭。幅は俺の胴体の5倍。目は小さく、泥の中を見る必要がない作りをしている。両棲類に近い体表。粘液が泥と混じって全身を覆っている。体長は通路の幅いっぱい。


 鑑定が起動した。


――――――――――――――――――――

種族:スワンプロード

Lv:16

【スキル】

 毒沼生成 Lv3 / 泥操作 Lv2 / 締め付け Lv3 / 再生 Lv1

――――――――――――――――――――


 Lv16。俺より七つ上。締め付けLv3は俺のLv2より格上。再生Lv1。長期戦は向こうが有利になる。毒沼生成Lv3は、この泥底の環境そのものを武器にするスキルだ。


 ここは向こうの庭だ。


 だが俺は、向こうの庭にはない武器を持っている。


 壁面から反響撃Lv1を放った。


 音波がスワンプロードの頭部に当たった。泥の中に半身を沈めた巨体が跳ねた。ロッククローラーのような石殻はない。音波が柔らかい体組織をそのまま揺さぶっている。


 ———効く。


 スワンプロードが泥底から全身を持ち上げた。体長6メートル。四肢が短く、胴体が異様に太い。全体が粘液と泥で覆われている。


 泥操作Lv2。通路の泥が壁面に向かって跳ね上がった。俺めがけて泥の塊が三方から飛んでくる。壁走りで回避した。泥が壁面にぶつかり、飛沫が散る。


 散った泥が壁面を濡らした。壁走りの足場が滑る。


 毒沼生成Lv3。スワンプロードの周囲の泥が色を変えた。紫がかった毒の沼が、通路の床面全体に広がっていく。床に降りたら毒沼に浸かることになる。


 降りる気はない。第3層で壁面が戦場だった。この層でも壁で戦う。


 壁面を移動しながら2発目の反響撃。スワンプロードの胴体を狙った。音波が粘液ごと体組織を振動させる。スワンプロードが体を捩った。


 直後、スワンプロードが泥の中に潜った。


 全身が泥底の下に沈む。反響撃の残響が泥に吸われて消えた。頭部だけ出していた時とは違う。完全に潜った。泥を音の盾にしている。


 反響撃をもう1発、泥面に向けて放った。泥が跳ねた。だが音波は泥の層で大幅に減衰する。石壁なら反響する音が、泥に飲まれて散る。当たっているはずだが、さっきのような反応がない。


 泥の中にいる限り、反響撃の効果が半減する。こいつは自分の環境を理解している。


 振動感知に頼った。泥の中の動きを追う。スワンプロードは泥底を移動している。俺の真下に来た。


 泥操作Lv2。真下から泥が吹き上がった。壁面を這っている俺に向かって、泥の柱が突き上げてくる。急旋回で飛び退いた。壁面を滑り、天井近くに逃げた。泥が壁面に張りつき、足場がさらに減る。


 泥で壁を塗られている。壁走りの足場を潰す気だ。


 スワンプロードが再び浮上した。口を大きく開け、粘液と泥が混じった塊を吐いてきた。粘液弾。壁面の俺を狙っている。


 避けた。だが2発目が来た。3発目。粘液が天井と壁面にべたべたと張りつく。動ける範囲がどんどん狭くなる。


 このままでは壁面を全部潰される。


 突っ込んだ。天井から落下しながら、スワンプロードの首筋に毒牙を突き立てた。


 ———浅い。


 粘液の層が厚すぎる。牙は刺さったが、粘液が毒の浸透を妨げている。毒沼を生成する生き物だ。毒への耐性がある。粘液そのものが毒を薄めている。


 距離を取ろうとした。スワンプロードの前肢が伸びた。


 掴まれた。


 締め付けLv3。前肢全体が吸盤のように張りつき、胴体ごと抱え込まれた。粘液で滑って脱出できない。


 圧が来た。


 鱗硬化Lv2で耐えている。だが締め付けLv3は俺のLv2より格上だ。鱗が軋んでいる。1枚1枚が押し込まれるように内側に食い込む。肋骨が圧迫されて、呼吸が浅くなった。視界の端が暗い。


 再生Lv1がある。このまま持久戦になれば、向こうが回復しながら締め続ける。時間は向こうの味方だ。


 密着している。これ以上ない至近距離。


 反響撃Lv1を、ゼロ距離で叩き込んだ。


 スワンプロードの体内に音波が直接流れ込んだ。粘液も泥も関係ない。音は体組織を透過する。ゼロ距離の反響撃は、分厚い体の内側で暴れまわった。


 締め付けが緩んだ。体を引き抜いた。粘液を振り払いながら天井に逃げた。スワンプロードが悶えている。


 だが、止まらない。


 スワンプロードの体表から血が滲んでいる。ゼロ距離の反響撃で内臓を揺さぶられたはずだ。だが悶えながらも、傷口の出血が目に見えて遅くなっている。再生Lv1。内部の損傷を修復し始めている。


 10秒で立て直された。再生Lv1の回復速度はこの程度か。1発のゼロ距離反響撃では、再生に追いつかれる。


 壁面に粘液が張りつき、使える足場は通路の左壁の上半分と天井の一部だけだ。右壁はほぼ全面が泥と粘液で塗り潰されている。


 スワンプロードが体勢を整えた。泥操作Lv2。通路の泥が波打ち、左壁の下半分を泥が這い上がってきた。毒沼生成が重なる。壁面に毒沼が迫っている。


 天井しかない。


 天井に張りついた。真下にスワンプロードがいる。6メートルの距離。粘液弾が来た。天井を這って避ける。避けるたびに天井の足場も狭くなる。


 あと3発で天井も埋まる。


 時間がない。再生Lv1が回復を進めている。足場が消えていく。長引けば負ける。


 毒牙は粘液の上からでは効かなかった。だが外殻粉砕Lv2なら———粘液の層を叩き割って、その下の皮膚を破れる。殻を砕く技だ。粘液の膜も、十分な硬さがあれば砕ける。


 天井から落ちた。


 スワンプロードの背中に向かって、全体重を乗せた外殻粉砕Lv2を叩き込んだ。


 粘液が弾けた。皮膚が裂けた。分厚い粘液の下の肉が露出した。


 スワンプロードが跳ねた。前肢が伸びてきた。締め付けLv3。2度目。


 掴まれる前に、裂けた皮膚に毒牙を突き込んだ。粘液の層がない。直接、体内に毒を注入した。


 前肢が巻きついた。2度目の締め付け。さっきより強い。怒りか、防衛本能か。鱗硬化Lv2が軋む。鱗の隙間から血が滲んだ。


 締め付けに耐えながら、牙を離さなかった。毒を流し続ける。


 スワンプロードが暴れた。通路の壁に体当たりし、天井に俺ごとぶつけてきた。背中を打った。鱗硬化で耐えたが、衝撃で視界が白く飛んだ。


 牙を食い込ませたまま、反響撃をもう1発。密着状態。毒が回り始めている体に、内側から音波を叩き込んだ。


 締め付けが痙攣に変わった。


 スワンプロードの動きが崩れた。毒と反響撃の二重攻撃。再生Lv1が追いつかない。前肢の力が抜けていく。


 牙を引き抜いた。体を引き抜いた。粘液と血にまみれながら壁面に逃げた。


 スワンプロードが毒沼の中に崩れ落ちた。巨体が泥面を叩き、波が通路の端まで広がった。動きが止まるまで、15秒を数えた。


 最後の3秒は、締め付けで潰された肋骨の痛みを堪えるので精一杯だった。


   ◇ ◇ ◇


 毒沼が薄まるまで壁面で待った。主が死ねば、毒沼生成のスキルも維持されない。紫がかった泥が、徐々に元の色に戻っていく。


 体が痛い。鱗の3枚が割れている。締め付けで圧迫された胴体の中央が、呼吸するたびに軋む。背中を天井にぶつけられた箇所が腫れている。


 勝ったが、無傷とはほど遠い。


 床に降りた。スワンプロードの死体に牙を立てた。食った。量が多い。全身を食い終えるのに時間がかかった。


『レベルが上がりました Lv9 → Lv10』


 HPが全回復した。鱗の痛みが引く。割れた鱗の下から、新しい鱗が浮き上がっている。


――――――――――――――――――――

種族:沼喰大蛇

Lv:10

HP:116 / MP:37

攻撃力:54 / 防御力:82

素早さ:29 / 知力:30

【スキル】

 捕食継承 Lv1 / 毒牙 Lv3 / 締め付け Lv2

 鱗硬化 Lv2 / 壁走り Lv3 / 振動感知 Lv3

 熱感知 Lv2 / 外殻粉砕 Lv2 / 毒液圧縮 Lv1

 酸耐性 Lv1 / 粘着無効 Lv1 / 毒霧 Lv1

 鱗弾き Lv1 / 急旋回 Lv1 / 嗅覚強化 Lv1

 反響定位 Lv2 / 鑑定 Lv2 / 反響撃 Lv1

次の進化まで:62%

――――――――――――――――――――


 防御力82。進化率62%。——ボスを食ってこれか。うまい。


 通路を見回した。毒沼が消えた巡回ルートが、ただの泥底の通路に戻っている。もうここを避けて通る必要はない。第2層と第3層を自由に行き来できる。


 第3層で手に入れた反響撃で、第2層のボスを倒した。だが反響撃だけでは倒せなかった。泥に潜られ、壁を塗り潰され、2度締め付けられた。この武器を持たずにここに来ていたら、間違いなく殺されていた。


 巡回ルートを通り抜けて、第3層への斜面を降りた。


 亀裂の拠点に戻った。あの刻印の通路が、待っている。


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