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ヘビに転生した俺は、最弱ステータスからスキル補食と進化しながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん
目覚め

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第006話「先客」


 6日目。


 昨日の臭いが気になって仕方なかった。


 池の縁で目を覚ました瞬間から、北の空間の壁に残っていたあの有機臭が頭にある。種類の判別はできなかった——でも「最近のもの」だという確信はあった。つまり今もそこにいる可能性がある。


 ゲームの基本として「未確認の強敵が出そうなエリアには準備なしで入るな」という鉄則がある。それは分かっている。分かっているが、好奇心と戦略的必要性(どうせいずれ遭遇する)が勝った。今日、確かめに行く。


 水生甲虫を1匹食べて、MPを全回復させて——蛇に食事とMPの関係はないが、朝食を食べると落ち着くのは人間だった頃からの習慣だ——北の通路に向かった。


   ◇ ◇ ◇


 前回と同じ空間に入る前に、入口で止まった。


 熱感知を最大限に使って内部を確認した。


 いた。


 空間の奥の壁際。熱源が1つ、静止している。体長——俺とほぼ同じ、30センチ前後。丸まっているか、壁に張り付いているのか、形状の輪郭が掴みにくい。脚が多い。脚が、多い。


 クモだ。


 8本脚の、洞窟蜘蛛だ。


 ……ダンジョン序盤の蜘蛛か。RPG的には初期エリアに必ず出る定番モブだ。ただし俺は今30センチの蛇であり、向こうも同じくらいのサイズがある。定番モブだからといって楽に倒せる保証はない。


 問題は——蜘蛛には糸がある。


 糸は状態異常だ。「行動阻害」「移動速度低下」の複合デバフだ。体に糸が絡まれば、俺の最大の強みである機動力が消える。全身が細長い蛇にとって、糸で動きを封じられるのは最悪のケースだ。


 岩トカゲとは性質が違う。これは脅威度が高い。


   ◇ ◇ ◇


 洞窟蜘蛛は動かなかった。


 俺も動かなかった。


 こういう時、ゲームだと「ステルスか奇襲か正面突破か」という選択肢がある。俺に使えるのは奇襲か正面突破だ——隠密スキルは持っていない。


 というか、30センチの蛇が洞窟でどうやってステルスをするというのか。岩との色の差が大きすぎる。蛇の保護色はある程度機能するが、動けば即バレだ。


 向こうが気づいた。


 蜘蛛が体の向きを変えた。前脚2本を持ち上げた——警戒姿勢か威嚇か。8つの目があるはずだが、どこで見ているのか俺には分からない。熱感知は輪郭を見るものだ。表情は読めない。


 動き方を観察した。前脚を持ち上げたまま、ゆっくりと横移動している。距離を保つつもりらしい。積極的に攻撃してくる気配ではない——今のところは。


 ここで分かったことがある。糸を張っていない。少なくとも俺の入口付近には。向こうの本拠地は壁際で、そこに巣があるかもしれないが、空間の中央は今のところ自由に動ける。


 好条件だ。


   ◇ ◇ ◇


 先に動いた。


 速度を上げて、距離を詰めた。正面から真っ直ぐに。


 蜘蛛が跳んだ——横に逃げた。俺の突進を避けた。速い。岩トカゲより反応が速い。脚が8本ある分、方向転換の選択肢が多い。


 追った。蜘蛛が再び横移動した。また追った。今度は方向が変わった——斜め後方に逃げる動き。


 これは追いかけっこになる。


 俺が動くたびに蜘蛛が逃げる。蜘蛛が逃げた先に俺が向かうと、また方向を変える。俺の速度と向こうの速度がほぼ拮抗している。いや、狭い空間の壁を利用できる蜘蛛の方が、方向転換では若干有利だ。


 追い回しているうちに、蜘蛛が壁に張り付いた。


 壁際だ。壁に脚をかけて、垂直面を移動している。


 こっちは蛇なので壁には登れない。地面専用だ。地面の蛇 vs 壁を使える蜘蛛——これは3D戦闘になる。俺の方が不利だ。


 一度止まって考えた。


 蜘蛛は壁から降りてこない限り、俺には届かない。俺は蜘蛛に届かない。膠着状態だ。


 でも、蜘蛛はいずれ降りてくる。壁を永遠に移動し続けることはできない。いつか地面に降りる——その瞬間を待てばいい。


 俺は空間の中央に陣取って、動かなかった。


   ◇ ◇ ◇


 3分ほどして、蜘蛛が壁から離れた。


 地面に降りた——しかし糸を出しながら降りてきた。着地と同時に俺の方向に糸を飛ばしてきた。


 反射的に横に転がった。糸が隣の岩に貼り付いた。


 間一髪だった。ゲームの状態異常攻撃はモーション見てから回避できるが、実際に糸が飛んでくると判断が一瞬遅れる。これは気をつけないといけない。


 糸を飛ばした直後、蜘蛛は動きが一瞬遅くなった——糸を生成した直後の硬直だ。これは言わばスキル使用後のクールタイムだ。


 そこを狙った。


 地面に降りた蜘蛛の後方から回り込んで、腹側に噛みついた。腹側は外皮が薄い——蜘蛛の腹はわりと柔らかい。毒を流し込んだ。


 蜘蛛が暴れた。脚が振り回された。後脚の1本が頭に当たった。HP-8。


 ただし、噛みついたまま離れなかった。


 蜘蛛が糸を使おうとした——体が硬直しているせいか、うまく出ない。体を反転させようとした——締め付けるほどの体幹はないが、噛みついている位置から離れにくい体勢を保った。


 1分後、脚の動きが鈍くなった。


 2分後、止まった。


   ◇ ◇ ◇


 噛みつきを離して、少し距離を取った。


 蜘蛛は地面に伏せていた。生体振動がある——まだ生きているが、動けない。毒が回っている。


 HP確認——24から16に減っていた。後脚の1発で8ポイント持っていかれていた。体長が同じでも、蜘蛛の攻撃力は百足より上だ。気をつけないといけない相手だった。


 通知が来た。


『Lv10になりました』


 HPとMPが全回復した。


 Lv10。区切りのいい数字だ。「最初のステータス振り直しポイント」とか「初期スキルの解放」とかある場合が多いが、このシステムはそういう仕様はないらしい。ただ数字が上がるだけだ。地味だが着実だ。


 蜘蛛を食べた。百足や水生甲虫と食感が違う——内部が空洞に近い感触がある。外皮は薄くて柔らかいが、中身はあまり多くない。栄養効率は百足の方が上かもしれない。


 食べ終えた後、通知が来た。


『次の進化まで:45%』


 45%。着実に積み上がっている。


   ◇ ◇ ◇


 壁際に蜘蛛の巣があった。


 食事を終えてから確認しに行くと、石の岩棚の隙間に白い糸が張り巡らされていた。直径20センチほどの小さな巣だ。中に何も入っていない——獲物を捕獲した形跡もない。この蜘蛛は巣を張って待つタイプではなく、積極的に動き回るタイプだったらしい。


 巣の周辺に糸が残っている。触れると粘着性がある。これが体に絡まると面倒だ——俺の体の場合、一度絡みつくと鱗で引き剥がすのに時間がかかる。糸の罠を設置されたら、さらに戦いにくくなる。


 今後、蜘蛛系との戦いは糸の管理が課題になる。


 糸を避ける動き、糸を出される前に距離を詰める動き——そのあたりを意識しないといけない。百足には糸がなかったから気にしていなかったが、蜘蛛との戦いは別ゲーだ。


 北の空間の奥——さらに続く通路を確認した。今日はここまでにする。蜘蛛を倒してHP回復もしたが、今日初めての戦闘で消耗した部分はある。次の未知の場所に踏み込むのは明日でいい。


 池に戻る通路を進みながら、今日の戦闘を反省した。


 糸を避けられたのは反射で、戦術ではなかった。もう1発来ていたら対処できていたか分からない。糸の射程と射出タイミングを正確に把握するには、もう何戦か経験が必要だ。


 あとは壁を使われた時の対策。地面しか使えない蛇にとって、3D機動できる敵は常に不利だ。壁に逃げられたら追えない。追えなければ消耗戦に持ち込まれる。


 課題は多いが、今日は倒した。


 それで十分だ。



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