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最弱ステータスでヘビに転生した俺は、スキル補食と進化をしながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん


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第055話「音狩り」

 昨夜の音が頭から消えなかった。


 一定のリズム。意図的な断続。あれは生き物の鳴き声ではない。音を道具として使っている。俺が反響定位で周囲を「見る」のと同じように、何かが音で世界を把握している。


 拠点の亀裂を出た。音が来た方角に向かう。三叉路を左、爪痕のある広い通路を通過して、さらに奥へ。


   ◇ ◇ ◇


 結晶が増えた。


 壁面だけでなく、床からも天井からも結晶が突き出している。1本1本が俺の胴体ほどの太さで、通路全体が結晶に侵食されたような空間。反響定位を飛ばすと、結晶の一つ一つが音を返してくる。反射が多すぎて、像がぶれた。


 通常の通路では壁からの反射が二方向。ここでは数十方向から音が返る。反響定位の精度が落ちている。


 結晶密集域。この先に、あの音の主がいる。


 反響定位を飛ばした。結晶の林の奥に、大きな影があった。動かない。結晶の合間に張りついて、静止している。


 鑑定が起動した。


――――――――――――――――――――

種族:クリスタルストーカー

Lv:8

【スキル】

 反響撃 Lv2 / 結晶共鳴 Lv1 / 擬態 Lv1

――――――――――――――――――――


 Lv8。俺より2つ上。反響撃Lv2。ロッククローラーのLv1より一段上の音波攻撃。結晶共鳴Lv1と擬態Lv1は初見のスキルだ。


 蟲型。体長は2メートル近い。体表が半透明の結晶質で覆われている。結晶の合間に溶け込むように静止しているのは擬態の効果か。前肢が鎌状。捕食者の体形だ。


 動くか。動かないか。


 ———動いた。


 クリスタルストーカーが前肢を振り下ろした。床ではなく、隣の結晶を叩いた。


 結晶が鳴った。


 衝撃が結晶から結晶へ伝わった。周囲の結晶が共振を始めた。一つが鳴ると隣が鳴り、その隣が鳴る。結晶密集域の全体が、低い振動で満たされた。


 反響定位の像が崩れた。


 結晶の振動が生む音波が、俺の反響定位の反射と混ざっている。クリスタルストーカーの像が5つに分裂した。結晶の振動が偽の反射を作っている。どれが本体か分からない。


 ———結晶共鳴。これがこのスキルの意味か。


 5つの像のうちの一つが動いた。音が来た。


 反響撃Lv2。


 鱗硬化で受けた。ロッククローラーの反響撃Lv1とは質が違う。音圧が高く、体の内側まで揺さぶられる。鱗硬化を素通りして、臓腑に直接響いた。HPが削れた。


 一撃が重い。2撃、3撃と受ければ危険域に入る。


 距離を取ろうとした。壁走りで結晶の合間を抜けようとして、反響定位を飛ばした。


 音が返ってきた瞬間、クリスタルストーカーが動いた。俺の反響定位の音に反応している。俺が音を出すたびに、向こうも俺の位置を把握している。


 見るたびに、見られる。


 反響定位をもう一度飛ばした。5つの像が位置を変えている。結晶の振動パターンが変わるたびに、偽の像が移動する。本体がどれか分からない。


 分からないまま、2発目の反響撃が来た。右の結晶から反射してきた音波が、横から叩きつけてきた。壁面に体を打ちつけた。HPがさらに削れる。


 結晶共鳴の中では、反響撃の方向すら読めない。結晶が音を増幅し、屈折させ、四方八方から攻撃が来る。


 鑑定でスキルは読めた。位置も反響定位で追えた。全部分かった上で、殴られて逃げている。分かってるのに殴られてる。一番性質が悪いやつだ。情報が揃っているのに勝ち筋がない。


 反響定位を止めた。


 音を出すのをやめた。壁面に張りついたまま、動かない。呼吸を浅くした。


 結晶の共振がゆっくり収まっていく。俺が音を出さなければ、向こうも追えないはずだ。反響定位は音を飛ばして「見る」スキル。音を出さなければ、こちらからは見えないが、向こうにも位置を掴まれない。


 振動感知に切り替えた。この層では近距離しか拾えない。壁面の微振動だけが伝わってくる。遠くの動きは分からない。熱感知を合わせた。結晶の合間に、体温を持つ塊がある。方角だけは分かる。距離は曖昧だ。


 熱源が動いていない。向こうも止まっている。俺が音を出すのを待っている。


 互いに黙って、互いの音を待っている。


 先に動いたら負ける。……蛇とトカゲで睨み合いって、どういう絵面だよ。だが、動かなければこの場から出られない。結晶密集域は向こうの狩り場だ。長居するほど不利になる。


 壁走りで、音を最小限にしながら後退した。鱗が壁面を擦る微かな音だけが出る。振動感知と熱感知を頼りに、結晶の少ない通路に向けて這った。


 背後から反響撃が来た。


 壁面を擦った音を拾われた。だが結晶の少ない区間に出ていた分、共鳴の増幅がない。直撃ではなく、減衰した音波が鱗を叩いた。鱗硬化で耐えた。


 壁走りの速度を上げた。結晶密集域を抜けた。爪痕のある通路まで戻った。追ってきている気配はない。クリスタルストーカーは結晶密集域から出てこなかった。自分の有利な地形を離れない。


   ◇ ◇ ◇


 拠点に戻った。体を丸めた。HPが2割以上削れている。反響撃Lv2を2発受けた。1発目が重く、2発目は減衰していたが、合わせて無視できない損害だ。


 整理した。


 クリスタルストーカーは結晶密集域の頂点捕食者だ。結晶共鳴で偽の像を作り、反響撃で仕留める。擬態で身を隠し、獲物が音を出すのを待つ。狩り方が完成されている。


 そして、反響定位を使う俺は最高の獲物だ。音を出して周囲を見るたびに、向こうに位置を教えている。


 だが、穴はある。


 結晶密集域の外では結晶共鳴が効かない。共振する結晶がなければ、偽の像は作れない。反響撃Lv2だけなら、方向を読んで回避できる可能性がある。


 もう一つ。結晶共鳴で5つの像が見えた時、反射の返りに微妙な差があった。偽の像は結晶を経由している分、本体の反射よりわずかに遅い。反響定位の精度がもう一段上がれば、その差を拾えるかもしれない。


 反響定位を使えば相手が見える。だが同時に、相手にも見られる。


 この敵と戦うなら、結晶のない場所に引き出すか、見られずに見る方法を作るか。どちらかが要る。


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