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ヘビに転生した俺は、最弱ステータスからスキル補食と進化しながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん
目覚め

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第004話「毒は育つ」


 水の音がする。


 4日目の朝、岩の隙間から這い出した直後に気づいた。昨日までは気にしていなかったが、確かに聞こえる。壁のどこかから染み出す水滴の音とは違う、連続した流れの音だ。


 顎を地面に押し当てて振動を探る。音の方向は——主回廊を奥に進んだ先、さらに右に折れた枝道の向こう。距離は10メートル以上はある。振動感知の有効範囲をわずかに超えているが、音が直接届いている。


 行ってみる価値はある。


 水源があるということは、そこに生き物が集まる可能性がある。水場はどんな環境でも生態系の中心になりやすい。ゲームで言えば、マップの泉の近くにアイテムが集中しているあれだ。


   ◇ ◇ ◇


 辿り着いた先は、これまでの細い回廊と比べて明らかに広い空間だった。


 天井が高くなり、壁が左右に開いている。直径15メートルほどの円形の洞窟で、中央に小さな池がある。深さは浅いが、底まで見えないほど水が澄んでいる。水底と壁面に青白く光る生物——藻類か菌類か——が貼り付いており、これまでの回廊より明るい。


 空間全体が、微かに違う匂いを持っていた。湿った苔ではなく、もっと鮮烈な、生き物の密度の高い匂い。舌先を出し入れして化学情報を読む。複数種の有機物。動物性タンパク質の匂い。複数の生命が、この空間に存在している。


 池の縁に近づくと、水面に動きがあった。


 黒い影が、水の中を素早く横切る。大きさは5〜8センチ。魚——いや、脚がある。水生の甲虫だ。地球で言えばゲンゴロウに近い形状。流線型の体が水中を滑らかに泳いでいる。


 これも獲物になるか。


 問題は水中だ。水中で噛みつくのは難しい。こちらも泳げるのか——試してみる価値はある。


 池の縁に体を向け、前半身だけ水に入れた。


 冷たい。だが思ったほど不快ではない。体を動かすと、水中でも蠕動運動が機能した。前進できる。方向転換もできる。泳げる——というより、水中でも陸上と同じように体が動く。蛇の体型は流体力学的に優れているらしい。


 完全に水に入った。


 3秒後、水生甲虫が急接近してきた。縄張り意識か、攻撃性か。ともかく向かってくる。


 水中での反射速度が、陸上より遅い。それはこちらも同じはずだが——水生甲虫のほうが、水中での機動性は上だ。


 引き上げる。陸に戻る。


 水生甲虫はしばらく縁まで来て、水から出ようとはしなかった。出られないのか、出ないのかは分からない。ともかく、水上での有利は俺にある。


 作戦を変える。池の縁で待ち伏せ、水生甲虫が浅瀬に来た瞬間を狙う。


 2分ほど待つと、浅瀬で藻を食んでいる個体を見つけた。水深2センチほど。水に半身浸かった状態で、上から噛みかかった。


 甲羅が硬い。毒牙が滑った。


 引いて、角度を変える。甲羅の縁、腹面との境目を狙い直す。


 今度は刺さった。注入。


 水生甲虫が激しくバタついた。水が跳ねる。脚で引っかかれて少し痛いが、噛みついたまま離れない。


 30秒後、動きが止まった。


 陸に引き上げて食べる。甲虫系の中では柔らかい部類だった。


   ◇ ◇ ◇


 その後、同じ要領で水生甲虫を3匹仕留めたところで、気づいた。


 毒の効きが、変わっている。


 最初の1匹は30秒かかった。2匹目は20秒。3匹目は——10秒で動かなくなった。体格は大差ない。なのに明らかに速い。


 視界の端に通知が浮かんだ。


『毒牙がLv2になりました』


 スキルのレベルアップだ。


 使い込むうちに強化されるタイプか——RPGでよくある習熟度型のシステムだ。毒牙を何十回と使ってきたのが、ここで形になった形だろう。


 ステータスを確認する。スキル欄の表示が「毒牙 Lv1(微弱)」から変わっているはずだ。


 開いてみると——「毒牙 Lv2」と表示されていた。括弧書きの「微弱」が消えている。


 地味だが、これは大きい。毒の効果時間が短くなるということは、戦闘が短縮される。毒が回るのを待つ時間がリスクだったのが、少し改善される。


   ◇ ◇ ◇


 池の周囲をさらに調べると、他にも生き物がいた。


 壁面に張り付いた半透明の生き物——寄生生物か。それ自体は動かないので対象外。池から離れた暗い隅に丸まった小型の節足動物——甲殻類に近い形。石のように動かないが、舌先で感知すると生きている。


 そして——池の水を飲みに来た百足を見つけた。


 昨日のとほぼ同じサイズ。20センチほど。水を飲んでいる間は無防備だ。


 昨日は苦戦した相手だ。今日は毒牙がLv2になっている。


 試してみる。


 振動を殺して近づく。百足の後方、5センチの距離。


 一撃で頭部後方の柔らかい部分に噛みついた。


 Lv2の毒が入る。


 百足が暴れた。昨日と同じ動き。だが昨日と違うのは、暴れる時間だ。30秒。1分。昨日は2分かかったのが、今日は1分半で脚の動きが鈍くなり、2分で完全に止まった。


 進歩だ。


 毒牙のレベルが上がったことで、戦闘時間が実質的に短縮されている。被ダメージのリスクが下がった。


   ◇ ◇ ◇


 夕方——ここに昼夜の区別はないが、体内時計でそう感じる時間帯——にステータスを開いた。


――――――――――――――――――――

【ステータス】

種族:仔蛇

レベル:8

HP:24/24 MP:11/11

攻撃力:10 防御力:9 素早さ:12 知力:9

魔力適性:なし


【スキル】

熱感知 Lv1、毒牙 Lv2


認識範囲:2m

次の進化まで:30%

――――――――――――――――――――


 進化まで30%。着実に積み上がっている。


 今日の成果を整理する。


 まず、この池が使える拠点になる。水生甲虫という安定した食料源。水を飲みに来る百足という経験値源。暗がりに隠れた小型生物という予備の食料。生態系が完成されていて、放っておいても獲物が供給される。


 次に、毒牙の強化。これは単純に戦力増強だ。毒の速効性が上がるほど、戦闘中のリスクが下がる。さらに使い続ければLv3になる——その時にはどこまで威力が上がるのか。


 最後に、泳げることが分かった。水中での機動性は水生甲虫より劣るが、浅瀬での戦闘なら問題ない。環境適応の選択肢が増えた。


 池の縁、岩と水面の間の狭い隙間に体を収める。


 暗くて、静かで、水の音だけがある。


 ここは悪くない。今日はこのまま休む。


 腹の中に百足と水生甲虫が3匹入っている。消化しながら、俺は目を閉じた。


 なんとなく、ゲームの序盤でうまい狩り場を見つけた時の感覚に似ている。効率が一気に上がる、あの感じ。


 地道にやっていれば、進化は来る。


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