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ヘビに転生した俺は、最弱ステータスからスキル補食と進化しながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん
捕食継承

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第038話「時間差」

 昨日の観察で、泥底の主の巡回時刻がおおよそ分かった。


 正確な時計はない。だがこの体の内部時計と、縦穴から降りてくる空気の温度変化で、ざっくりした時間帯は読める。主が通過してから次の巡回までが安全時間だ。時間帯でリスクが変わるなら、低リスク帯を狙って回す。周回効率の基本。


 主が通過したと思われる時刻を過ぎるまで拠点で待ち、それから回廊へ出た。


   ◇ ◇ ◇


 回廊に入った。棚と壁面だけで移動する。泥底には降りない。


 キャンプ跡の手前で霧沼蛙が1匹。上から噛んで仕留めた。30秒もかからなかった。食ったが、通知は来ない。


 キャンプ跡を通過し、昨日の到達地点を越えた。巡回の溝は昨日のまま残っている。その横に今日の新しい溝が1本。主は既に通過済みだ。読みは合っていた。


 安全時間の中にいる。そのはずだが、壁1枚下があいつの領域だという事実は、計算で消えてくれなかった。安全で不気味。この層は大体そうだ。


 昨日の到達地点よりさらに先へ進んだ。壁面に主の体が擦った跡が残っている。回廊の幅に対して、あの体はぎりぎりなのだろう。


 棚が広くなった場所で、振動感知に引っかかるものがあった。


 多脚。速いリズム。灰色の体。


 沼底百足だ。


 拠点の裂け目で仕留めた個体と同種。だが今は裂け目がない。棚の上で、互いに向き合う形になった。


   ◇ ◇ ◇


 沼底百足がこちらに向かって走り出した。


 ——速い。


 裂け目の中で戦った時とは比較にならない。棚の上を全力で駆ける速度は、俺の倍はある。急旋回で正面を向いて構えた。


 百足が頭上を飛び越えようとした。背面に回る気だ。追ったが、着地した時には既に脇腹に回り込まれていた。脚の先端が鱗の隙間を引っ掻く。鱗硬化の上からでも、鉤爪は刺さった。


 棚から落ちたら泥底だ。踏ん張るしかない。


 百足が2周目の旋回に入った。同じ方向から同じように回り込んでくる。速いが、軌道が一定だ。


 毒液圧縮。


 百足が頭上を通過する瞬間に、圧縮した毒液を叩きつけた。霧ではなく液滴で飛ばす。百足の腹部に着弾。


 ……通った。


 腹部の殻は背面より薄い。圧縮した濃度なら、薄殻からでも浸透する。2周目の旋回が目に見えて遅くなった。


 合わせた。減速した百足の頭部を正面から噛む。外殻粉砕の振動を乗せて殻を割り、毒牙を差し込んだ。百足が暴れる。脚が鱗を何度も叩く。鱗弾きで衝撃を散らしながら、牙を離さなかった。


 20秒で脚が止まった。


 HPは4割を切っている。脇腹の鉤爪傷が深い。だが貫通はしていない。裂け目で戦った時より消耗が大きいのは当然だ。地の利がない分、全部を技と防御で受ける必要があった。同じ敵でも、地形が変われば難度が変わる。


 食った。灰色の殻を噛み砕きながら、棚の壁面に背を預けた。


 通知が来た。


『Lv8になりました』


 全回復。脇腹の傷が塞がり、毒霧で削られた分も含めて全部戻った。2日ぶりのレベルアップだ。この回復がなかったら、帰路の毒霧が厳しかった。


 ステータスを確認した。


――――――――――――――――――――

種族:鎧鱗毒蛇

Lv:8

HP:70 / MP:30

攻撃力:38 / 防御力:47

素早さ:30 / 知力:25

【スキル】

 捕食継承 Lv1 / 毒牙 Lv3 / 締め付け Lv2

 鱗硬化 Lv2 / 壁走り Lv2 / 振動感知 Lv3

 熱感知 Lv2 / 外殻粉砕 Lv1 / 毒液圧縮 Lv1

 酸耐性 Lv1 / 粘着無効 Lv1 / 毒霧 Lv1

 鱗弾き Lv1 / 急旋回 Lv1 / 嗅覚強化 Lv1

 反響定位 Lv1

次の進化まで:82%

――――――――――――――――――――


 防御47。さっきの百足の鉤爪を鱗硬化で受けた時、痛かったが貫通しなかった。あと数ポイント上がれば、引っ掻き傷すら残らなくなる。着実に届く数字だ。


 素早さ30に乗った。沼底百足の半分にも届かないが、急旋回と毒液圧縮で速度差を埋められることは今日証明した。追いつけなくても、来る場所で待てばいい。


 進化82%。あと2割弱。


   ◇ ◇ ◇


 体が全快になった余裕で、もう少し先を見ておくことにした。安全時間はまだあるはずだ。


 棚を南東へ進む。回廊の壁面の擦れ跡が濃くなっている。主の巡回路の中心に近づいている。


 そこで振動感知が鳴った。


 遠く。だが、昨日と同じ重い振動。一定のリズムで泥底を押す圧。


 ——早い。


 計算より早い。昨日の通過からまだ同じだけの時間が経っていない。巡回の間隔は毎回同じではなかった。


 全力で引き返した。壁走りで壁面を駆け、棚を跳び移る。レベルアップの全回復がなかったら、この速度は出せなかった。


 振動が近づいてくる。南東方向から。こちらに向かっている。


 キャンプ跡を通過した。溝の区間を抜けた。振動がまだ追いかけてくるが、距離は開いている。壁走りと棚を使う分だけ、泥底を滑るあいつより細かく動ける。


 拠点の裂け目に体を滑り込ませた。


 振動はまだ回廊の南東端にあった。追ってきたわけではない。ただ巡回が予定より早かっただけだ。だが、あと10分遅れていたら回廊の深部で鉢合わせていた。


 体を丸めて、呼吸を整えた。


 巡回の間隔は一定ではない。時間差を計算に入れるだけでは足りない。安全時間を見積もるなら、最短の巡回間隔を基準にしなければならない。それにはもっとデータがいる。


 振動感知を絞って、主の巡回音を聴いた。回廊を通過していく重い圧。


 その振動の中に、昨日とは違う音が混じっていた。主の体が泥を押す低い圧に重なって、硬いものが引きずられる音がする。殻ではない。岩でもない。もっと薄くて、軽い。


 何かを咥えている。何かを、運んでいる。


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