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最弱ステータスでヘビに転生した俺は、スキル補食と進化をしながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん


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第037話「回廊の主」

 昨日見つけた回廊は、獲物の空白地帯になっているはずだ。


 あの3体が通った後だ。人間らしき連中は、松明の光と金属の刃で蟲を蹴散らしながら進んでいた。通過直後の回廊には敵が少ない。だが空いた場所には、周囲から別の蟲が流れ込んでくる。荒らされた直後の狩り場なら、安全を取りつつ獲物も拾える。狩り場の候補に入れるならここだ。


 拠点を出て、岩棚を南東へ辿った。


   ◇ ◇ ◇


 回廊に出た。昨日の松明の煤がまだ岩壁に残っている。


 棚から泥底を見下ろす。蛙が切られた場所の周囲に、小さな蟲が集まっていた。死体の残骸を食いに来た掃除屋だろう。俺が昨日食い残した部位にたかっている。


 掃除屋に用はない。小さすぎて経験値も食いでもない。


 回廊を南東へ進む。昨日の3体が進んだ方向だ。振動感知に、あの左右交互の足音は引っかからない。距離は十分にある。


 3つ目の縦穴を過ぎた先で、霧沼蛙が1匹いた。昨日まではいなかった場所だ。人間が通った後の空白に入り込んできたらしい。読み通りだ。


 上から仕掛けた。棚の縁から飛び降り、背面に噛みつく。脊椎の横、神経が通る隙間に毒牙を差し込んで毒を流した。蛙は跳ねたが、着地した時にはもう後脚が動いていなかった。頭部の付け根にもう一噛み。


 ――止まった。


 かなり早い。蛙1匹を仕留める手順は、もう体に入っている。鎧鱗毒蛇の毒牙Lv3と体格があれば、この程度の蛙は一方的に終わる。


 俺は蛙を食った。蛙1匹では量が足りないが、回廊で動く分の回復にはなる。


 通知は来なかった。次のレベルにはまだ足りない。


   ◇ ◇ ◇


 蛙を食い終えてから、回廊の先を進んだ。


 昨日のキャンプ跡を通過する。焚き火の灰はそのまま。壁の文字も変わっていない。匂いだけが少し薄くなっている。


 キャンプ跡の先は、昨日の俺が踏み込んでいない領域だった。回廊がさらに続いている。幅が広がり、天井が高くなる。泥底が深い。棚の高さが足りず、壁走りで岩壁に張りつきながら進んだ。


 泥底の様子がおかしかった。


 泥の表面に、幅の広い溝が走っている。大きな体が、泥底を押しのけて進んだ跡だ。溝の幅は俺の体の3倍以上。蟲の脚跡ではない。引きずり跡でもない。長い体が泥を左右に押し分けて進んだ跡だった。


 ……あいつの通り道か。


 拠点を探していた日に、縦穴の下で見たあの影。大型百足を泥底で食い殺した、脚のない長い体。溝の幅と深さが近い。この回廊の泥底は、あいつの通り道らしい。


 振動感知を最大まで広げた。


 遠くに、低く強い振動がある。長い体が泥底を押すたび、地面が沈むような揺れが返ってくる。蟲の脚音とは根本的に違う。


 間隔が縮まっている。


 ――あの長い影が来る。


 壁面に体を押しつけた。鱗硬化を入れて、岩の色に溶け込ませる。動くな。呼吸を絞れ。振動を出すな。


   ◇ ◇ ◇


 泥底に、影が現れた。


 熱感知Lv2で捉える。巨大な長い体が、泥底を割るように進んでいた。体温が周囲の泥よりわずかに高い。変温動物だが、質量が大きい分だけ体内の熱が残る。長さは正確には分からない。少なくとも10メートルは超えている。幅は俺の体の5倍近い。脚はない。先端が泥底を押し分けて、ゆっくりと通過していく。


 前回は縦穴越しに、距離のある場所から見ていた。今は壁面の3メートル上から、真下を見下ろしている。振動の解像度がまるで違う。全身の鱗が、あの体から伝わる揺れで細かく震えていた。


 速くはない。俺の全力移動より遅いかもしれない。だが、遅いから安全とはまったく思えなかった。あの太さで体当たりされたら、鱗硬化ごと潰される。噛みついたところで、毒が回り切る前にこちらが振り落とされる。あれは普通に狩る相手ではない。あいつが通る時間だけ、泥底そのものが死地になる。


 体の中腹が通過する時、泥底が盛り上がった。あいつの体が泥を押しのけて、泥底全体が波打っている。壁面にも泥が跳ねた。尾の先端を泥の飛沫がかすめる。


 動くな。


 尾を壁に押しつけて、飛沫の感触を殺した。あいつが振動感知を持っているかどうかは分からない。壁面でこちらが動けば、拾われる可能性がある。


 長い体の末端が通過していった。全身が視界を抜けるまで、かなり長く待たされた。10メートルどころではない。20メートルに近い。


 振動が遠ざかっていく。南東方向へ。回廊に沿って。


   ◇ ◇ ◇


 振動が完全に消えるまで、壁面から動かなかった。


 ゆっくり壁を降りた。腹と尾が強張っている。岩に押しつけ続けたせいで、腹の下に鈍い痛みがある。戦闘をしていないのに消耗している。泥の飛沫で毒霧を浴びた分と、腹を岩に固定し続けた分だ。


 泥底を見た。あいつが通過した後の溝が、くっきりと残っている。さっき見つけた古い溝の横に、新しい溝が並んでいた。同じ幅、同じ深さ、同じ方向。


 ……同じ場所を回っているのか。


 あいつは同じ道を繰り返し通っている。頻度は分からない。だが溝の重なり方を見る限り、毎日か、それに近い間隔で同じ場所を通過している。


 頭の中の地図に、あいつの通り道を書き込んだ。回廊の泥底を南東方向へ。途中の分岐があるかもしれないが、少なくともこの区間は確定だ。通過しやすい時間もおおよそ分かった。


 溝の中に、蟲の殻の破片が散らばっていた。泥底の蟲を踏み潰しながら通っているのか、それとも回っている途中で食っているのか。どちらにしても、あいつの通り道にいるだけで踏まれる。泥底を移動するという選択肢は、この回廊では完全に消えた。


 引き返した。


 帰路は棚と壁走りだけで移動した。泥底に降りる気になれなかった。蛙の残骸があった場所を通過する。掃除屋がまだたかっていた。蹴散らして通る気力がなかった。


 拠点の裂け目に体を押し込んだ時、HPは5割を切っていた。蛙1匹との戦闘と、回廊の往復で浴びた毒霧の被毒だ。レベルアップは来ていない。全回復のない帰還が続いている。


 体を丸めて、考えた。


 回廊は使える。人間らしき連中が何度も通るなら、蟲が入れ替わる。同じ獲物を枯らす心配が少ない。ただし泥底にはあいつがいる。使うなら棚と壁面だけで動いて、あいつが通る時間を外すしかない。


 もう一つ、気になることがある。


 あの3体の人間らしき連中は、あいつの通り道と同じ回廊を通って南東へ進んでいた。あいつが通る時間を知っているのか。それとも、知らずに歩いていたのか。


 どちらにしても、蛙を一振りで両断する連中が、あの泥底の主を避けて歩いているのなら――あの主は、人間にとっても危ない相手ということだ。


 進化75%。あの泥底の主と、いずれ決着をつけることになる。


 まだ、勝ち方が一つも見えていない。


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