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ヘビに転生した俺は、最弱ステータスからスキル補食と進化しながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん
目覚め

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第002話「狩りの日々」


 蛇は夢を見るのか、という疑問に答えが出た。


 少なくとも俺は見た。ESの提出期限に追われ、どのパソコンを開いても画面が真っ黒で何も打てないという、社畜の夢の定番みたいなやつを。


 目覚めると、体が壁に押し付けられていた。苔の上に顔を埋め、体を緩やかにとぐろ状に丸めた形で、岩の隙間にすっぽりと収まっている。


 ……俺、こんなところで寝てたのか。


 記憶を辿ると、前日の狩りの後で満腹になり、体が重くなり、気がついたらこの岩の隙間に潜り込んでいたらしい。蛇の本能だ。捕食者から身を隠せる狭い空間を、意識せず選んでいた。


 悪くない。狭くて暗くて、むしろ落ち着く。


 前世では、散らかった狭い一人暮らしの部屋が好きだったが——方向性は同じか。


 体を伸ばし、岩の隙間から這い出す。外に出ると、昨日と同じ青緑色の薄明かり。発光キノコの光は時間によって変わらないらしく、ここに昼夜の区別があるのかどうかも分からない。体内時計で計算すると、だいたい8時間は眠ったと思うが、ここの「一日」が地球と同じ24時間かどうかも不明だ。


 不明なことが多すぎる。


 とりあえず、今日やることは昨日と変わらない。食って、戦って、レベルを上げる。


   ◇ ◇ ◇


 2日目は、昨日より格段に効率が上がった。


 理由は単純で、コツを掴んだからだ。


 蟲の動きには、種類ごとにパターンがある。昨日戦った甲虫型は「攻撃モーションへの反射回避」だったが、今日見つけた別の蟲——形は細長く、脚が多く、ムカデのやつより小ぶりな種類——は反射回避を持たない代わりに、こちらの存在を認識した瞬間に丸まって硬化する。


 試しに突っ込んでみたら、噛む隙間がない。丸まった体は球のようで、どこにも毒牙が刺さらない。


 仕方ないので待った。


 2分。3分。動かない。


 5分。……まだ待つか、こいつ。


 10分後、ようやく球が解けた。蟲が恐る恐る頭を出した瞬間を狙って噛んだ。


 今度は毒が効いた。


 時間がかかりすぎる、と最初は思ったが、よく考えると俺は別に急いでいない。体力の消耗もほぼゼロ。罠のように待ち伏せして、動いた瞬間を仕留める。蛇として、むしろこっちのほうが自然なやり方かもしれない。


 小型の蟲を何匹か狩るうちに、もうひとつ気づいたことがあった。


 地面から、情報が伝わってくる。


 最初は気のせいだと思った。だが何度試しても、目で見えない場所に生き物がいると、腹の鱗を通じて微かな振動が伝わってくる感覚がある。熱感知の認識範囲は2メートルだが、この振動は——もう少し遠い。


 前世の記憶を探る。蛇は耳の代わりに、顎の骨で地面の振動を感じ取る。音ではなく振動として周囲の情報を得る器官が、骨格に組み込まれているはずだ。


 試しに、静止して地面に顎を押し付けた。


 ——来た。


 3メートルほど先に、何かが動いている。サイズは小さい。蟲だ。熱感知では届かない距離だが、振動ならはっきり分かる。


 索敵範囲が広がった。


 これは使える。


 認識範囲2メートルに加えて、振動で探れる範囲がある。具体的にどこまでかは検証が必要だが、少なくとも死角が減った。


 気をよくして、振動を辿りながら次の獲物に向かった。


   ◇ ◇ ◇


 問題が起きたのは、5匹目を仕留めた後だった。


 レベルアップの通知が出て、少し休んでいると——重い振動が来た。


 さっきまでとは違う。小さな蟲の細かい足音ではなく、ずっしりとした、間隔の長い振動。


 でかい。


 熱感知を向ける。5メートル先に、大きな赤い塊が動いていた。サイズは……俺の3倍か4倍はある。


 岩に擬態するようにじっとしていたが、向こうはこちらに気づいていないらしく、苔を踏みながらゆっくり近づいてきている。形は……平べったい。脚が左右に広がっている。甲殻がある。


 蟹だ。蟹型の蟲。体長10センチ、幅は15センチほど。蛇より幅が広い。


 逃げるか、戦うか。


 逃げるのは簡単だ。相手はのろい。今すぐ回廊の細い隙間に逃げ込めば、幅のある蟹型には追えない。


 だが——デカい獲物はドロップ経験値も多いはずだ。ゲームの法則がここでも通用するなら。


 少し考えて、戦うことにした。


 問題は戦法だ。甲虫型に使ったフェイントが通用するかどうか分からない。蟹は甲虫と動き方が根本的に違う。横に動くし、爪がある。挟まれたら30センチの蛇なんか簡単に切断されかねない。


 まず観察する。


 蟹型は苔の上を横ばいに移動しながら、苔そのものを食べているようだった。草食……というか菌食か。戦闘態勢には入っていない。


 こちらへの警戒は——ある。触角を立てて、定期的に周囲を確認している。


 正面からのフェイントは危険だ。爪の射程内に入ると詰む。毒牙は接触が必要で、爪は俺より長い。距離的に不利。


 後ろから、か。


 蟹の弱点は背面だ。甲羅は硬いが、脚の付け根と腹部は柔らかいはず——推測だが、地球の蟹がそうなのだから、似た構造なら同じはずだ。


 真後ろから近づいて、腹面を狙う。ただし真後ろに回り込むまでが問題だ。あの触角の感知範囲内に入れば気づかれる。


 振動を殺しながら動く必要がある。


 俺は体の動きを極限まで遅くした。苔の上を、ほとんど止まっているかのような速度で滑る。振動が地面に伝わらないよう、力の入れ方を均一に。


 蟹型の真横まで来た。


 触角がぴくりと動いた。


 止まる。呼吸を——蛇に呼吸という概念があるのかは不明だが、気配を殺す。


 5秒。10秒。


 蟹型が再び苔を食べ始めた。


 さらに回り込む。真後ろ。距離20センチ。


 射程圏内。


 飛びかかった。


 今度は外さなかった。甲羅と腹部の継ぎ目——柔らかい隙間に毒牙が刺さった。蟹型が暴れる。爪が振り回される。側面を軽く引っ掻かれて痛みが走ったが、噛みついたまま離れない。


 毒を注入し続ける。


 10秒後、爪の動きが鈍くなった。30秒後、横ばいに逃げようとしてよろける。1分後、完全に止まった。


 甲虫型より毒の効きが悪かったが——倒せた。


 通知が2回来た。


『経験値を獲得しました』

『レベルが4に上がりました』


 2レベル一気に上がった。予想通り、大きい獲物は経験値が多い。


   ◇ ◇ ◇


 その日の終わりに、ステータスを確認した。


――――――――――――――――――――

【ステータス】

種族:仔蛇

レベル:4

HP:16/16 MP:7/7

攻撃力:6 防御力:5 素早さ:8 知力:5

魔力適性:なし


【スキル】

熱感知 Lv1、毒牙 Lv1(微弱)


認識範囲:2m

次の進化まで:12%

――――――――――――――――――――


 レベル4。進化まで12%。


 2日で12パーセント。このペースなら10日もあれば最初の進化に届く計算だ。もっとも、進化条件がレベルだけとは限らない。昨日から頭にある懸念だが、実際のところは進化の選択肢が出てくるまで分からない。


 今日の収穫をまとめると——まず、蟲の種類ごとに戦法を変える必要があること。球化する種には待ち伏せ。横に広い甲殻種には後方奇襲。反射回避型には昨日確立したフェイント。パターンが増えるたびに、対応の引き出しが増えていく。


 もうひとつは、振動感知だ。スキルとして登録はされていないが、地面に顎を押し付ければ遠くの生き物の存在を察知できる。認識範囲外の索敵手段として、地味に使える。


 それと——苔の回廊は思ったより広い。


 今日は、行き止まりとは別に、横に続く通路を見つけた。どこへ続くかは分からないが、この場所が単純な一本道ではないことは分かった。迷宮と呼ばれるなら当然か。


 俺は岩の隙間に体を収め、目を閉じた。


 今日だけで蟲を7匹仕留めた。全部食った。胃袋がぱんぱんだ。


 蛇の前世を送っていた俺が食事のたびに顎を外して獲物を丸呑みにするのを見たら、1週間前の俺は卒倒しただろう。


 だが今の俺は、それを「効率的」と思っている。


 慣れとは恐ろしい。


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