第013話「進化」
進化まで93%。
……あと7%。
数字だけなら、もう目の前だ。
俺は池の縁で水生甲虫を見ながら、今日は無理をしない範囲で食うと決めた。
大型百足に近づく必要はない。
東の温かい部屋、北東の小さい百足、湿った小部屋のイモリ。今の俺が狩れる相手だけでも、残り7%なら届く可能性がある。
今日の目的は、生きて進化することだ。
進化の通知が来ても、危険な場所で倒れたら意味がない。
◇ ◇ ◇
まず、北東の小さい百足を2匹狩った。
入口の狭い場所へ引き、頭の横へ牙を入れる。
毒牙Lv3なら、止まるまでが速い。
2匹を食べ終わった時点で、進化率は96%になった。
次に東の裂け目を抜け、温かい部屋へ向かう。
ネズミは警戒していたが、壁の穴から出てくる位置は昨日と同じだった。
1匹目は穴から出た瞬間に噛む。
2匹目は浅い水のそばで足を滑らせたところへ牙を入れた。
温かい肉が腹に落ちる。
進化率は98%。
あと2%。
ここまで来ると、体の奥がそわそわする。数字のせいか、本当に体が変わる前触れなのかは分からない。
ただ、無茶はしない。
最後は湿ったイモリを1匹だけ狩る。
◇ ◇ ◇
湿った小部屋で、俺は一番手前のイモリだけを狙った。
頭の横へ短く噛む。
すぐ離れる。
皮膚毒のしびれはあるが、昨日ほどではない。
2回目の毒を入れたあと、距離を取って待つ。
イモリは水たまりの縁で脚を滑らせ、そのまま動かなくなった。
食べる時も、できるだけ皮膚が口の中に長く触れないようにする。
うまくはない。
今日の狙いは、味ではなく進化率だ。
飲み込んだ直後、通知が浮かんだ。
『次の進化まで:100%』
『進化の準備が整いました』
進化準備の通知が来た。
ついに届いた。
小さい蛇でここまで食って、逃げて、噛んで、ようやく届いた。
喜ぶのは後だ。
次の通知が続く。
『安全な場所で休眠状態に入ってください』
『変化が完了するまで、体は無防備になります』
無防備。
その言葉を見た瞬間、湿った小部屋にいるのは論外になった。
残りのイモリがいる。
ネズミの部屋も、群れが戻ってくる。
北東の百足部屋も駄目だ。
休眠するなら、池の岩陰しかない。
◇ ◇ ◇
俺は急いで池へ戻った。
東の裂け目を抜ける時も、北東の通路を横切る時も、いつもより体が鈍い。
眠気とは違う。
体の奥から力が抜けていく。筋肉を動かそうとしても、命令が少し遅れて届く。
変わる準備が始まっている。
池の縁に着くと、俺はいつもの岩の割れ目へ体を滑り込ませた。
池の岩陰なら外から見えにくい。
大型の熱源も近くにはない。
池の虫はいるが、休眠中の俺をすぐ殺せる相手ではない。
振動感知で周囲を確認し、体を奥へ丸める。
意識が沈む。
怖さはある。
怖さより、進化への期待の方が強かった。
ここまで食ってきた結果が、今から俺の体に出る。
◇ ◇ ◇
目が覚めた時、最初に違和感を覚えたのは尾だった。
尾の先が遠い。
体を動かそうとすると、後ろ半分が今までより遅れてついてくる。
俺は岩の割れ目から出ようとした。
頭は出る。
首も出る。
胴が引っかかった。
昨日まで普通に入れていた割れ目が、急に狭い。
俺は腹に力を入れ、体をひねって外へ出た。
池の縁に出た瞬間、視界の高さが違うと分かった。
地面が少し遠い。
水面に映った体も、昨日の倍近く長い。
俺の体は、60センチくらいになっていた。
うわ。
マジで化けた。
小さい蛇から、ちゃんと蛇らしい長さになっている。
水面を見ていると、通知が来た。
『種族が仔蛇から若蛇に変化しました』
『レベルが1になりました』
レベル1。
16から1。
数字だけ見れば嫌だが、体は明らかに強くなっている。
俺はすぐステータスを開いた。
――――――――――――――――――
【ステータス】
種族:若蛇
レベル:1
HP:20/20 MP:10/10
攻撃力:12 防御力:10 素早さ:15 知力:10
魔力適性:なし
【スキル】
熱感知 Lv1、毒牙 Lv3、振動感知 Lv2、締め付け Lv1
次の進化まで:0%
――――――――――――――――――
若蛇Lv1のHPは20。
仔蛇Lv1の時はHP8だった。
レベルは1に戻ったが、種族の土台が上がっている。
毒牙も振動感知も残っている。
よかった。
毒牙も振動感知も消えていない。ここまで積んだものが残っているのは、普通にうれしい。
そして、新しいスキルがある。
締め付けLv1。
蛇の武器らしいやつが、ようやく来た。
30センチの体では、巻きついて倒すなんて無理だった。今の長さなら、小型相手には体を回せる。
噛むだけじゃなく、相手の動きを止める手が増えた。
◇ ◇ ◇
ただ、良いことだけではなかった。
体が長くなったぶん、動き方が変わっている。
今までの感覚で曲がろうとすると、尾が少し遅れる。
池の縁を回るだけでも、曲がる幅が前より大きい。
小回りは落ちた。
代わりに、体を伸ばした時の押す力は増えている。
水際の石を腹で押すと、前より強く進めた。
大きくなった。
強くもなった。
その分、狭い場所では困る。
試しに、昨日まで使っていた岩の割れ目へ戻ろうとした。
入れない。
頭は入るが、胴が途中で詰まる。
寝床を変えないといけない。
東の裂け目も、たぶん昨日より抜けにくい。
逃げ道として使うなら、通れる角度をもう一度覚える必要がある。
進化したら、狩りも移動も一気に楽になると思っていた。
そういう都合のいい話ではないらしい。
進化後の不便も、成長したから出てきた問題だ。小さいままでは、そもそも寝床に詰まることもなかった。
俺は池の南側にある広めの岩陰を探し、そこへ新しい体を丸めた。
明日は、この若蛇の体で動く。
まずは、締め付けを試す。
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