第57話 許されない正しさ
優先選択の明文化は、思ったより早く波紋を呼んだ。
中央議会で、正式に問題として取り上げられる。
「“見送り”という制度は、切り捨てを正当化するものではないか」
議員の一人が声を上げる。
「少数地域が常に不利になる構造だ」
傍聴席がざわめく。
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セルディオ・クラウスは、再び壇上に立っていた。
「優先選択は、全体存続のための措置です」
「その“全体”に含まれなかった地域はどうなる」
「事後支援を最優先とする」
「命は戻らない」
鋭い言葉。
セルディオは、否定しない。
「戻らない」
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フォルン。
エマは議会中継を見ながら言う。
「また責められてる」
「予想通りです」
アレインは落ち着いている。
「思想は、歓迎されるためのものではありません」
「でも、あれじゃ冷酷に見えます」
「冷酷に見える部分はあります」
否定しない。
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議会ではさらに追及が続く。
「もし自分の家族が南方にいたら、同じ判断をするか」
会場が静まり返る。
セルディオは、数秒沈黙する。
「します」
ざわめきが広がる。
「責任者としては」
その一言が、空気をさらに重くする。
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南方山岳自治領。
議会中継を見ていた住民の一人が呟く。
「……冷たいな」
ライナは、首を横に振る。
「冷たいのは制度よ」
「彼じゃないのか」
「彼は制度を使っただけ」
それが本音だった。
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中央では、世論調査が出る。
優先選択支持:四割。
反対:五割。
無回答:一割。
過半数は、納得していない。
「制度の見直しを求める声が強いです」
副官が報告する。
セルディオは、短く答える。
「見直す」
「廃止ですか」
「違う」
静かな否定。
「基準の透明化だ」
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フォルン。
エマが言う。
「許されないですね」
「許されません」
アレインは頷く。
「正しさは、常に許されるわけではない」
「じゃあ、どうするんですか」
「続ける」
短い答え。
「許されなくても、必要なら」
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南方では、再建が進んでいる。
小さな市場が再開し、
仮設学校に笑い声が戻る。
十八の名前は、記念碑に刻まれた。
その下に、小さくこう書かれている。
> 同時危機における記録
責める言葉はない。
だが、消しもしない。
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議会の最終結論は、こうだった。
> 優先選択制度は維持
> 基準の公開義務を追加
完全な勝利ではない。
完全な敗北でもない。
ただ、続く。
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夜。
三地域で小さな揺れがあった。
全て見送り。
余力は、まだある。
許されない正しさは、
今日も静かに機能している。
歓迎されなくても、
拍手がなくても。
それでも、世界は壊れていない。
その事実だけが、
制度を支えていた。
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