第46話 同時多発
警報は、ほぼ同時に三方向から届いた。
北方沿岸自治領――地脈の暴走。
南方山岳自治領――結界崩落寸前。
西部農業圏――魔力濃度の急上昇。
いずれも規模は“大”。
中央危機統括局の会議室に、緊急召集がかかった。
壁面の魔導盤には、三つの赤い光点が灯っている。
そのどれもが、単独であれば国家級対応を要する規模だ。
「……最悪だな」
誰かが小さく呟く。
否定する者はいない。
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会議室の中央に立つ男が、静かに口を開いた。
「開始します」
セルディオ・クラウス。
中央危機統括局 局長。
背筋は伸び、声は平坦。
感情を排した響き。
「現在の余力を提示」
即座に数値が並ぶ。
対応可能大規模介入:二件。
持続時間:三日。
追加増強:不可。
沈黙が落ちる。
全員が理解した。
三件同時には、守れない。
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「優先順位を決定する」
セルディオは続ける。
「情緒は排除。総被害最小化を基準とする」
誰も反論しない。
反論できる余地がない。
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北方沿岸。
人口三万。
主要港湾を含む。
南方山岳。
人口一万五千。
交通要所。
西部農業圏。
人口二万。
食糧供給地。
どれも、切れない。
だが、切らなければならない。
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「フォルン方式の計算を」
副官が言う。
セルディオは短く頷く。
「実施」
魔導盤に追加演算が走る。
被害予測。
連鎖確率。
復旧可能性。
余力消費量。
冷酷な数字が並ぶ。
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同時刻。
フォルン辺境領にも報が届いていた。
エマは、三つの報告書を机に広げる。
「三つとも……重い」
アレインは静かに言う。
「はい」
「全部は無理ですね」
「はい」
短い応答。
否定はない。
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中央会議室。
演算結果が表示される。
北方沿岸――優先度高。
西部農業圏――中。
南方山岳――低。
室内の空気が重くなる。
「南方を見送れば、総死傷者数は最小」
副官が言う。
言葉は事実。
だが、重い。
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セルディオは、画面を見つめたまま言う。
「救えないのではない」
全員が顔を上げる。
「選ばないのだ」
それは、宣告だった。
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フォルン。
エマが唇を噛む。
「先生……」
アレインは目を閉じる。
「これが、第5部です」
「……どういう意味ですか」
「余力が足りない世界で、次に問われるのはこれです」
誰を助けるか。
ではない。
誰を、助けないか。
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中央では、決断が迫っていた。
「三十秒以内に最終決定を」
副官が告げる。
時間がない。
迷う余地もない。
セルディオは、静かに言った。
「北方沿岸、全面介入」
「西部農業圏、限定介入」
「南方山岳――」
一瞬だけ、間があった。
「見送り」
決定が、確定する。
南方山岳の赤い光点が、暗く点滅を始めた。
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その瞬間、世界はまだ壊れていない。
だが、すでに選ばれている。
救われる場所と、
救われない場所が。
その夜、三地域すべてで警報が鳴った。
だが、動いたのは二つ。
一つは、動かなかった。
動かなかったのではない。
動けなかったのではない。
選ばれなかった。
それが、第5部の始まりだった。




