失恋してしまいましたわね
王都への帰り道。
少し疲れた様子で窓から外を眺めているテオに、話しかけてみた。
歌姫のことを想っているのかと思うと、なんだかいたたまれなくて。
「残念だったわね……テオ。でも、またきっと、素敵な女性に出会えるわよ」
「……は? お嬢、何言って……」
「せっかく歌姫のコンサートに行って、テオの恋を応援してあげようと思ったんだけど……」
「ちょ、ちょっと待った! お前、なんか誤解してないか?」
「えっ? 誤解?」
「お嬢、お前まさか……俺と歌姫をくっつけようとして、コンサートに誘ったのか!?」
「そうよ! それ以外に何か理由でも?」
自信たっぷりに胸を張る私に、テオは肩をがっくりと落とした。
──なんで落ち込むのよ。
そのとき、テオの視線がふと私の足元へ向かう。
「……おい、それ……ドレス、破れてるじゃねえか」
「あらっ、ほんとうだわ! こんなところが……!」
……ドレスの裾が乱闘で裂け、太ももが丸見えになっている。
「きゃあっ……!」
「ほら、これでもかけておけ……」
テオが急いで上着を脱ぐと、バサっとかぶせてくれた。
気まずそうにそっぽを向いている。
「せっかく……今日はお洒落してきたのにな……」
「別に……ドレスぐらいまた買えばいいわ」
──あらっ?
テオの頭の上に、またふわっと淡いピンクのオーラが……
まだ歌姫のこと、思い出してるのかしら……?
◇
翌日、王都騎士団によって取り調べが行われた。
ミレアン子爵が雇った手下たちは、伯爵令嬢襲撃未遂の罪で牢屋送りに。
子爵本人には、劇場職員と後援会の証言により、手下を雇った張本人だとバレて。
──爵位剥奪。平民落ち。
めでたし、めでたしね!
あんなエロ貴族がいなくなって、せいせいしたわ!
王都では歌姫が失踪した噂が流れていたけれど、それもすぐに忘れ去られていったみたい。
──それから数日後のこと。
たまたまお父様が忘れ物をしたので、届けに行くために王宮を訪れた。
王宮は隣国からの使節団の出迎えで、バタバタしている様子だわ。
もうすぐ開かれる建国記念の式典に、近隣諸国の王族が招かれているものね。
もちろん、私も伯爵令嬢だから、招待されているわ。
「じゃあ、テオ。ここで待っていてね」
「了解。ちょっとあそこの馬術訓練を見てきていいか?」
「ええ……用事が終わったらそこへ行くわ」
王宮の馬術訓練場のほうを見ると、異国の衣装を纏った小柄な少女がいる。
どこの国から来た人かしら?
付き人がそばにいるから、身分の高い人かもしれないわね。
なぜか少女はテオの方を見ているような気がするけれど……
気のせいよね。
早くお父様に書類を届けないと!
【第三話】『オーラと恋の勘違い』 ー完ー
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