私たちは、正義の味方でしてよ!
階段を駆け下りながら、未来視で見た光景をテオに伝える。
「テオ、聞いて! さっき見た未来視は危険の予告だったの! あの騎士が斬られてしまう……!」
「なんだって!?」
「とにかく、あのふたりを守らないとダメよ! あいつら、何をするかわからないわ!」
テオが私を一瞬だけ振り返って、きっぱりと言った。
「了解。でも、俺の仕事はあくまで、お嬢を守ること! あのふたりを守るのは、ついでだぞ!」
テオ……
本当は歌姫を真っ先に守りたいはずなのに……!
正面玄関の扉を押し開けて飛び出すと、ちょうど、宿の前にいたふたりが振り返った。
──歌姫と騎士!
「待って! お願い、逃げないで!」
「くっ、追手か……!」
騎士が、私たちを警戒して腰に手を──
「違うの! 私たちは味方よ! あなたたちを、逃がしてあげるから!」
説明する暇もなく、向こうからやつらの足音が迫ってきた。
「見つけたぞ、てめぇら!」
エロ子爵の手下たちが、道の向こうから剣を抜いて突っ込んでくる!
「セリーヌ! 逃げろ! 俺のことは構うな」
「嫌よ! 一緒じゃないと逃げないわ!」
「そんなことを言ってる場合じゃないっ……!」
歌姫が一歩後ろに下がり、騎士が一歩前へ出る。
テオも一歩踏み出すと、剣を抜いて構えた。
2対3……
でも、テオだったら大丈夫よね……!
「お嬢、後ろへ!」
「わかってるわ!」
剣がぶつかり、火花が散る。
騎士とテオ、ふたりの剣士が背を合わせるようにして、手下たちを迎え撃つ。
──ガキン! ジャキンッ!
素早い動きで剣を受け流し、反撃するテオ。
相手の腕を押さえ込んで、すかさず騎士が打ち倒す。
「やるな……」
「そっちこそ!」
歌姫の騎士とテオがニヤリと笑う。
なんか息ぴったりなんですけど!?
私は歌姫に急いで事情を説明をする。
「私たちはあなたの味方よ! ギュスター・ミレアン子爵の汚い陰謀は、全部知ってるの!」
「えっ……?」
「あなたたちがどこへ逃げるにしても、手助けするわ。だから、私を信じて……お願い、ここは任せて」
歌姫が息を呑み、小さくうなずいた。
「……ありがとう」
乱闘のほうは、すでに手下のひとりは倒れていて、残りもテオたちが取り押さえた。
宿屋の主人が驚いて出てきたので、ロープを借りてテオに手渡す。
テオが手際よく、後ろ手に縛っていく。
「あなたたち、わたくしを誰だと思っておりますの! このモンテーズ伯爵令嬢に向かって剣を抜いたこと、決して許しませんわ! 目撃者もたくさんいるんですからね!」
「伯爵令嬢だと……?」
驚いたように、歌姫と騎士が後ろへ下がると、膝をついて頭を下げた。
手下たちも、急におとなしくなったわね!
◇
手下たちは宿屋の主人の通報で駆けつけた、王都騎士団に引き渡した。
「首謀者はギュスター・ミレアン子爵ですわ。わたくし、モンテローズ伯爵令嬢が襲撃されたのです」
「なんと……それは一大事です!」
その場で、襲撃は私を狙ったものだったと公式に記録された。
歌姫と騎士はたまたま巻き込まれた一般人だと説明。
大勢の目撃者がいたので、助かったわ。
みんな、私の供述に同意してくれたから。
その中には、あの掃除婦の女性もいて、役に立ってくれたわ!
「ほんとうに……ありがとうございます。こんなことにまで巻き込んでしまって……」
歌姫が深々と頭を下げる。
「それはいいのだけど……あなたたち、ふたりで逃げるのよね?」
「はい……」
歌姫が小さくうなずいた。
隣には騎士がしっかりと寄り添っている。
「それで……行くあてはあるの?」
「はい、私の故郷へ帰ろうと思っています」
「わかったわ。じゃあ、王都を出るところまで送ってあげる。まだ追っ手がいると危ないから」
テオに馬車を呼んできてもらって、四人で乗り込んだ。
たいした額ではないけれど、逃亡に必要な資金を少しだけ援助してあげることにしたわ。
歌姫は遠慮していたけれど、いつかまた素敵な歌を聴かせてもらうための投資よ!
そのときは、私が後援会長になってあげるわね。
「私、もともとは王都近郊の農村の出なんです。けれど、ある音楽家に才能を見出されて……歌手としての活動を始めました」
「その方があなたを後援していた?」
「ええ。でも、それを耳にしたミレアン子爵が多額の金銭を使って……」
歌姫が言いよどむと、代わりに騎士が口を開いた。
「彼女に強制的に専属契約を結ばせようとしたんです。でもそれは……実質愛人契約でした」
「それで、あなたが……」
「私は、かつては彼女の護衛騎士でした。でも、いまはもう……でも、彼女からの連絡を受け、逃亡の手伝いをすることに決めました」
「こんなことになるなんて……ごめんなさい、本当に」
歌姫が言葉を詰まらせると、騎士がそっと手を重ねた。
──その瞬間。
ふたりの頭の上に、濃いピンク色のオーラがふわりと現れた。
やっぱり……ふたりとも恋人の色ね。
テオの頭上にあった薄いピンク色のオーラとは全然違うわ。
かわいそうだけど……テオに勝ち目はないわね。
ふたりは関所を出ると、乗り合い馬車に乗り換えて、歌姫の故郷の村へと旅立った。
何度も振り返って、私たちに手をふっていたわ。




