歌姫救出作戦ですわ!
「まずは、あの騎士風情を叩きのめして、引き離せ! 女のほうは傷をつけるなよ? 売り物にならなくなるからな!」
「いいんですかい? 叩きのめしちまっても。一応騎士ですぜ?」
「構わん。後援会が雇っていた護衛のひとりぐらい、どうとでもなる」
「……わかりやした。居場所の手がかりは?」
「王都のはずれでふたりを見たという報告があった。宿屋の数は知れてるからな。順番に当たれば見つかるはずだ!」
バン、と扉の閉まる音がして、数人の足音が遠ざかっていった。
シーンと静けさが戻ってくる。
全員立ち去ったのを確認してから、小部屋の扉をそっと開けた。
なんとかして、先回りして見つけないと。
もし歌姫が逃げているのだとしたら、王都から外へ出る城門の近くにいる可能性があるわね。
急がないと、王都から出てしまえば追いかけるのが大変だわ。
……とその時に。
床に、何かが落ちているのに気がついた。
昨晩、騎士らしき男が座っていた椅子の下──
指輪だわ。
シルバーの指輪……高価なものではなさそうだけれど。
手のひらに取った瞬間、ぐらりと視界が揺れて──
パキーンっと、色鮮やかな映像が視えた。
──未来視だわ!
石造りの小さな宿屋。
看板に書かれた文字は、『水車亭』
宿の隣に巨大な水車があるわ……
──そして、歌姫と騎士。
追い詰められたように、ふたりは背を合わせて立っていた。
その前に立つのは、あの手下たち。
手下たちが一斉に剣を抜いて──
騎士が、斬られる!
「っ……!!」
そこで現実の視界が戻ってきた。
……まずいわ。
未来視が発動するときって、危険が迫っているときが多いのよね。
助けにいかなくちゃ。
「お嬢っ、大丈夫ですか? 顔色が……」
「……行きましょう、テオ。急がないと」
「何か視えたんですね?」
「とにかく、馬車で話すわ! 水車亭へ先回りしますわよ!」
◇
馬車の中で、事情をテオに説明して。
水車亭に到着するとまず、何か過去視できそうなものはないか探してみた。
扉とか……看板とか……
しかし、手がかりになりそうな映像は視えない。
ちょうど裏庭の掃き掃除をしていた年配の女性がいたので、声をかけてみた。
メイドのような格好をしているので、宿屋の職員っぽいわね。
「ごきげんよう、ちょっとよろしいかしら?」
「ん? あんた、お客さんかい?」
「いいえ、ちょっと人を探しておりまして。昨夜この宿に、騎士風の男性と、きれいな女性が泊まらなかったかしら?」
女性は一瞬疑うような目をしたけど、懐から銀貨を数枚取り出して見せると、すぐに口元がほころんだ。
手を出したので、数枚渡す。
「……いたねぇ、確かに。若い男女。目立つカップルだったから覚えてるよ。お姉さんの方は、ずいぶん綺麗な人だったねぇ」
「やっぱり……! その人たちの泊まった部屋、連れていってくれないかしら?」
「いいよ、こっちおいで。裏口から入れるよ」
あっさりだったわね。
この人に声をかけたのは正解だったわ。
裏口から入って階段を二階に上がると、客室が並ぶ廊下に出た。
人の気配はない。
「突き当たりの部屋が、あのふたりの部屋だよ。じゃ、あたしゃ掃除にもどるからね」
「ありがとう。助かりましたわ」
部屋の前で、テオと目を合わせる。
静かにノックをしたが、反応はない。
そっとドアノブをひねると、鍵はかかっておらず、すんなりと開いた。
──誰もいないわ。
「……間に合わなかったようね。」
「どうします?」
部屋には、朝食を食べたような痕跡が残っている。
まだ掃除が終わっていないということは、部屋を出たばかりかもしれないわ。
何か手がかりになりそうなものはないかしら……
無意識に、ベッドの端に手を置くと──
その瞬間、視界がセピア色に染まり、過去視が流れ込んできた。
──歌姫。
──そして、騎士。
ベッドの上で、寄り添うふたりの姿。
上半身裸の騎士が、歌姫を抱きしめている。
ドレスの肩紐がずれて、豊満な身体が露わになる……
騎士が歌姫を押し倒して、唇を──
そそそそ、そんなところに……!!!
「いやああああああああああああああ!!」
「な、なんですかっ!?」
「いけませんわいけませんわっ! 今のは! とても! 私が見てもいいようなものでは……!」
「お嬢、また何か怪しいものでも……?」
「言えないわああああ!!」
顔が熱いわ……
でも、見てしまった。
あのふたり……恋人だったのね。
それも、すでに深い関係だったなんて……
ということは、駆け落ち?
あのエロ子爵から逃げたということね?
でも……テオになんて説明すれば……
歌姫は、もう別の人に心を……
「お嬢!」
「な、何よっ!」
「窓の外を見てください! やつらが来ましたよ、さっきの手下たちが!」
あわてて窓から外を見下ろすと──
──いた!
表玄関からちょうど出ていくふたり。
歌姫と騎士。
そして、向こうの方から、さっきのガラの悪い手下たちが!
「まずいわ! テオ、急ぎましょう!」
「了解!」
私たちは駆け足で階段を下り、宿の正面玄関へと飛び出した。
このままだと、あの騎士が斬られてしまうわ!




