20 テイムテイムテ~イ~ム♪
ゴメリがリキ化して更に滑舌が悪くなっている最中、日向子はスレイプニルの縄を解いていた
「なっ⁉ヒナちゃんちょっと待った‼」
「ヒヒヒィ~ンッ‼」
ードガッ‼ー
「ぐあっ‼」
日向子の行動を制止しようと駆け寄ったゴメリはスレイプニルの足蹴を受け10m程吹っ飛んだ
「こらっ‼乱暴したらダメでしょっ!」
ーゴッ!ドシャッ‼ー
スレイプニルは逃げ出そうとした瞬間日向子の「軽い」ゲンコツに脳みそを揺らされ縦に崩れ落ちた
「あれ?ちょっと強かったかな?ゴメンゴメン⭐」
痙攣して泡を吹くスレイプニルには日向子の謝罪は届かなかった
「リーダーは寝ちゃってるけどアンタ達は大人しくしてくれてるね♪良い子良い子⭐」
日向子はユニコーン達がとても従順なのを満足そうに撫で回している
最初はシロに怯えて大人しいのかと思っていたがそうではない様だ
「えっと…丁度10頭か。じゃあ先ずは名前だねっ」
日向子は切り株に腰掛けて一頭一頭を繁々と観察する
出来れば覚えやすい特徴を名前に盛り込みたかったのだ
「…痛ててて…ヒナちゃん酷いだなぁ、オラぁ倒れてたんだぞ?」
「…あっ⁉ゴメンなさい…」
「何夢中に…も、もしかして名付けだべかっ⁉」
「そう、可愛い名前を考えてあげなきゃね♪」
ゴメリは日向子のセンスの無さをシロ達で痛感していたので先が思いらやられてこめかみを押さえた
「う~ん…白馬だから…「ハク」にしましょう‼」
ービクッ⁉ー
ユニコーン達は今この瞬間に日向子の壊滅的センスを理解してガタガタ震えている
「えっと…他は思い付かないから「ハク1」から「ハク10」ね」
「…ヒン…」
ユニコーン改め「ハク」達は抗うのを止め恭順の意を示した
「…何か落ち込んでるみたいだべ…」
「えっ⁉名前…嫌だった?」
「ブルッ⁉ヒヒィーン‼」
目に涙を溜め始めた日向子に気遣ったのかハク達は急にはしゃぎだした
ーパカッ、パカッ、ヒヒィーンー
「やだなぁ、ゴメリさん。皆喜んでくれてるじゃないの‼」
(神獣に気を遣わせるとは…)
ゴメリは軍時代に培った処世術、「ダンマリ」を使用し災いを回避した
「…ブルッ?」
日向子の背後でどうやらスレイプニルが目覚めた様だ
「あ、起きた?さっきはゴメンね⁉」
日向子がスレイプニルに近付こうとすると突如前足を折り人間で言う所の「土下座」をするスレイプニル。
彼は仮にも神獣でしかも軍馬である筈なのに日向子の圧倒的な力に屈服し、先程の無礼を全身で詫びていたのである
「え~?私の方が悪かったのに…ゴメンね?」
日向子が跪くスレイプニルの頭を撫でようと手を伸ばす
「ヒッ⁉ハヒン…」
スレイプニルは一瞬ビクついたが新たな主の手を受け入れた
「ゴメリさん、さっきこの子を知ってるっぽい言い回ししてたけど名前は何て言うんですか?」
「ん?あぁ、スレイプニルという神獣だと思うべ」
「え?じゃあ魔物じゃないのか…でも良いよね?」
この場に日向子に抗える者など存在していない為どんな意図があろうとも抗議は出ない
「じゃあ…スレイプニルだから「ニル」ちゃんで良いかな?」
「…ハヒン…」
改めて言うがスレイプニルは北欧の第一神、オーディンの愛でる随一の名馬である
例え同一個体でないとしてもその力量は神話級に違いない
その神獣に「ニルちゃん」などと命名する猛者なぞ誰が想像し得ただろうか?
だが現実はここにニル呼ばわりにちゃん付け迄して撫で回している女傑がいるのだ
「じゃあニルちゃん達はここでゴメリさんと待っててね、あなた達の小屋(檻)を作るお手伝いをして来ちゃうから」
。。。
本日何度目かの放置をされたニルとハク達だが主の命令には逆らえない
「…」「…」
ゴメリとニル、ハク達はお互いを
慰めるかの様な眼差しで見つめあった
その脇でシロがグースカ寝ていたのはご愛敬である
ーカンカンカン、ドンドンー
「さ、ニルちゃんハクちゃん達、ここが今日からあなた達のお家よ♪」
村の外れ、シロ達の檻の横に作られたモノはとても短時間で作ったとは思えない丸太の杭に囲まれた空間だった
「…これをたった数時間で作ったんだか?ゲンガ爺が?」
「いんやぁ、オラは加工だけだんべ。建て込みはほぼヒナちゃんがやったんだよ…」
半径200m程を30cm間隔程度で2mの高さの杭が打ち込んであり到底数時間で出来る様な代物ではない
奥を見ると簡易的な厩舎まであった
先程からニル達と待機(放置)していたゴメリが音に気付かなかった所を考えるとその杭は「地面に刺して」作ったのだ
(どんだけ怪力なんだんべな…)
ゲンガとゴメリはニル達と戯れる日向子を呆れ顔で眺めていた




