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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
4.気ままな狙撃手

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43話 困った時の星王様

 私は、自ら雇ってほしいと申し出てきたアスターを、雇うことに決めた。


 普通ならば、敵として知り合った人間を雇うなんてことはしないだろう。第三者から見れば、愚か者だ、と笑われるかもしれない。


 ただそれでも雇うことにした理由は、二つある。


 一つは、これまで接した中でアスターが悪人だとは思えなかったから。そしてもう一つは、彼がリンディアの師だから。


 そのくらいで信じるなんて、と思われるかもしれない。が、私は信じることに決めた。

 悩んだ末、そちらの道を選んだのである。


 だから、どんな結果が待っていたとしても、悔やみはしない。


 とはいえ、アスターは拘束されているところから勝手に抜け出してきたという状況にある。雇う以上は父親やシュヴァルにも伝えなくてはならないのだろうが——なかなか難しいことになりそうだ。


 少なくとも、反対はされるだろう。


 ……いや、反対されるだけならまだいい。


 それよりも厄介なのは、アスターが再び拘束され、罪人として投獄されでもした時だろう。もしそんなことになれば、雇う話はぱあになりかねない。


 まずどうすれば……、と散々悩んだ挙げ句、私は父親に相談してみることにした。

 彼ならちゃんと話を聞くぐらいはしてくれるだろう、と、そう思ったから。



 その晩、私は、父親に相談するべく星王の間へと向かった。


 彼は相変わらずの高テンションで、「イーダが自ら来てくれるなんて!」と、歓喜の声をあげていた。


 純粋に喜んでいる彼を見ていると、こうして都合のいい時だけ利用する私が悪人のようにも思えてくる。が、今さら止めることもできない。そのため、私は、父親にアスターの件を相談した。


 私たち親子と、ベルンハルトとリンディア——そして、当のアスター。

 そんな何とも言えない顔ぶれでの話し合いとなった。


 最初父親は、アスターを雇うことに反対した。当然だ、何を仕掛けてくるか分からない人物なのだから。


 しかし、一二時間ほど説得し続けた結果、父親はアスターを雇うことを認めてくれた。


「ありがとう! 父さん!」

「イーダがそこまで言うなら仕方ないっ! 特別だからなぁ!」


 もう少し苦労するかと思ったが、予想よりかはスムーズに話が進んだ。


「良かったわね、アスターさん」


 アスターが参加しづらそうな顔をしていたので、話を振ってみた。


「本当に、色々すまないね」

「いいの。命は何より大事だもの」

「狙撃以外となると、綿菓子を作るくらいしかできないが……よろしく」

「綿菓子を作れるの!?」

「もちろん、作れるとも」

「凄いわね!」


 なぜだろう。理由は分からないけれど、アスターとは会話が弾む。こうして話していると、ずっと昔から知り合いだったみたいな感覚だ。


「もしかしてアスターさん、お菓子作り名人?」

「いやいや。名人というほどではないよ」

「けど、綿菓子を作れるなんて凄いわ」


 そんな話をしていると、突如、父親が口を挟んできた。


「あーっ! イーダぁ! どうしてそんなに仲良しなんだぁっ!?」


 品の欠片もない大声だ。


 正直、こちらまで恥ずかしい気持ちになった。

 けれど、仕方ない。彼はいつだってそういう人だから。これが彼の素ゆえ、今さら変えることはできない。もはや諦める外ないのである。


 ーーが。


「イーダはアスターのことが好きなのかぁーっ!?」


 これにはさすがにイラッときてしまった。


「ちょっと、父さん! 何を言い出すのよ!」


 思わず鋭く言い放ってしまう。


 当事者の父親はもちろん、リンディアやベルンハルト、アスターまでも、驚いた顔をしていた。

 いきなり鋭い物言いをしたのだから、驚かれるのも無理はない。ただ、場にいる自分以外の人全員に戸惑いの混じった驚きの顔をされるというのは、複雑な心境だ。


「あ……ごめん、なさい」


 取り敢えず謝罪しておいた。

 すると、珍しくベルンハルトが口を開く。


「貴女でも、そんな物言いをするのだな」


 幻滅されてしまっただろうか。

 ベルンハルトに嫌われるのは嫌だ。だから、不安になった。


 ——しかし次の瞬間、その不安は払拭された。


「なんというか……意外だ」


 そう言って、ベルンハルトが頬を緩めたからである。


 今度は私が驚く番だった。なぜって、彼が笑みを浮かべるところなんて滅多に見かけないから。ベルンハルトが笑った、なんて、「天変地異の前兆」と言っても過言ではないくらい珍しいことだ。


「おぉ!? ベルンハルトが笑った!」


 密かに驚いていたところ、父親がそんなことを言った。


「いやー、珍しいこともあるものだなぁっ!」

「確かに珍しーわねー」


 父親とリンディアがそれぞれ述べる。


 ベルンハルトが頬を緩めるという珍しい現象が発生したことに気がついたのは、私だけではなかったみたいだ。


「お! もしかして、イーダの可愛さに気づいてきたのかぁ?」

「従者が主に恋するなーんて、本当に起こるのね。小説の中だけの話だと思ってたわー」


 ベルンハルトは眉間にしわをよせながら「違う」と返す。しかし、すっかり楽しくなってしまっている父親とリンディアは、止まらない。


「無理もない! イーダは可愛いからなぁ!」

「青春って感じでいーわね」



 結局、途中からはベルンハルトを冷やかす会と化してしまっていた。


 しかし、アスターを雇うことに関しては、父親が「自分が上手くやる」と言ってくれたので、今日のところはこれで上出来。ひとまず、私の目標は達成された。


 これでまた仲間が増える。仲良くできる人が増える。


 それはとても嬉しいこと。


 ついこの前まで従者さえ拒んでいた私が言うと、妙に聞こえるかもしれない。が、今は、周囲に人が増えることを、純粋に「嬉しい」と思えるのだ。


 私がこんな風になれたのは、ひとえに、周囲の人たちのおかげ。

 父親、ベルンハルト、リンディア——多くの人が支えてくれたから、現在の私がある。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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