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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
11.動き始めるまでの

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101話 みんな頑張る

 それから二三日が経っても、アスターは目覚めなかった。


 ベッドの上の顔を変わらず穏やかで。けれども、意識が戻ることはなく。

 そんな状況のまま、時だけが流れてゆく。


 私の周りは、また、ベルンハルトとリンディアだけになってしまった。


 マイペースながらいつも周囲を癒やしてくれていたアスターがいなくなって、何だか寂しい。彼がいた間はアスターのことを考える時間なんてさほどなかったけれど、彼がいなくなってからは、彼のことをよく思い出すようになった。



「まだ意識が戻らないのね」

「そーなのよー。変よねー」


 夜中の襲撃から四日、私は、病室のベッドで眠るアスターに会いにいった。


 ちなみに、ベルンハルトはフィリーナを捜索するということだったので、今はリンディアと二人である。


「解毒は済んだみたいなのよー。でも、まだ起きない。どーなってんのかしらねー」


 同感だ。

 いや、解毒が済んだみたいということは知らなかったわけだが。


 ——しかし、それにしても、こんなに起きないというのは不思議で仕方ない。


 何がどうなっているのやら。


「もしかして……寝不足だったから?」

「いや、それはないでしょー」


 まぁそりゃそうよね。

 一応言ってはみたけれど、よく考えてみれば、寝不足が関係しているなんてあり得ないわよね。


「なら、えぇと……なかなか思いつかないわ」

「思いつかないってー?」

「アスターさんが目覚めない理由」

「べつに考えなくていーわよー」


 それもそうか。

 理由を考えたからって、アスターが目覚めるわけじゃない。


「ところで、ベルンハルトはー?」


 リンディアは両手を腰に添えて立ちながら、軽い調子で尋ねてきた。その表情は、雲ひとつない空のようにさっぱりしている。


「今はフィリーナを探していると思うわ」


 私はそう答えた。

 するとリンディアは、低い声を発しつつ、ほんの少し眉間にしわを寄せる。


「フィリーナ? ……ふーん」


 リンディアがなぜこんな顔をするのか、謎だ。


「何か問題があるの?」

「いーえ。ただ、フィリーナは裏切り者だったのねー、って思っただけ」


 ほんの僅かに視線を上げ、宙を眺めながら、リンディアは漏らす。


「裏切り者……」


 彼女の言葉を聞いて、私は思わず呟いてしまった。


 何だか、悲しくて。


「王女様にフィリーナを紹介したのって、確か、星王様だったかしらー?」

「えぇ、そうよ」


 リンディアと話しながら、眠っているアスターの顔面を一瞥する。やはりまだ眠っていた。


「だとしたらおかしー話よね。星王様が王女様を狙うわけないのに、フィリーナが王女様を裏切るなんてー」

「想像でこんなことを言ったら失礼かもしれないけれど……またシュヴァルが関係しているのかもしれないわね」


 私の発言に、リンディアは一瞬黙る。が、すぐに口を開く。


「確認しなくちゃ駄目ねー」

「じゃあ、私が確認してくるわ! 父さんから話を聞いてみる!」


 みんなに任せてばかりというわけにはいかない。一つでもできることがあるならば、私も頑張ってやっていかなくては。


「一人でだいじょーぶ?」

「えぇ。たまには私も何かしたいの」

「くれぐれも気をつけるのよー」

「もちろん!」


 胸の前で拳を握る。

 やる気に満ちてきた。


「あ、ところで一つ聞いてもいい?」

「どーぞ」

「ラナたちから何か情報はあった?」


 それに対し、リンディアは首を左右に振る。


「それが、まだなのよねー。なかなか吐かせられないのよー」

「リンディアが吐かせられないって……ある意味凄いわね」

「本当よー」


 ひと呼吸空けて、彼女は続ける。


「ま、お互い頑張りましょー」


 リンディアも、ベルンハルトも、色々頑張ってくれているのだ。私も頑張ろう。


「そうね! じゃあ、父さんのところへ行ってくるわ!」

「行ってらっしゃーい」


 こうして私は、リンディアと別れた。


 アスターの寝ている病室を出て、星王の間へと向かう。



 廊下を一人で歩く。


 星王の間に向かって、歩く。


 自室の外を一人で歩くのは、いつ以来だろう。ベルンハルトらと出会ってからはもうずっと、一人で歩いていないような気がする。


 ……いや、一人で歩いたこともあったか。


 ラナらに襲撃された夜だ。


 私は、自室から従者の部屋辺りまで、一人で移動した。


 しかし、あれは夜だった。だから、誰とも合わなかったように思う。

 けれども、今は夜ではないため、侍女とすれ違うこともよくある。


「こんにちは!」

「あっ……こんにちは」


 ふと気が向いたため、私は、元気に挨拶してみた。すると、通りすがりの侍女に引かれてしまった。


 確かに、私はあまり陽気な方ではない。そのことは有名だ。だから、そんな私にいきなり挨拶をされて、彼女は驚いたのだろう。


 慣れないことをするのは、ある意味難しい。



 星王の間の前へ着く。


 豪華さのある扉の近くには、警備の者が二人立っている。

 二人ともがっしりした体つきの男性だ。かなり厳つい見た目をしているため、小心者の私は声をかけられない。


 どうしよう……。


 早く父親に会いたい。なのに、勇気がなくて会えない。


 どうすれば。

 そんな風に考えながら星王の間の前を彷徨(うろつ)いていると、警備の男が声をかけてきた。


「王女様、何をなさっているのですか?」


 ——う。


 向こうから声をかけてきてくれたのはありがたいが、まだ心の準備ができていない。


「あ、えっと、父さんを探しているの」

「星王様を、ですか?」

「えぇ。今、部屋にいるかしら」

「いらっしゃいますよ」


 あ、意外と普通。

 厳ついのは見た目だけのようだ。


「入っても構わないかしら」

「はい。では、お開けしますね」


 警備の者が、星王の間へと続く扉を開けてくれた。


「どうぞ」

「ありがとう。助かるわ」


 開けてもらった扉を通過し、私は星王の間へと入っていく。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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