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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
11.動き始めるまでの

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100話 雑草は根っこから

 ベッドの上で眠るアスターは、意外に穏やかな顔をしていた。


 幾本ものよく分からない管で機械に繋がれているにもかかわらず、単に眠っているだけ、というような寝顔である。


 そんな彼の顔を、リンディアはじっと見つめていた。

 何か思うところがあるのだろうな、と推測しつつ、私は彼女へ声をかけてみる。


「あの、リンディア」

「なーに?」


 アスターの寝顔に視線を注いでいたリンディアが、体ごと私の方を向く。その時、彼女の表情は、明るさを感じられるものへと戻っていた。


「ごめんなさい」

「え?」


 彼女は眉をひそめる。


「アスターさんまで巻き込んでしまって、ごめんなさい」


 私の従者になっていなければ、アスターはこんな目に遭わずに済んだかもしれない。

 そう思うと、胸が痛んで。


「ちょ、なになにー? 王女様ったら、いきなりどーしたのよ?」

「もう二度と悲劇を繰り返さないと、心に決めてはいた。けれど、またこんなことになってしまって……私、自分が情けないわ」


 いつもはわりとでしゃばってくるベルンハルトだが、今は口を挟んでこない。自分が出ていかない方がいい、と考えてくれているのだろう。


「アスターさんがこんなことになったら、リンディアは辛いでしょう? それは二人共に迷惑をかけてしまったということで……だから、ごめんなさい」


 私は王女だけれど、それはただ星王家に生まれただけのことであって、この命に他人の命以上の価値があるというわけではない。


「痛かっただろうし、怖かっただろうし、アスターさんには酷いことをしてしま——」

「なーに言ってんのよ!」

「……リンディア」

「いい? アスターは王女様じゃないのよ。護られる側の人間じゃないの。負傷することくらい、慣れてるわ!」


 リンディアははっきりと述べた。


「まーずは、任務を達成すること。それが一番なのよ!」


 しっかりした口調だ。


「けれど、刺されて……」

「刺されたくらいじゃ死なないわよー」

「毒も……」

「対処すればどーにかなるわー」


 リンディアは、私の発言に相応しい返しを、スピーディーに放ってくる。


「えっと……大丈夫なの?」

「とーぜんよ!」

「気を遣っているわけではなく?」

「そりゃそーよ! いくらあたしでも、さすがに嘘はつかないわー!」


 リンディアは、あっけらかんとそんなことを言いながら、笑みをこぼしていた。

 爽やかと明るいが混じったような表情だ。


「さ。それより、次のことを考えましょー」


 その時になって、ベルンハルトがついに口を挟んでくる。


「それが賢明だな」


 すかさず入ってきた。

 やはり、話を聞いてはいたようだ。


「襲撃者をぷちぷち潰していったところで、イーダ王女が狙われることに変わりはない。雑草は根っこから抜かなければ意味がないのと、同じようなものだ」

「そーねー。ま、例えがちょっとおかしーけど」


 仕掛けてきた敵を順に倒していくだけでは何も変わらない、ということは、素人の私にも理解できる。


「シュヴァルが真の敵であることを明らかにし、その上であの男を倒せば、すべて終わりだ」

「ちょっと、ベルンハルト」

「何だ、イーダ王女。他に何か作戦があるのか」

「シュヴァルはリンディアのお父さんなのよ。倒す、なんて言ったら、酷だわ」


 リンディアとシュヴァルの関係は、父娘とはとても思えないものだ。しかし、それでも、「シュヴァルを倒す」なんて言われれば、良い気はしないだろう。


 仲良し父娘だろうが、疎遠寄りの父娘だろうが、血の繋がりがあることに変わりはないのだから。


 ——そんな風に考えていたのだけれど。


「あたしは酷とは思わないわよー」


 リンディアはケロッとしていた。

 私の想像とはまったく逆だ。


「それじゃーあたし、もう少ししたら吐かせに行ってくーるわ」

「吐かせに……って? 胃を押したりするの?」

「やーね、違うわよ! ラナとミストを取り調べて、情報を聞き出してくるーってこと!」


 なるほど、そちらだったのか。


「では僕は、フィリーナを捕まえてこよう」

「どーしてよ?」

「メインで襲ってきたのはラナともう一人の女だが、フィリーナも荷担していた。襲撃者に協力した者は、襲撃者側の人間に違いない」


 淡々と述べるベルンハルト。

 その瞳は、定規のように真っ直ぐな視線を放っていた。


 無論、その視線の先にいるのはリンディア。


「アンタって……案外過激じゃなーい?」

「捕らえるだけだ」

「敵にはよーしゃないのねー」


 リンディアが言うと、ベルンハルトは視線を床へ落とす。真剣なことを考えているような顔だ。


 それから数秒ほど経って、彼はしっとりと発する。


「そうするように習ったから。それだけだ」


 ベルンハルトは過去を懐かしむような目をしていた。


「へーっ。アンタがいたとこって、けっこーきっつい世界なのねー」

「外に比べれば、厳しいところだ。だが、生まれた時からそこにいたならば、さほど厳しいとは思わない」

「ふーん。ま、何でもいーわよ」


 リンディアはガタンと椅子から立ち上がる。


「じゃあ動きましょーか」

「そうだな」

「行ってくるわねー」


 手を振りながら、リンディアは部屋から去っていった。


 彼女とて無傷であったわけではない。多少毒も入っている。にもかかわらず、彼女はいつもと変わらない足取りだった。



 こうして、私とベルンハルトだけが部屋に残された。


 アスターはまだ眠っている。ベッドの上で横たわり、少しも動かない。が、呼吸はしている。そのことを考えると、命を失ってはいないようだ。ただ、意識が戻らないだけなのだろう。


「ねぇ、ベルンハルト。アスターさん、ちゃんと治るのかしら」


 ずっとこのまま眠っていたら——不安になって、私は発した。


「治ると言われているなら、治るのだろう」

「絶対、かしら」

「僕は医者ではない。それゆえ、絶対かどうかなど分かるわけがない」


 確かに、それはそうだ。

 絶対かどうかなんて、愚問である。


「ただ、アスターがそう易々と黙るとは思えないからな。数日もすればまた陽気に話し出すのでは、と、僕はそう考えている」


 ベルンハルトはアスターのことを信じているようだった。


 そうよ、私も彼を信じなくちゃ。彼は年老いているけれど、普通の年老いた人じゃないんだもの。


「……そうよ。そうよね!」


 悪くばかり考えるのは、もう止める。これからは、前向きなことを考えていこう。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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