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「驚いた? 驚いたよね!」
喜色満面、というには表情が読み取れないが、緑色のヒトデ付きソラマメはキャッキャとはしゃいで八の字にぐるぐると中空を飛び回った。
これは風の精霊ですわ。否定する材料がない。
私は例の如く正座した。
それに倣って風の精霊も正座した。私の目の前に。
見つめ合う、というかたぶん見つめ合ってる。目がないから分からんけど。
「君、何の精霊?」
そしていきなり核心をついてきた。
いや、風の精霊だと思ってたんだけど目の前にいるし、まだ見ていないのは火の精霊か。いやしかし、それっぽい身体的特徴がどこにもない。
つまり、私は何物でもない事になる。
「ええと……無の精霊、です」
そして結局、水の精霊へ伝えたのと同じ答えを絞り出した。
芸がないとか言うんじゃない。精一杯考えてもこれくらいしか出てこないんだ。
嘘をついても良いけれど、精霊って事はその事象への干渉が可能なんだろう。水も地もそれぞれ身近なそれを操っていた。
下手に重力とか時空とか言ってみなさいよ、証拠を見せろと言われた時点で詰むわ。
「ふぅーん、へぇー。聞いたことないね?」
でしょうね。
無属性って取り扱いは定義が難しいもの。いわゆる、その他って感じだから。
分類できない余り物をごちゃっと詰め込んだらできあがりですわ。
「まあいいや、君の動きを見てたけどさ、中々面白いね?」
見とったんかい。
っつーか面白がってないで助けてくれれば良いものを。
「僕も弱いからよく逃げるけど、あんな風に無様に這いつくばりながらなんてなかなかできないよ。必死だったねぇー」
うるせぇよ。
そうしないと餌食になるじゃないか! 身の危険を感じたら逃げる! これは生き残る上で大事なことでしょ!
って、ん?
「弱い?」
「ん、そう。四属性中で一番弱いんだ。だからいつも昇華の時まで逃げ回って、誰かに捕まらないようにしてんの」
それはそれは……いつも?
うーん、水の精霊の言っていることといい、この昇華とかいう作業、何度もやってることなのか?
だったら少しずつでも進歩しても良いと思うんだけど……何度やっても何度も失敗しているのか、うーん。
「ねぇ、君はなんでここに居るの?」
考えていたら風の精霊にそうつっこまれた。
なんでって、言えるわけないわ。でもそうか、四属精霊ができないから、いい加減なんとかしたくて今回の依頼になったわけか。
なんつーか、今までのよく分からん仕事と違って目的がはっきりしていて良いね。上位精霊を作る意味なんて分かり易いし。
「なんでか居ました」
「そっか。まあ、そういうこともあるよね」
納得したよ。自分でもどうなんだそれって思ったんだけど。
どうやら精霊は細かいことを気にしない、もしくは風の精霊らしくコイツが気まぐれを起こしたんだろう。
現に、正座にも飽きたようで、近くに生えていた小さい木の枝に掴まってぐるんぐるん回っている。縦回転じゃなくて横回転。燃焼系だ。
「あの、一つ良いですか」
「んー、なぁに?」
「同じ事を何度も繰り返しているみたいですが、四属精霊へ昇華しないんですか」
そう、これが一番の疑問。
昇華の日や昇華の試練、はたまた儀式は何度も行っている様子であるのに、実状は合体行為をしていない。いや、エロい意味での合体じゃなくて四属精霊への昇華って意味での合体ね。合体ロボ的な合体ね。釣りバカじゃなくて。
これって問題じゃない? ただその日が来たら良いって事じゃないでしょ。何かしらしなきゃいかんとですよ。
「してないね」
そしてソラマメの回答はあっさりしたものだった。
うん、わかった。結果が全てと言いたいんだな。
って事はあれか、こいつらは同じ過ちを犯しているがまったく改善しない馬鹿どもということか。
うーん、水の精霊が主となるとか言ってたから、おそらく権力争い、つまり暴力争いでもしてるんだろう。
回数をこなしても自分が一番であるとの自信を持っているから、さらに上に立とうとしていがみ合う。そん仲違いの状況で事が上手く運ぶはずがない。
この状況打破しないといけないのか……。
地道な啓蒙なんてしたところで効果はなさそうだ。というか、ワガママ自己中相手にリーダーシップ発揮できる性格ならこんな所に出張なんてきてないわ。もっと自分のしたい仕事就けてるわ。
「ということでね、弟子よ」
「!?」
いつの間にか弟子になった!
友好的だけどやっぱりコイツも精霊の一種なのか。
攻撃されるかと身構えた、というか逃げるために体勢を整えたら、実行に移す前に手を取られた。
がっしり握手というわけではなく、吸盤に吸着するような感覚であるのがなんとも言い難い。ヒトデであることの証明としか思えん。
「弱々な僕を、火の精霊に勝てるくらい強くしてほしい」
「……ん?」
え、何、どういう事?
こっち来てからの私の行動といえば、質問と逃走くらいだ。それはコイツも見ていた。そこから、風の精霊が言うような結論を導き出すのは無理がある。
一体何を考えてるんだ。
じっと見ていたからか、考えが顔に出ていたからか、前髪代わりのごんぶとな横向き蕨がぼよんと揺れた。
「四属精霊じゃないだろう? だったら別の役割があるって、そう考えてもおかしくはないよね」
おかしくはない……のか?
というか、それ以外の理由で思い付くことはない。
さすがに神様からの派遣とはバレてないだろうし。それに気付いてたとしたら、こんな所で一属性の精霊なんてやってないでさっさと神格化しろと言いたい。
「そ、そうですか」
「うんうん! ということで我が弟子よ! 秘策を用意するのじゃ!」
最終手段を弟子に頼るとか意味分からんけど、まあ色々と親切に教えてもらった事もある。
それに、他の属性精霊に台頭されるより、このまま風の精霊が全体を支配してくれた方が上手くいきそうな気もする。
誰かに肩入れするなとも言われていないし、ここまで集めた情報から判断するに、昇華のために中心となる精霊が必要なようだから風の精霊を支援するのが妥当なところだろう。
「ええと、分かりました」
「よし、じゃあいこう!」
「ちょっと待って!?」
せっかちすぎないかな?!
何の作戦も伝えてないし、むしろ考える時間もないし! さすがに無理があるから! まずは落ち着いて考える時間をいただきたい!
それからしばらく、作戦を立案し、それを説明する時間をなんとか作ってもらう。特徴を聞いたら、まあほぼ想像通りだったので、一般論としての戦術を考案することにした。
そしてソラマメとジャガイモは、まだ見ぬ火の精霊へと戦いを挑むのだった。
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