26.オマケ
死ぬ間際には人生が走馬灯のように過るという。
イズイナートの当主として、娘よりも長く生きた。その報いとして地獄に行くだろう事はわかっていたが、その前に人生を振り返れというのは、どんな余興であろうか。
当代きっての切れ者であり、最後のイズイナートは目を閉じた。
最初に出てきたのは、幼少期の自分だ。
人より優れていることは何一つないと自覚していた。剣技も魔法も貴族としては落ちこぼれと言わざるをえないものだった。だから必死に他人の顔色をうかがって、おべっかばかりが上手くなった。
そのうち、自分の言葉に力があるとわかるようになった。身分があるためだ。これを利用しない手はないと思った。同時に、無知ではいられなくなった。利用する前に利用するしかなかった。
舌鋒は鋭くなり、同時に事細かに話すことは少なくなっていった。
学園で真意を読み取れる友人ができたのは幸いだった。更に、彼が自身に仕えてくれたのは僥倖だった。
特に目立った成績を収めたわけではないが、政治に必要な人材には縁を作ったし、一目置かれる存在にはなれた。政敵とされるランディアルとも裏で結託し、生徒達を巻き込んだイベントで周囲を熱狂させることもあった。
楽しかっただけの日々は終わりを告げたが、政治はつまらないことばかりではなかった。
己の性格に向いていたのだろう。蒔いた種も着々と芽を吹き始め、実りある国政が期待できそうだった。
そこに出たきたのがランディアルの息子であり、思った以上に親馬鹿な友人だった。
これはマズいと思った。
確固たる証拠はあるわけではない。だが、人を見て育った経験からか、ろくでもないことになると勘が告げていた。
仕方なしに子供を作ることにした。
だが、下心があったからか恵まれなかった。
こればかりは天の采配と諦め掛けたとき、赤子ができた。でも娘だった。
その時の落胆と、実物を見たときの驚愕と、幸福感は生涯忘れられないものとなった。
ああ、こうやってランディアルは馬鹿になったのか、と理解した。
私は娘の扱いに注意した。その後もしばらく子作りは続けたが、成果が出ないのでやめた。
ランディアルが馬鹿息子を後継者にしようとしていると知って、口では祝福しながら頭ではどうしたものかと考えていた。
はっきり言って親戚筋に当たる男子くらいしか才能のあるものがいない。だが、息子に肩入れしている友人の耳には何も届かないだろう。
学園に期待するしかないと思った。他の貴族も集まる場所で失態を犯せば、親がどんなに言いつくろおうとも将来に期待はできなくなる。
娘の年齢は足りなかった。だから無理にでも同学年になれるように勉学に励むよう入れ知恵をした。
学園に入学する生徒名簿の中にひときわ身分の低いものを見付けたので、ランディアルの馬鹿息子が入れ込むように、まずは言葉巧みにランディアルを唆した。これには彼女の名前が役立ってくれた。
実の娘にはどうでもいい用事を言いつけた。万が一の策であり、上手くいこうとそうでなかろうとどっちでも良かった。
ただ……それによって周囲の見る目が変わることはわかっていた。
娘を政治の表舞台に出す気はない。それほどの器ではない。それに、可愛い我が子を誰かに取られるのも癪だった、というのもある。
果たして計画は上手くいき、馬鹿息子を社交の場で見かけることはなくなった。
代わりに台頭してきたのは、古の血族の名前を持つ養子だ。ランディアルが引き取らねば、私が貰う予定だった男子で、その旨はランディアルにも伝えてあった。彼は、私に目をつけられるほど優秀であると当主も知っていたわけだ。
娘は、学園で仲良くなった一人の使用人と別れてから、少し大人びた。
代わりに、当て馬にした身分の低い娘を雇い入れ、イズイナートの領地経営を上手くやってのけた。
私は養子を取り、育成した。私よりも学業成績は良かったので、飲み込みも早く、イズイナートとランディアルは今でもこの国の二柱として機能している。
それにしても、と思う。
ほんの数日間であるが、雇い入れた者のことを思い出す。
娘が一瞬で懐き、ほんの数日で私から呼び出す口実を作り上げた。犯罪まがいの手段ではあったが、確実だった。
そのずる賢さと実行する豪胆さは中々のもので、あれで男児だったらそのうち娘婿にと考えていたかもしれない。
可もなく不可もない家の娘がいきなり台頭してきて、焦って計画に大幅修正を入れたのは後にも先にもあの時だけだ。学生時代の熱狂を思い出した。
「………」
口が長年慣れ親しんだ友人の、執事として長く勤めてくれた彼のことを呼ぶ。
もはやいないというのに。
人生で最も愛したと言っても良い娘の名前を呼ぶ。
彼女も先に逝ってしまった。
後を継いだ養子の名を呼ぶ。
今は執務を行っているだろう、こんな場所にいるなら叱りつけなければならない。
あの時の娘の名はなんと言ったのか、忘れてしまった。そういえば叔父が禁忌術を行っていたのだったか。投獄されていたはずだ。
彼女は馬鹿息子を引きずり下ろした立役者であり、功労者。彼女には感謝をしている。その代わりに雇用したことで、恩を返せていたら良いと思う。
……いや、身分の低い者に感謝など、本当に死が近いのだろう。
この国の先行きに不安がないと言えば嘘になる。
だがいつだって未来は見えず、その為に準備し、予想外のことに面食らい、駆け抜けてきた。
楽しかった。
そう思うのはおこがましいだろうか。
イズイナートは咳き込んだ。
慌ててメイドが身体を支えようとし、医師が押しとどめる。
口から吐き出される血の塊が黒い。長生きした証拠だ。
少しだけ苦しんで、イズイナートの身体は動かなくなった。
家族はなく、使用人に囲まれての臨終。仕事に生きた男の最後だった。
***
あとがき・設定
・プロットについて:
学園もので些細なことがきっかけでお家騒動と国家を巻き込んだ事件に発展するっていうのをやりたかったが無理だった
・今回の設定
メルディナ:とにかくお姉さまと言わせたかった昇格ヒロイン
アカネ:いつの間にか腹黒になった降格ヒロイン
ミケリア:なんかいた
ランディアル:パッパ
ギュス:なんかいた
ミズホ:なんかいた
カドウ:なんかいた
イズイナート:気付いたら
グリーディ:イズイナートに話をさせるのは違和感あったので
・裏話
メインは紺今くんです。
普通の乙女ゲー展開を考えていたけど色々矛盾があって無理だった。
ロリッ……! ショタっ……!
学園に同士が多すぎるんだがいつの間にああなった。




